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第百十一話
あぁ……プリンも全部食べ終わって、お腹も
胸の奥も、幸せでいっぱい……。
「ふぁぁ……♡満たされたぁぁぁ……♪」
「うんっ♪最っ高に美味しかったぁぁ♡」
「嬉しかったなぁ……愁のお料理、食べられるなんて……はぁ……♡」
そんな風に自然に声が漏れてしまうくらい、愁くんの料理は本当に最高だった。
食後は4人で並んでお皿洗い。
「そう言ってもらえたら、頑張ったかいがありました……♪」
って、はにかみながら言う愁くんが、あんまりにも可愛くて、僕は思わず水滴のついた手を止めて見惚れてしまった。
……胸の奥まで、またじんわり満たされていく。
***
そして至福のご飯のあとは、リビングで
恒例の映画鑑賞会。
3人掛けのソファの真ん中に愁くん、左右に
僕と凛くん。まるで愁くんを守るみたいにぴたりと寄り添って……
愁くんの温もりが腕から伝わる。
でも、京之介さんはというと……フローリングにクッションを置いて、ちゃっかり愁くんの太ももに頬を寄せているじゃないか……。
「もぉ……京之介さん……」
愁くんがちょっと困った顔で言うのに、京之介さんは艶っぽい笑みを浮かべて、
「んふふ……♪ うちの特等席や。お店も手伝おてるし……? これくらいのご褒美、ええんや
ない……♡」
なんて甘えるように言うものだから……愁くんは頬を赤くして「もぉ……」と小さな声で呟くだけ。叱れないでいる。
胸の奥がきゅっとして、僕は思わず口を尖らせた。
「むぅ……愁くん、京之介さんに甘すぎじゃない……?」
そう言ってみても、愁くんは優しく微笑んで、
「そんなことは、ないですよ……」
と、柔らかに返すだけ。
……あるよ。どう見てもあるよ。
やっぱり、今回の作戦は絶対に必要だ。
ローテーブルには、凛くんが用意した作戦の
命――小さなチョコレートがたくさん並んでる。
ぱっと見は、ただのおやつ。でもそのほとんどは、最高級のシャンパンが練り込まれた大人の
チョコレートであって……。
そう、作戦内容は愁くんにこれを食べてもらうこと。そしてちょーっと、前回みたいに酔ってもらって……僕と凛くんと愁くんで、甘く激しく
イチャイチャして、恋人は僕と凛くんなんだってことを――京之介さんに見せつける。
正直、考えるほどに恥ずかしくて心臓がドキドキするし、果たして成功するかも分かんないけど……。
でも愁くんの太ももに頬を寄せる幸せそうな
京之介さんの顔を見てたら、勇気が湧いてくる。
……よし……やるしかない!
心の奥で、そっと決意を固めた。
しかも今夜の、映画は
「ミッションイン○ッシブル4」。
まさに今の僕らを鼓舞するようなBGMが、
ドドーンッ!と部屋に響いている。
――ミッション開始。
***
映画も中盤に差し掛かって、スクリーンの中ではイーサンが超高層ビルをハイテク手袋で必死に
登ってる。
「んふ♪ うちもあれ、やったことあるわぁ……懐かしいなぁ……」
京之介さんが涼しい顔でそんなことを言うから、思わず吹き出しそうになった。
「ボクなら、《レヴェナント》で一気にいける
気がする……♪」
凛くんまで胸を張って自慢げに言うから、
このメンバーで観る映画は感想が独特すぎる。
でも――問題はそこじゃない。
画面の中では紆余曲折ありながら、なんとか解決に進んでいるミッション……だけど僕らの作戦が……ちっとも進まない。
だって、愁くんがまるでチョコに手を伸ばしてくれない。
僕と凛くんと京之介さんばっかり……だって、
これ美味しいから、ついパクパク食べちゃって……このままじゃ、任務は失敗。
そして……なんだろう。
リビングで愁くんがそばに居る幸福感と、
さっきのご飯でお腹いっぱいになった安心感と、
この数日の疲れが一気に押し寄せてきて――
……瞼が重い。
ふと横を見ると、凛くんもうつらうつら……。
でも、その指先には小さなチョコがひとつ摘まれていて、最後の使命感だけで動いてるみたい。
……そうだ。愁くんに食べてもらわなきゃ。
僕も指先でチョコをひとつ摘み、凛くんと目を
合わせる。
ふたりで、こっそり合図して。
「愁ちゃん……はぃ……あーん……」
「ほら、愁くん……僕のも、食べて……」
「ぇ……ふたりとも……ぁ……」
愁くんが小さな唇を開いて、ちょっと困った顔でふたり分のチョコを同時に口に含んでくれた
瞬間――僕の胸にじんわり達成感が広がった。
任務、完了。……成功だ……。
凛くんはそのまま、コトンッとソファの柔らかな肘置きに頭を落として寝息を立て始めて。
僕も……甘さと満腹感にやられて、愁くんの横顔がぼんやり滲んで、最後に
「……美味し……ぃ……」って小さな声が耳に届いたところで――……静かに意識を手放した。
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