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第七話
今日は火曜日。月美くんと出会って、もう五日目。ほんの数日前まで、僕は毎朝この道を峠道
以外は、ただ淡々とシルビィを運転してお店へ
向かっていたのに――――
今は違う。
愛車の助手席に、朝の静けさを破るみたいな眩しい笑顔がある。それだけで、世界が変わったみたい。
聞いたら月美くんの実家は、僕が毎朝通りがかる駅のすぐそばらしかった。
「それだったら、駅で待ち合わせて一緒に乗せてってあげよっか?」って言ったら
「わぁ……助かります!」て即答だった。
だからあれから毎朝5時、駅前のコンビニ前に、月美くんを迎えに行くのが日課になった。
毎朝毎朝、待ち合わせの場所で僕を待つ彼の姿を見つけたとたん、お胸が、なんかフワってなる。
「おはようございます、涼風さん」
そう言って笑う顔が、すごく柔らかくて、優しくて。
「おはよう、月美くん。さあ乗って」
「はい、お願いします」
本当に毎朝、この笑顔が見られるなんて、僕は、なんて幸せなんだろう。
助手席に乗り込んだ愁くんがシートベルトを締めるのを待って、シルビィをゆっくり走り出させる。
やわらかな朝焼けが空を染めていく中で、僕は、
「きーみは誰とキスをする……ふーんふふ……」
自然と口ずさんでた。昔から大好きなアニソンの一節。小さく、小さく鼻歌みたいに。
「……あ、その曲、知ってます。俺も好きですよ」
「え、ほんと?」
「はい。歌がどれも名曲ばかりで、戦闘シーンも迫力があって、好きです♪」
「はぅ……」
またその「好き」って言葉に、心が跳ねた。
……ああもう、どうしてこの子はこんなにも
“好き”って言葉をさらりと口にするんだ……
僕の心の中だけ、いつも騒がしくてずるいじゃないか――――
朝の5時半にはお店に到着する。
喫茶店「日向」は、朝8時から夕方16時までの
営業で、水曜日と木曜日が定休日。
とはいえ水曜は、僕にとっては仕入れとか備品の買い出しの日で、完全なお休みとは言えない。
月美くんにも一応それを教えたら
「それも手伝いますよ」って言ってくれて――――
「え、でも……買い出しだよ?お給料も少ないんだし、せっかくのお休みなんだから……」
「お休みですから自由でしょう?それに……
涼風さんと一緒なら、きっと楽しいですし」
……そんなふうに言われたら、また心の奥が
キュってなる。
もう、完全にあれじゃないか……って、僕の頭の中ではすでに映画館でポップコーン食べてる図が
出来上がってて、思わず一人で照れてしまう。
そんな月美くんだけど、お仕事は本当に真面目で丁寧。接客も、ほんの二日くらいで僕が何も
言わなくても自然と動けるようになってきてる。
特に常連のおじいちゃんやおばあちゃんたちには、もうすっかり人気者になってて。
「若いのに礼儀正しくて、気持ちがいいねぇ」
なんて言われてて、内心ちょっとだけ……いや、かなり誇らしかった。
しかも、月美くんは仕事着も自前で用意してた。
黒のベストに、白のYシャツ、黒のネクタイとスラックス。僕に見せる為にクルッてその場で回って
「おそろいにしてみましたけど、似合います?」
って、あの甘い笑顔で言われて――また、キュって。
……こんなに毎日がキラキラしてて、嬉しくて、楽しくて、どうしよう。
誰かと一緒に働くって、こんなにも楽しいことだったんだ。寂しいなんて感じる隙もないくらい、朝からずっと、僕の心は満たされてる。
そして、きっと明日も――――
愁くんが助手席で笑ってくれるだけで、また頑張れる気がする。
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