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第六十二話
愁くんのアパートで、気づいたら僕と愁くんと凛くんの三人暮らしが始まってた。
始まってみると――まあ、ちょっとだけお部屋が
狭くなったかな、ってくらいで、意外と不便な
ことはなかった。
1LDKのアパート。もともと九畳あるリビングにソファとベッドが置いてあって、僕と愁くんはほとんどそこで生活してたから、空いてた1部屋をそのまま凛くんの部屋にしたんだ。
引っ越してきた初日。
「わぁぁ……!映画いっぱいある~♪」
凛くんが棚に並んだDVDや漫画を見つけて、赤い瞳をキラキラさせてる。
なんか、猫がキャットタワー見つけた時の反応に似てた。
「好きなの?映画」
なんとなく聞いてみると、
「うん、でも今まであんまり時間がなくて……
ちっとも観れなくてさ」
言いながら、ちょっと眉を下げる。
「それに……一人で観ても楽しいけど、ちょっとつまんなくて……」
……わかる、その気持ち。
僕も前はそうだった……今は愁くんと映画観た
方が百倍は面白いと思う。
「じゃあ、一緒に観よ?」
「え、いいの?やったぁ!」
一瞬で耳と尻尾(想像)がピンッて立った。
「凛くんの好きなの選んでいいよ」
「えー、わかんないから、葵ちゃんのオススメでお願い♪」
「じゃあ、MC○から攻めよっか、アイア○マンから」
……猫みたいで可愛い、凛くん。
そんなやりとりをしていたら――
「葵さん、凛、ご飯ですよー!」
リビングに、猫のイラストがドンとついた
エプロン姿の愁くん登場。手には料理。
「え!?愁ちゃん料理できるの!?」
「うん、葵さんには敵わないけど」
「そんなことないよ、愁くんの料理、とっても
美味しいもん」
僕がそう言うと、愁くんはぱぁっと笑顔になって――ほんと、花が咲くみたいな顔。
「嬉しい……さ、冷めないうちに食べましょう……ふふ♪」
三人でダイニングテーブルに座って、手を合わせて
「いただきまーす♪」
凛くんは早速一口食べて、頬をぷくっと膨らませながら、
「も……美味ひい!」
僕も負けずに、
「ん……美味しいよ、愁くん♪」
「良かった……頑張った甲斐があります」
そう言って微笑む愁くんはもう……ふわふわ
可愛すぎて、見てるこっちの顔まで熱くなる。
チラッと横を見ると、凛くんも同じ顔で赤くなってた。……まだ、ライバル?
食後は三人で食器を片付けて、終わったら
愁くんも一緒に映画鑑賞。
……楽しい。愁くんと2人の時間も、もちろん
好きだけど、凛くんがいると本当に弟ができた
みたいで賑やか。
――けど、三人の暮らしが始まって二週間くらい
経ったころ。事件が起きた。
……大事件。
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