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第19話 計画
唇を離し、互いに見つめ合う。
触れてしまった。相手の熱を覚えてしまった。
ルーカスは胸の奥から込み上げてくる感情に、さらに涙した。
「帰りたくない……」
「……っ」
「でも、できない……出来ないんです」
泣きじゃくるルーカスの背中を抱きしめ、ヴァイスはまた失敗したと心の中で後悔する。
何故近付いてしまったんだろう。彼を困らせるだけだと分かっていたのに。
本能を止めることが出来なかった。
どうすればいい。
どうすれば、この少年を守れる。
「……お前、もしかしたら力には目覚めてるんじゃないか?」
「え?」
「お前が言ってたおまじない。あれが、魔法なんじゃ……」
「魔法? どういうことですか?」
「神様に愛された少年は、特別な力を得た。その力で少年は皆の望みを叶えた……昔、ジジイが読んでくれた絵本に書かれていた」
「……望みを、叶える力」
「お前はおまじないとして使っていたが、もしかすると願えば他のことだって出来るかもしれない」
ルーカスは自分の手のひらを見つめた。
おまじないじゃなくて、魔法。正直信じ難い。
あのおまじないも、屋敷に引き取られたばかりの時に何となくやっていただけ。
離れにいつ誰が近づいてくるのか分からない恐怖に怯えるのが嫌で、ドアに向かってお願いしていた。人が近付いたら教えてください、と。
そしたら、いつの日か分かるようになった。遠く離れた場所にいても感覚で気付くようになった。
だから内緒で外に出られるようになったのだ。
これが、ただのおまじないではなく無意識に使っていた魔法の力だとすれば。
「……じ、じゃあ、この力でご主人様の願いを叶えてあげればあの屋敷から出られますか?」
「いや。力があることを知ったら逆にお前を離そうとはしない。記憶、それか性格を変えるとか出来れば……」
「で、でも僕、どうやってこの力の使い方なんか分からないです。おまじないとしか思ってなかったし……」
いきなり魔法が使えると知っても、それを自由自在に操れるわけじゃない。
だが、このままルーカスを離れに帰したら彼はいつものように主人や大勢の男たちに犯されてしまう。
「……だったら、俺がお前を攫う」
「え?」
「お前が自ら逃げ出したのでなければ、孤児院に手を出したりしないだろ」
「そんなことしたら、ヴァイスさんが悪者にされちゃう! 何をされるか……」
「この森は元々、獣人の住処だ。そう簡単に人間が入れる場所ではなかった。何故かお前は平気だったが、野生の獣も多い。そう簡単にこの場所は気付かれない」
「でも……」
「そう余裕もないだろうけど、その間にお前の力を引き出す方法を見つけよう」
「……もし、出来なかったら?」
恐怖を帯びた彼の瞳に、ヴァイスは安心されるように微笑んだ。
「そん時は、一緒に死んでやるよ」
なんて殺し文句だろうか。
だが、このまま知らない男に犯されるくらいなら彼と共に死んだ方がマシだと、素直にそう思える。
ルーカスは返事の代わりに、彼に口付けた。
「貴方とだったら、死んでもいい」
「まぁ、本当に死ぬつもりはないけどな」
「ふふっ」
まだ出会って数日しか経っていないのに、どうしてこんなにも彼のことを愛おしく思うのだろう。
これが、運命というものなのだろうか。
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