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第百二十三話

 深夜。ソファに並んで横たわるふたりの身体は、まだ汗と蜜で湿り、熱を残していた。  葵は愁の胸に頬を押しつけ、ぐったりと寄り 添いながら、か細い吐息を漏らす。 「……ん……ふぅ……」  その声には余韻よりも、どこか心許なさが滲んでいた。 「……ねぇ……愁くん……」  かすれた囁きに、愁は視線を落とし。 「ん……どうしたんですか……?」 葵は伏し目がちに唇を噛み、頬を赤らめたまま、恥ずかしそうに言葉を続ける。 「……僕だけを……愛してくれる回数、減っちゃうの、かな……」  凛や京之介の存在を知りながら受け入れようとしている。  それでも奥底では、愁を奪われてしまう不安に揺れている―― そして、その不安から、いつもより少しだけ淫らに乱れてしまったことを、本人は恥じているようだった。  愁はそんな葵の表情に胸を締めつけられ、同時に、どうしようもなく愛おしく思った。 「……葵さん」  名を呼び、汗に濡れた黒髪を撫でる。やさしく触れる指先で、今にも消えそうな不安を包み込むように。 「減るわけないでしょ。葵さんが、俺の一番なんですから……」  葵の肩がびくりと揺れ、潤んだ瞳が揺らめく。 「……でも、凛くんも……京之介さんも……」 「……うん。俺にとって大切な人たちです。 でも……」  顎をすくい上げ、まっすぐに瞳を覗き込む。  赤い眼差しに宿る熱は、どんな迷いも溶かす ように強く澄んでいた。 「……葵さんは、俺の恋人。葵さんに触れるときの俺は、誰に触れるときとも違うんです……」 「ん……っ♡」  触れ合った唇は軽いはずなのに、胸の奥にまで甘く沁みていく。葵の息が震え、身体がまた熱を帯びていく。 「葵さんが寂しいなんて思わないように……何度でも抱きます。ふふ……♪減るどころか……もっと増えてしまうかも……」 「もぉ……そんなこと言って……減ったら承知しないんだから……」  葵の頬は火が灯ったように真っ赤に染まり、 羞恥に震える唇が小さく開閉を繰り返す。 その愛らしい仕草に、愁の胸は一層煽られ。 「……だったら、今から証明してみましょうか……?」  耳に落とした低い声に、葵がびくりと肩を揺らす。 「はぅ……♡ ほ、ほんと……?」  不安と期待が入り混じる潤んだ瞳。愁は思わず口元を緩め。 「ええ……♪ でも、今度は――壊れるまで抱いてしまうかもしれませんけど……」  抱き寄せた身体は、まだ余熱を残したまま 柔らかく震えている。その愛しさに耐えきれず、愁はぎゅっと腕を回した。 「……やっぱり……愁くん、ずるい……♡ ……ん♡」  小さな抗議の言葉とは裏腹に、葵は自分から 唇を重ねてきた。蕩けた吐息と舌先が絡み合うと、また一気に熱が蘇り。狭い休憩室は、ふたりの甘く淫らな気配で満たされていった。

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