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第二十八話 始まったばかりのお話
時計の短い針が八を指した。夏休みでなければ、きっと漫画の中の女子高生なら食パンくわえて通学路を駆け出している頃、
スー………スー……
シーツを換えたベッドの上。濃厚なセックスのおかげで全身にかいた汗をシャワーで洗い流した
二人。着替えの無かった愁は、上半身裸でタオルケットをかぶって、すやすやと眠っている。
“僕のシャツ……愁くんには、ちょっと小さかったから……今度は着替えも用意しとかなきゃ……”
同じタオルケットをかぶり亀みたいに首を出す葵。良い夢を見れたせいなのか昨夜の疲れもどこへやら、
「はぅ……」
“今度って…………もう、次を……と、というか、
僕って……あんな……エッチだったんだ……”
すっきりと目覚めてからは、拙くも自分を一生懸命に愛してくれた少年の寝息を聞きながら、見慣れた天井を眺めている。
“うんん……し、しょうがない……よね……♡
愁くんに……か、彼氏に……あ、あんなに求められれば……誰だって……♡♡ ”
昨夜のことを思い返すと頬が熱くなり、
タオルケットの端っこを握る、きめの細かい指先にキュ……と力が入り、
“しかも……激しいだけじゃなかったし……
ちゃんと僕のこと気遣ってもくれて、なんていうか……あたたかくて……すッ……ごい、気持ちいくて……♡♡♡ ”
なんとも言えない幸福と甘酸っぱい恥ずかしさが、おさえてもおさえてもむらむらとこみ上げてくる葵は、二人で寝るには少し狭いベッドの上で器用にころんと寝返って横を向く。
スー……スー……
目の前には、規則正しい寝息をたてる愁の横顔。
“いつも、僕のこと美人とか……可愛いって言ってくれるけど、愁くんの方がカッコいいし……
やさしいし……♡ 寝顔だって……女の子みたいに可愛いじゃないか……♡ それなのに……”
葵は愁のそのあどけなく、愛くるしい寝顔に見惚れ、
“セックスのときは、あんな……♡♡♡ ”
「もう……♡ 」
小鳥みたいな小さな声と吐息を一緒に洩らしつつ、ちょん……と人差し指で愁の柔らかな頬に触れる。
“ほんッと……♡♡♡ どうしてくれるんだ……
思い出したら、僕の身体……また、疼いてきちゃったじゃないかぁ……♡♡ ”
「ン……」
すると、すやすや眠ったままの愁は魚の骨つきを裏返すように、体をぐるりとこっちへ引っくりかえし、
「はッ……はぅッ!? 」
葵を、少女が抱いて眠るぬいぐるみのように抱きしめた。
「ンン…………」
「ごめッ……起こしちゃ……」
「スー…………スー…………」
“あ……ぅ……♡ な、なんか……夢のつづきみたいで……い……いぃ……♡ ”
「ハッ!? じゃ……じゃなくて……」
“ね……寝てる……? 僕が、ついさわっちゃった
からかな…………愁くん……疲れてるだろうし……
もうちょっと、寝ててもらわない……”
「とッッ!? ぉ……あッ……ぁ……」
「すー…………すー…………むにゃ……やわ……ぃ……♡ 」
愁のあたたかな息が耳朶に触れ、そのこそばゆさに思わず内股を締める葵、
「は……ぁ……寝てる……ンンッ……だょ……ね……? あッ……あ……ンッ……♡♡ 」
手を引き伸ばせば突き飛ばしそうなくらいの
抱擁。しかしほんの少し前に数え切れないほどに絶頂させられ、
「ン…………あおい……さ……」
「はッ……ハァ……ァ……♡ しゅ……しゅうくん
……こ、これ以上は……ぁ……」
未だ敏感なままの身体は、愁の体温に包まれ
薄いシャツ越しに背中を撫でる指の動きを感じる
……たったそれだけの刺激でも悦び打ち震えてしまい、
「むにゃ……すき…………ん……」
「はひッ!?♡♡ 」
更に追い打ちのように愁が囁くたび、
「あッ……やっ……ぁ……♡ 」
「ずっと…………むにゃ……いっしょ……」
柔らかく湿りを帯びた唇に耳朶を甘く咀嚼され、
「ん……んぁ……♡ あ゛ぁ……ッッ♡♡ 」
寝ているせいか、妙に幼く甘えかかるような声がお湯みたいに耳から流れてきて、お腹全体まで
波打ち、
「イ゛ッ……!!?♡♡ 」
下半身までも届く。それは愁の腕の中、動けない
葵の身体を限界まで反らせながら、静かに絶頂させてしまう。
「ハァ……ァ……♡ ウ……ソ……こんにゃ……
抱っこされて……こ、声だけでなんてぇ……ぇ……♡
く、癖になったらぁ……どうしてく……」
「ン……はなれ……なぃ……で……」
純粋な寝顔に、そんな甘える子供みたいな可愛いお願いをされてはキュンッ♡ キュンッ♡ と
胸が高鳴って、
「は……♡ あぅ……♡♡ バカ……♡ バカァ……♡ 」
ないがしろになんて出来ない。葵は内股で、
くねくねとみだりがましくよじる身体を愁に
寄せ、
ギュゥゥ……♡
ピッタリと隙間に収まり、
「はなれるわけ……ない……♡ 僕は……ずっと
君の…………♡♡ 」
窓から淡い朝陽が射し込む寝室。涙ぐむくらいの幸せに漬かりきる。
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