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第15話 密着
「っと、そろそろ帰らないと」
そろそろ陽が落ちる頃。ルーカスはスケッチブックから視線を外し、小さく息を吐いた。
数時間もずっと絵を描き続けたせいで少し手が痛いのか、右手をブラブラと揺らしている。
「お前の足じゃ遅くなるだろ。送ってく」
「ありがとうございます、助かります」
「しっかり捕まれよ」
「はい」
また担がれるだろうと思っていたルーカスはお腹に力を入れたが、予想していた抱き方をされなかった。
そっと横向きに抱き上げられ、思い切り密着している。彼の胸の厚みや体温を感じて、ルーカスの顔はドンドン赤くなっていく。
「どうした」
「いっ、いえ……」
「そうか。じゃあ、行くぞ」
ヴァイスは走り出した。
抱きかかえたルーカスを落とさないように、腕に力を込める。
人の体温なんて毎日のように触れているのに、なぜ緊張してしまうのだろう。
やっぱり彼が人と違うからなのか。
ルーカスは興奮してフェロモンが溢れないように、無心になろうとする。
落ち着け。落ち着けと、必死に自分に訴えかけているのに、胸の高鳴りは治まらない。
その血は薄れているとはいえ、彼はかつて人間を支配していた獣人の子。そしてアルファだ。人間のアルファよりもずっと強い力がある。
オメガ性であるルーカスが彼に反応するのも無理はないのかもしれない。
森の出口に着き、ルーカスを下ろした。
どうにか耐えられた。ここで発情してヴァイスに迷惑を掛けたくもなかったし、もうすぐ主人も来るはず。発情期《ヒート》でもないのに興奮状態になっていたら、普段の行動を怪しまれてしまうかもしれない。
「あ、ありがとうございました」
「ああ。それより、明日も来るのか」
「え、あの……ヴァイスさんが、迷惑でなければ……」
「そうか。なら、またあの場所で待ってる」
「っ! は、はい!」
「……っ」
ほんのり赤くなった顔で微笑まれ、ヴァイスは思わず息を飲んだ。
移動してる間も少し感じていたが、この少年に触れていると変な気持ちにされられる。
必死に理性で押さえつけたが、欲情を煽られる。
「お前……この前の薬はどうした」
「え……あ、抑えられてませんでしたか……我慢したつもりだったんですけど……」
「いや、平気だ。薬がないなら、母さんの使っていたやつが残ってるけど……いや、さすがに古すぎるか」
「そ、そうですね」
「だったら、今度そういうのを和らげる薬草を持ってきてやる」
「あるんですか?」
「薬の材料にも使われるものだ。母さんもたまに使ってたし、効くと思う」
「それは、助かります。薬が減ってるのをご主人様に知られたくなかったので……」
ルーカスはホッと胸を撫で下ろした。
これで薬の問題は解決する。あとは主人にさえバレなければ、これからもヴァイスに会える。
彼の絵を描くことが出来る。
「じゃあ、また明日」
「ああ。またな」
ヴァイスに手を振って、ルーカスは家へと駆け足で戻った。
その背中を見送り、ヴァイスも森の中へと戻る。
薬を使うことすら主人に知られると困るのか。ヴァイスは彼の奇妙な言動が気掛かりで仕方なかった。
神様に愛されている。その言葉の意味を知る方法はないだろうか。
ヴァイスは小屋の中に何か手掛かりがないか調べることにした。
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