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第百三十三話
ラブホテルの浴室って……落ち着いて見てみると、ずいぶん広いんだ。
さっきまでは、そんなこと考える余裕もなかったけど……こうして湯気に包まれて、やっと気づく。
「気持ちいい……凛……?」
「……うん……」
広い洗い場で、愁ちゃんがやさしく背中を撫でるみたいに洗ってくれる。胸も、腕も、お腹も、脚も……どこまでも丁寧に。まるで、大切な宝物を扱うみたいに。
「だったら、そろそろ……凛の可愛いお顔、見せてほしいんだけど……」
「やっ……」
思わず、両手で顔を覆ってしまう。
いつもなら、きっとすぐに笑って見せられる
のに。
……ていうか、ついさっきまでマットの上で、
何回もエッチ出来て、愁ちゃんと愛し合えて、
夢みたいに嬉しかったのに。
でも、ひと息ついた途端……余韻と一緒に、
どうしようもない恥ずかしさが押し寄せてきて……愁ちゃんの顔、まともに見られない。
「じゃあ……泡、流すから。そのままにしてるんだよ……」
「……ん……」
シャワァァ……と音を立てて、泡が流れ落ちてく。この泡達と一緒に恥ずかしい記憶も流れていってくれたらいいのに……。
「ほら、凛。せっかくお湯ためたんだから……
一緒に入ろう?」
「……うん……」
湯船に浸かると、愁ちゃんは何も言わない。
ただやさしくて、さっきのこと――
ボクがあんなふうに必死で甘えて、最後には
盛大におもらしまでしてしまったこと――
ぜんぜん口にしない。
……むしろ、何も言われない方が余計に胸を
くすぐる。からかってくれたほうが、まだ気が
楽なのに。
ちゃぽん……。肩までつかるお湯の中で、
愁ちゃんはそっと背中から抱きしめてくれる。
「ふぅ……気持ちいいね、凛……♪」
「……ん……」
お湯よりもずっとあたたかい腕に、キュッと
包まれて。耳もとに落ちる囁きが、さらに熱をくれた。
「そんなに照れないの……。俺と凛だけの秘密だから……ね?」
その声に、やっと両手を顔から離すことができた。
「……でも……この年齢で……これから……っ」
これから愁ちゃんと愛し合う時、もらしちゃう癖がついてたらどうしよう……って呟きそうに
なった唇をお湯につけて、ぶくぶくって泡を立ててごまかした。
……そういえば。最後におもらししちゃった
のも、やっぱり愁ちゃんと一緒のときだった気が……
「ふふ……♪ 俺は、ちょっと昔を思い出して……嬉しかった」
愁ちゃんの湯気に溶けるみたいに低くて
やさしい声で囁かれて、胸の奥がきゅんと締め
つけられた。
けど、その「ちょっと」って言い方に、ボクは思わずむきになってしまった。
「……ちょっと、って……結構前のことでしょ……。今は、大人なんだから……愁ちゃんに面倒はかけたくないのッ……」
わざと強めに言ったのに、返ってきたのは、
くすって笑う声。
湯船に反射した水音と一緒に、ボクの胸まで
くすぐってくる。
「……俺は、面倒かけられたいけど……出来れば、これからも、ずーっと……ふふ♪」
……ずーっと。
その言葉が、胸の奥で甘く響いて止まらなかった。
ずーっと……一緒に……ってこと?
それが、まるで――プロポーズみたいに聞こえてしまって。
バシャッてお湯を大きく揺らして、思わず
振り返って。
「しゅ……愁ちゃん、今のって……」
声が震えてるのが自分でもわかる。
でも愁ちゃんは、頬をほんのり赤く染めながら、にこって――心臓が止まりそうになるくらい
綺麗な笑顔を見せてくれた。
「ふふ……♪ やっとこっち見てくれた……可愛い凛くん……♪ 」
……あぁ、もうダメだ。
格好良さと、可愛さと、綺麗さと……まるで
母性で抱きしめてくれるみたいなやさしさが、
1度に全部あふれてて。
「ふ……ぁ……♡」
息が詰まるくらい、好きが溢れて……。
「……愁ちゃん……ボク……もう、離れたくなく
なっちゃった……」
胸の奥がじんじんして、湯気の向こうにいる
愁ちゃんの輪郭がぼやけるくらい、目が潤んでた。
「えっと……でも、そろそろ……時間じゃない
かな……?」
愁ちゃんが、いつもの落ち着いた声で、でも
少しだけ照れくさそうに呟いた瞬間――
ボクはその唇を、ちゅ……♡ って、塞いだ。
お湯よりも熱くて、蕩けるみたいに甘いキス。
唇が重なったところから、じゅわって何かが
溶け出して、ふたりの息が絡まり合ってく。
そっと唇を離すと、愁ちゃんの頬がほんのり
桃色で、瞳がやさしく揺れてる。
その顔があまりにも可愛くて、愛しくて
「……延長すれば……いいよ……♡」って囁いた声
まで、お湯の中でとろけて溶けていくみたい
だった。
「……でも、帰りは……」
「……だめなの……? 愁兄ちゃん……♡」
「っ……その呼び方……ずるい……」
愁ちゃんの赤い頬が、もっと赤くなってく。
恥ずかしそうに視線を泳がせる姿が可愛すぎて、胸がぎゅってなって。
「えへへ……♡ いいでしょ……? ふたりきりの時だけ……」
そう甘えて囁いたら、愁ちゃんはしばらく言葉を探すみたいに黙ってたけど……小さく
「……もう……」って、呟いて、頬を赤いままに
ふって笑ってくれた。
ボクは、その唇にまた……キス。
今度は、ねっとりと舌と舌を絡める、深くて
エッチなキス。
ぬるん……ちゅる……じゅぷ……♡
お湯と混ざる蜜音が、耳の奥まで響いて、全身の力が抜けてく。
そのまま、背中に愁ちゃんの腕が回って、
ふたりの身体がゆっくり絡まりあって。
お湯の中で肌と肌が擦れあって、しっとり、
つるん……って触れるたびに、頭が痺れるみたいに気持ち良くて。
息を吸うたびに愁ちゃんの匂いとお湯の匂いが混ざって、世界が狭くなる。
もう……ただ愁ちゃんの腕の中で、溶けて
ひとつになりたいだけ。
「ぷ、ぁ……愁兄ちゃん……もっと……♡ 」
囁くと、愁ちゃんがまた唇を重ねてきて、舌でボクの奥をなぞってくれる。
お湯のぬるみと、ふたりの体温と、舌と舌の
ねっとり絡む感覚……ぜんぶ混ざって、胸の奥まで甘く満たされてく――。
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