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第六十五話
うふふ……♪なんで二人はボクにバレないと思ってるんだろ?
って、ちょっと不思議な気持ちになりながら、
目の前の光景にドキドキしてるボク。
暗い寝室、静かなベッドの上。ボクは眼鏡を
かけて座ってる……いや、ただの眼鏡っ子じゃないよ。
これ、情報収集とか警戒監視、威力偵察に使う
超小型高性能ドローンのコントローラーで、
モニター付き。
視線や瞬き、瞼の微妙な動きで、てんとう虫
サイズのドローンを自由自在に操作できちゃう。
戦闘用じゃないけど、こういう好奇心旺盛な夜には最高のアイテムなんだよね。
そして、そのドローンの一つが、今まさに
リビングの天井に張り付いてる。
何日か前、匂いで気づいちゃったんだ。二人が帰ってきた時、いつも同じ甘い匂いが混ざって漂ってて……
それが察せた瞬間、ボクの好奇心はもう止まらなかった。
布団がもそもそ動くたびに、心臓がドキドキして、葵ちゃんの小さな喘ぎ声が聞こえてくる……
布団の端からチラッと覗いた葵ちゃん、サーモグラフィ越しでも暑そうだ。
『ハァ……ハァ……声……出さなきゃ……バレない、よ……』
って、内緒で囁く葵ちゃんの声……
さて……もう少し見やすくしようかな……
視線をスッと動かして、ドローンを壁に張り付かせる。
横から見下ろすと、動きがさらにリアルにわかるし、愁ちゃんの熱まで伝わってきそう……
二人の甘くて初々しい仕草、汗に光る肌、
息遣い……うふふ、たまらない……
たまらない……けど、二人の愛しあう姿を見てて、ちょっと……胸がキュウってなる……。
ううん……さぁ……次はもっと面白く見られる角度に移動して……移動して……
「……」
ボクは眼鏡の電源を切って、ベッドに放り投げる。そのまま布団に沈みこんだら、ため息がひとつ、勝手に出た。
好奇心――って言ったのは嘘じゃない。
でも……ほんとは、全然楽しくなんてない。
分かってる。ボク、邪魔なんだ。
だから二人は、ああやってこっそり……触れあったり、目を合わせたりする。
それが、あの二人の大事な時間だから。
葵ちゃんは、まだちょっとしか一緒にいないのに、すぐ分かった。
とってもやさしくて、どこか儚くて……それでも人を包み込むみたいに笑う人。
愁ちゃんは、きっとそんな葵ちゃんを守りたくて……あんな、やさしい素敵な愁ちゃんになったんだ……
だから、余計に僕は愁ちゃんを好きになってしまった。
……もう、今さらだ。
この気持ちは変えられない。
ネットの掲示板にでも書き込めば、「諦めろ」とか「奪っちゃえ」とか、そんな言葉が並ぶんだろうね。
でも……葵ちゃんから奪うなんて、出来るはずがない。
そんなことしたら、葵ちゃんも、愁ちゃんも、
悲しむだけ。
それに、僕はきっと……その悲しむ顔を見るのが、いちばん怖い。
はあ……
そもそも、恋なんてほとんど知らない僕が、
ひとりで考えたって答えなんか出るわけない。
……こういうときは、誰かに相談した方がいいのかな。
でも、誰に……?
布団の中で小さく丸まったら、胸の奥の苦しさだけ、じんわり広がっていった。
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