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第五十八話

 「凛!」  瞬間、愁くんが僕の腕をスッと引き離して、 凛くんの両腕をガシッと掴んだ。 ……いや、掴んだってレベルじゃない。 メリメリッて音がしたんだけど!?人間の関節からあんな音、出ていいの!? 「離して愁くん……コイツ……嘘ついてる……ボクの愁くんをよりにもよって彼氏とか……」  うわ、まだ力抜けてない……もし愁くんが止めてなかったら、僕、今ごろどうなってたんだろ……いや、やめとこう、想像するだけで背筋がヒュッとする。 そんな時―― 「ほんとだよ。」 凛くんは一瞬、理解できなかったらしく、ぽかんと口を開けて、 「へ……?」 って、間抜けな声が漏れた。あ、かわいい声出すじゃん。 ……いや、そんな場合じゃない。 「愁くん……うそでしょ?どうして……ボクというものがありながら……こんな年増と……」 「と、年増ッ!?」 カチンときた。脳の奥でまたプチンって音がした。でも言い返そうとした瞬間―― 「そんなこと言わないの!葵さんは……俺が、 一目で惚れた人なんだから……」 「ッ……!」 「はぅッ!?」  イラっとした感情が、一瞬でふわっと飛んでいった。なんか甘い匂いする。 「くっ……でも……年増なのは変わんない!ボクの方が若いし、可愛いしッ!」 「葵さんは……可愛いだけじゃなくて……俺が知ってる中で、一番、やさしくて、素敵な人だ……」 「ッ!!」 ……ちょっと待って、心臓がうるさい。やめて、今そういう頬を赤く染めてそんなこと言わないで……僕まで、熱くなっちゃう…… 「ふっ……!?そ、そんなの愁くんが、他の人をあんまり知らないからだよ!キレイではあるけど、京兄さんほどじゃないし……身体はボクの方が引き締まってて……」 「……葵さんの身体は……あったかくて、柔らかくて……特に、その……お尻、ふにふにしてて……触ると、もう……離したくなくなるくらい……」 「なっ!!?」 「ちょッ!!?」 耳まで一気に熱い。え、今……凛くんの前だよ!?なんでそんなこと……! 「そ、そこまで知ってるって……も、もう……」  愁くん、自分で言ってから耳まで真っ赤になって、目を逸らす。ああもう、可愛い。  けど、それが答えってことなのか、凛くんの 赤い瞳が一瞬ぐっと鋭くなったあと、じわっと 潤んで…… 「ふッ!不潔!不潔!そんにゃん、許さない……許さないんだ……そんなの許さない、許さない……僕以外の……誰かなんて……なんて……う、ぅ……うぁぁああああぁぁ……」  ついに泣き出しちゃった。  子供みたいに、ぐしゃぐしゃな顔で床に崩れて……。  ……仕事も出来るし、きっと愁くんと同じ、 僕とは違う世界の人間なんだろうけど、まだ子供なんだ……  僕も、大人気なかったよ……ちょっと、可哀想に思えてきた。  ――でも、だからといって、愁くんを渡す気なんて……一ミリもないけど。

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