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第20話 接吻
呼吸を忘れるほど、二人は唇を重ね合った。
ルーカスは、これまでもキスなんて沢山してきた。それなのに彼とのキスは比べ物にならないくらい気持ちよくて、体が蕩けそうなほどだ。
彼とのキスが自分にとって初めてのものだったら、どれほど嬉しかっただろう。
ヴァイスの唇の温もりだけを知っていたかった。
それ以外のものなんて記憶から削除してしまいたい。
「っ、ふ……ヴァ、イス、さ……」
「……不思議な、感覚だ……お前とこうしていると、頭がボーッとしてくる……」
「……っ、あ!」
ルーカスは慌ててヴァイスの胸を押して離れた。
忘れていた。今まで、自分を抱いた者たちがどうなったのかを。
「そうか。分かった……僕、多分魔法? ってやつを使うのに、人の生気を貰ってるのかもしれません」
「なに?」
「実は、今まで僕のことを犯してきた人たち、行為の直後は必ず気を失うんです。暫くすれば起きるんですけど……」
「なるほど。アルファの恵まれた体力を使ってお前に力を与えていたと……」
「そうか。だからご主人様は僕のことを抱かなかったのか……結構な歳だし、そんなことしたら死んじゃうかもしれない」
「ってことは、今お前は俺の生気を奪ったのか。だったら、もっと与えれば強い力を使えるかもしれない」
「え、でもそんなことしたらヴァイスさんが倒れちゃう」
「普通の人間と一緒にするなよ。俺は獣人の子供だ、さすがに今倒れたらお前を攫いに行けないから全てをあげられないが……」
ヴァイスはもう一度ルーカスに口付けた。
「あの屋敷から攫ったら、お前は俺の番にする」
「っ!」
「いいな、ルーカス」
「っ、うん。うん、うん!」
ルーカスはヴァイスに抱きつき、喜びの涙を流した。
運命なんて言葉、信じていなかった。そんなものがあるなら、こんな辛く苦しい思いをするのも神が与えた運命とでもいうのか、と。
でも、今なら信じてもいい。
この悲しみも痛みも全て、彼に出逢うためだったのだから。
「……僕、こんなにドキドキしたの初めてです」
「俺もだ」
「オメガに生まれて良かったって思えたのも、初めて」
涙を流しながら、ルーカスはヴァイスに口付ける。
触れるだけのキス。何度も、何度も、啄むように。
こんな簡単に人は恋に落ちるのか。
彼のこと、自分のこと。お互いに知らないことが多いのに。
だが、ルーカスは思った。
知らないから、知りたい。そう思う心が、恋に繋がるのかもしれない。
もっと相手のことを知りたい。自分のことを知ってほしい。
他人に対してそんな風に思ったこと、今まで一度もなかった。無関心だった。
「会ったばかりの人を好きになるのって、変ですか?」
「良いんじゃないのか。俺の父親だって、母さんに一目惚れしてるらしい」
「そっか。じゃあ、おかしくないですね。きっと、僕もヴァイスさんに一目惚れしたんです」
「物好きだな」
「ヴァイスさんは?」
「…………そうだな。俺も、物好きなんだ」
神様も信じていない。
だけど神様が愛してくれているのであれば、願わずにいられない。
愛する人との未来を。
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