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第八十一話
モールの通路を3人で歩いてたら、すぐに見つかった洋食屋さん。
店員さんに案内されて座ったテーブル席。
……なんで、なんでなの?
「……なんで凛くんがそっちなのさ?」
思わず気持ちが声に出た。
だって、愁くんと凛くんが仲良く並んで座って、僕がひとり対面なんて。
どう考えてもおかしいよね?
「んふー♪」
凛くんの、あざとい笑顔。
「だって葵ちゃん、ボクがいない間に愁ちゃん
独り占めして、いっぱいイチャイチャしたんでしょ?」
「ぐっ……!」
否定できなかった。
正直……図星過ぎて、胸のあたりに突き刺さる。
うぅ……。
凛くんは愁くんの腕にぎゅーって絡んで、頬を
すりすり。
僕はそこまでしてないのに……。
しかも愁くんも普通に優しく返しちゃってるんだから、もう……。
「はい、凛。先にメニュー選んで。いっぱい食べなきゃだめだよ」
「うん、ありがと……愁ちゃん♡」
……なにその甘さ!?
耳が熱くなる。僕の前で堂々といちゃいちゃしないでほしい……。
……いや、少しはしてほしいけど……でも……!
そんなこと考えてるうちに頼んだ料理が運ばれてきて、テーブルいっぱいに並ぶ。
僕はオムライスとハンバーグとナポリタンが一皿に乗った、夢みたいなプレート。
愁くんはハンバーグと海老フライのセット、それにパンとスープ。
凛くんは……僕と同じ。
「「「いただきます♪」」」
いつも通り三人で手を合わせてから、一口。
うん……美味しい……。
――けど。
「愁ちゃんの海老フライ、美味しそうだね♪」
「ん、美味しいよ。食べてみる?」
「うん……あーん……♡」
「ふふ……♪はいはい」
あーん!? その距離で!?
肩と肩くっつけちゃって……
「んん……おいひぃ……♪」
……凛くん、顔まで蕩けちゃって。
可愛い……けど、悔しい……!
「じゃあお返しにボクのも……はい、あ~ん♡」
「俺は……凛が食べなきゃ」
「いいから。はい♡」
「……もぅ……あーん……」
……っ。
凛くん、愁くんの頬に手を添える意味は?
顔近すぎじゃない?あと8センチくらいでキスだよ……?
愁くんも愁くんで照れてるけど、まんざらでもなさそうで……。
胸が苦しい。……僕も愁くんに……したい。
お昼は、愁くんにばっかり食べさせてもらってたから……今度は僕が……。
そう思って、気づいたら身体が勝手に立ち上がってた。
「……葵さん?」
「……僕も、こっちがいい……」
ずるいのは分かってるけど、凛くんと愁くんが
並ぶベンチソファに、むりやり座り込んじゃった。
「葵ちゃん……ぷふっ……可愛ぃ♪」
凛くんは笑ってる。
「だめ……? 狭かったら、戻るけど……」
おずおず聞くと、愁くんはクスって笑って
「だめ、なわけないでしょ」
――ッ♡♡♡。
言いながら愁くんは、僕の分のスペースをあけてくれた。
……本当、僕って子供っぽい……下手したら
凛くんより子供……
でも、そんな僕に、いつもやさしくしてくれる
愁くん……だからっ♡
「じゃあ……僕からも……はい、あーん♪」
オムライスをスプーンですくって、愁くんの
口の前へ。
「ぇ……と」
って、少し照れながらも、愁くんは素直に
「……あーん」って。
あぁ……幸せすぎて胸がきゅうってなる……♡
僕も、自然に肩を寄せて……。
「美味しぃ?」
「とっても。けど……」
愁くんが僕の耳元に顔を寄せて、低く囁いた。
「卵料理なら……葵さんの作ったタマゴサンドの方が、俺は好きですよ」
「ッ……♡♡」
耳の奥まで痺れるように甘くて、頬が一瞬で
真っ赤になった。
嬉しくて、嬉しすぎて、胸の奥が熱い……。
「……ありがと。じゃあ、また、いっぱい作ってあげるから……♡」
「嬉しい……俺こそ、感謝しなきゃ……」
言いながら、見つめ合っちゃう。
唇が、触れそうなくらい近づいて……。
「コホンッ! 葵ちゃん、愁ちゃん!」
「はぅっ!?」
横から強烈な存在感。
「ボクもいるんだけど?」
凛くんがむぅっと膨れて、愁くんの腕にぎゅっと抱きついた。
「愁ちゃん、ボクより葵ちゃんに甘すぎる気がする!」
