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第四十八話
深夜――。
静まり返った休憩室の中、僕と月美くんはソファの上で寄り添ってた。
素っ裸のまんま、二人で一枚の薄いタオルケットを肩までかぶって――でも、僕に向き合う勇気は
なくて、月美くんもきっと合わせてくれてるおかげで、お互いに前を向いたまま。
身体はまだ火照ってて、息も落ち着かない。
それでも、心の中は別の意味で落ち着かない。
……さっきの僕、完全に覚えられた……。
月美くんに僕の身体の色んなとこ……ていうか
全部見られて、たくさんエッチなキスして、
たくさん愛撫されて、して……一つになって、
あんなに激しく、やさしく攻められて一緒に……
お腹は、まだ月美くんので中が熱い気が
する……手のひら、熱いもん……
そこまでは、いいんだ……好きあっているんだから……恥ずかしいけど……
けど――
あんなエッチなこと言っちゃうなんて……
しかも両脚を開いて月美くんに、前も後ろも……あんな――あぁ……頭の中に浮かんでくるだけで、もう死んじゃいそうなくらい恥ずかしい。
隣の月美くんは……たぶん、嬉しそう、だと思う。僕に合わせてくれて、ただ黙ってる。
タオルケットの中で沈黙が続いてる。僕の中には、どうしても消えない引っかかりがある。
さっきの、月美くん……。
すごく上手だった。そりゃ、大好きな月美くんと一つになれて、愛しあえて嬉しい……
けどっ――
こういう場合は、僕が年上としてやさしくリードして、やさしく微笑んで……背景に花が咲くか
香りが漂っている……みたいな感じになるのが
普通じゃないかな?
それが現実は、月見くんにあんなに上手く、
優しく、リードされて、ほとんどされるがまま。さっき何度も、何度も、溺れるみたいにイかされて、息も涙も下半身もぐちゃぐちゃになった。
あれは、慣れてる人じゃないと無理なんじゃないのかな……って、身体は幸せでいっぱいなのに、なんか心がざわついてる気がする。
僕にはよくわかんないけど、月美くんは
秘密組織のスーパーエージェント。だったら潜入とかみたいなので、そういう事とか……
いや……まさか、あの美人な、それこそ花の
香りしそうな京之介って人に「んふふふ……♪
愁ちゃんのはじめて……うちが、もろおてあげる……やさしゅうしたるからね……んふふ♡」
こんな感じで奪われたのかな?
月見くん、僕の知らない顔をいくつも持ってる。その中に、僕が知らない「夜の顔」まであったら……なんか悔しいな。
いや、不安、かな……自分でもよくわからない。
「……ねえ、月見くん」
「……はい?」
「誰かと……したこと、あるの?」
空気が止まった。月見くんの肩が、ほんの少しだけ揺れる。答えは返ってこない。
沈黙が、数秒なのか数分なのかわからない長さで流れた。
「……教えて」
もう一度、今度はちょっと真剣な感じで、彼の背中に向かって声を投げてみた。
観念したように、彼はゆっくりと指を伸ばし、部屋の隅――棚を指差した。
そこには、僕が前に愛読していてアパートに
ないなって思ってたBL小説が何冊も並んでる。
表紙はちょっとヨレて、ページの端には僕が折った跡があるやつ。
「……それを、全部読みました……」
「んっ?」
「あの……休憩のとき……涼風さんが好きな本だと思って……好きな人の、好きなものは知りたいと思って」
「……」
「……しかも、その……折り目のところ、暗記できるくらい読んでます……」
ほっぺが、あっつい……。
「……そ、それって……」
あのページ……あのシーン……濡れ場ばっかりじゃないか!!
「はい……そこに書いてある通りに、涼風さんに……それに……攻めは年下って設定が好きで……
その、コスプレというのが好きで……」
「はぅっ!?」
「快楽に溺れるみたいなページのところが特に
読み返してあって……ぁ、でも、露出って……
危ないから絶対にしないで……」
「~~~~っ!!」
穴があったら入りたい。いや、穴じゃなくて、
毛布の中に潜って一生出たくない。全身から湯気が出そう――
「……だから知識としては、知っているだけで」
羞恥で胸がいっぱいになったその瞬間、月見くんの腕がそっと僕の腰を抱く。背中には、ぴたりと寄り添ってくれる胸の温もりが伝わって
「その……俺の、初めては、キスも……さっきの
ことも、全部涼風さんが、初めてです……」
嬉しいのか、恥ずかしいのか、胸の奥がぐちゃぐちゃになる。
だけど、一つだけはっきりしているのは――
僕は今、とても幸せだということ……
「それに……どんな趣味でも、俺が涼風さんを
好きなことは、変わりませんから、ね。」
うん、凄い恥ずかしいけど。
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