「そ、そんなことない、はずだけど……」
愁くん、あわあわ。
可愛い……
もっと見たくて、僕も負けじと腕に絡みついて
「え、でも僕は……凛くんばかり甘やかしてる気がするけど?」
「にゃ……!?」
凛くん、びっくり顔。
店員さんに「お客様、お静かに……」ってまた注意されて、3人で頭下げてたんだけど……。
あはは……♪でも、こんな言い合いですら、3人だとなんか……。
***
楽しかった……♪
ご飯食べ終わった後も、モールを歩く時は愁くんとずっと手を繋げて……
凛くんみたいに腕組んで歩く大胆さはまだないけど、楽しかった♪
帰りの車内でも、「ベッド届くの楽しみだね♪」とか凛くんの学祭の話とか、楽しく話して、笑って――
そして部屋に戻った途端、愁くんが少し頬を赤くして声をかけてきた。
「ぁ……えと、2人ともいいですか……」
その仕草だけで、僕の胸はまたきゅうって音を
立てるみたいに高鳴っちゃう。
「なーに?」って僕は首をかしげて、
凛くんも「どうしたの愁ちゃん?」って無邪気に笑った。
愁くんは、ほんの一瞬、言葉を探すみたいに間を置いて「これを……」って、僕たちに小さくて
お洒落な紙袋を差し出した。
「え……なに、これ?」
思わず手を止める僕に、愁くんは視線を伏せて
少し恥ずかしそうに言った。
「……あの、大したものじゃないですけど。俺、デートって初めてだったので……すごく嬉しくて。記念に、2人に渡したくて」
「ッッ!?」
心臓が、もう本当に飛び出るかと思った。
人からちゃんとプレゼントをもらうなんて、
僕にはずっと縁のないことだったのに……
初めてが愁くんからだなんて。
胸の奥が、熱くて熱くてどうにかなりそう……
「ぁ……ぁ……ありが、と……嬉しぃ……ょ……。開けても、いい……?」
動揺しすぎて舌がもつれた僕の声も、愁くんは
やさしく「どうぞ」って受け止めてくれる。
僕はそっと、外科医みたいに慎重に包装を解いていった。テープをひとつ、またひとつ。包み紙が静かに剝がれる音さえ、胸のドキドキと混じって響く。
出てきたのは、高級そうな小箱。
ぱかっと蓋を開けたら――
「……うわぁ……」
思わず声が漏れた。
中にあったのは、繊細な羽の形をした
ラペルピン。
シルバーの光は冷たいはずなのに、まるで本物の羽みたいに軽やかで、優しくて……。
「……指輪も考えたんですけど……」
愁くんは少し頬を掻きながら言葉を続けた。
「葵さん、厨房で水仕事多いですし……でも、
いつも着けててほしいなって。ベストの襟なら、邪魔にならないかなって、思ったんです」
――綺麗で、優しくて、あたたかい。
これ、まるで愁くんそのものみたい……。
「……気に入って、もらえました?」
その声に僕は、胸の奥からあふれ出る気持ちを
必死で抱きしめながら、
「うん……とっても……ありがと、愁くん……」ってなんとか笑って……
隣では凛くんが「わぁっ!!」って弾むような声を上げた。
凛くんの箱の中には、黒い細身のベルトの
腕時計。
「いいの!? ボク、こんなのもらって!?」
驚く凛くんに、愁くんは優しく頷いた。
「うん、凛とは長い付き合いだけど……ちゃんとプレゼントしたことなかったから。これなら学校でも着けられるかな、って」
頬を赤らめて首をかしげる愁くん。
その姿に、凛くんの顔も真っ赤に染まって……
次の瞬間――。
僕と凛くん、ほとんど同時に愁くんに抱きついてた。
「ずっと……一生、大切にするからねッ!!」
「ボクもッ! レヴェナントなんて外して、
こっち着けて任務行くよ、愁ちゃんッ!」
愁くんは少し驚いたように目を丸くして……
でも、すぐに柔らかい笑みを浮かべて、僕と凛くんをぎゅうっと抱きしめてくれた。
「喜んでくれて、良かったです……」
その声は安心に満ちていて、包み込まれるみたいにあたたかい。
「……俺も、大切にします。葵さんも、凛も」
――2人の耳元に落ちてきた低くて優しい囁き。
僕と凛くんにとって愁くんの腕の中は、世界で
一番幸せな場所だった。
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