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第百八十六話

 テーブルを挟み、京之介と古和美は向かい 合って座っていた。  互いに口を開かないまま、張りつめた沈黙だけが部屋に沈んでいる。  ――ほんの数分前までの口論が、まるで幻だったかのように。  京之介は視線を逸らしたまま、しかし 意識の端では、どうしても“そちら”を捉えてしまっていた。  私室に備え付けられたお洒落なキッチン。  そこに立つ愁の背中だ。  先ほどまで、京之介の前では柔らかく、どこか甘えた気配すら滲ませていた彼。  その面影は、今はもうない。  棚からキャニスターを取り出す手つきは迷いがなく、色違いのティーカップを選ぶ指先も、 ためらいを知らない。  アールグレイ。  ダージリン。  ――密閉瓶に入った茶葉がいくつか並んでいる。その中で愁が選んだのは、ほのかな花の香りを 含んだブレンド。  京之介は気づいていた。  それが、自分と古和美、双方を刺激しすぎないための――愁なりの選択であることを。  湯が沸く低い音が、張りつめた空気をわずかに震わせる。  茶葉を量り、ポットを温め、温度を確かめて から、静かに湯を注ぐ。  無駄がない。  だが、冷たくもない。  愁は『日向』での仕事着のまま。  その姿は、ここが地下五層の武装研究区画で あることを、一瞬忘れさせるほどだった。  背筋は自然に伸び、肩の力は抜けている。  それでいて、一つ一つの所作には確かな緊張感と集中が宿っている。  蒸らしの時間を正確に測り、二つのカップに、均等に紅茶が注がれる。  その横顔に、先ほどまでの愛嬌はない。  代わりにあるのは、任務の只中にいる者だけが持つ、静かな自信と落ち着き。  京之介は――思わず、見惚れていた。  静かな所作。  無駄のない指先。  紅茶を淹れるだけの、その何気ない背中が、 どうしようもなく目を引く。 ……あかんな、と心のどこかで苦笑する。  さっきまで腕の中であんな顔をしていた 相手に、今度はまた別の顔を見せつけられて いる。  ふと、向かいへ視線を流す。  古和美もまた、頬杖をつき、同じように愁の 背中を見つめていた。  「なぁ――」  わざとらしく、低く呼びかける。  「っ……なんですか?」  「あんまり、うちの彼氏を見なや」  その一言に、古和美の肩がびくりと揺れた。  「べ……別に、愁を見てたわけではっ!」  返ってきた否定は、明らかに慌てている。  視線の置き場に困るように、わずかに泳いで いるのが可笑しい。  「はっ……どうだか」  京之介は小さく鼻で笑った。  背もたれに深く体重を預け、ゆっくりと脚を 組む。  余裕を誇示するような仕草。  「ま、うちの愁は――どないな男よりも魅力的やさかいな。気持ちは分かるけど♪」  胸の奥から、じわりと優越感が滲む。  隠す気など、最初からない。  口角を上げたまま見下ろすと、古和美の眉が ぴくりと跳ねた。  次の瞬間。  テーブルの上に置かれていたスマートフォンが、素早く操作される。  数度のタップ。  そして――  ぐい、と身を乗り出し、画面を突きつけて きた。  「ふふん。確かに、愁は可愛いですが――」  わずかに吊り上がる唇。  珍しく、あからさまな得意顔。  「私の悠月くんには、勝てそうにありません ね♪」  その声音に滲む自信に、京之介の眉がわずかに動く。  「……ほぉ?」  興味半分、挑発半分。  視線だけを落として、画面を覗き込む。  「――っ……」  ほんの一瞬。  呼吸が、止まりかけた。  上から向けられたカメラ。  自然と生まれる上目遣い。  画面の中の“悠月”は――驚くほど、整っていた。  白く透けるような肌。  線の細い輪郭。  触れれば壊れてしまいそうな、繊細な均衡。  中性的な美貌。  派手さはなく、どこか影を落とした、静かな 儚さがある。  控えめに浮かぶ微笑みは、見る者に 「守りたい」と思わせる類のものだった。  「……っ」  ほんのわずかに、京之介の呼吸が詰まる。  胸の奥で、言葉にならない何かが、かすかに 揺れた。  ――可愛い。  それも、疑いようもなく。  数拍の沈黙。  やがて京之介は、何事もなかったように視線を外し、小さく鼻を鳴らした。  「……そもそもやな」  ぽつり、と。  どこか誤魔化すような声音。  「なんで愁に茶ぁ淹れさせとるんや。あんたの部屋なんやさかい、あんたが淹れろや」  わずかに落とした声。  視線も合わせないままの、ぶっきらぼうな 一言。  その反応に――  古和美の唇の端が、ほんの少しだけ上がった。  「……別に。愁が“冷めているみたいだから、やります”って言ってくれただけです」  淡々とした口調。  だが、その奥には微かな満足が滲んでいる。  勝ち誇るほどではない。  けれど確かに―― 一矢報いたという静かな手応え。  その空気を、やわらかく断ち切るように――  「……お待たせしました」  穏やかな声が、二人のあいだへ静かに落ちた。  振り向けば、細く立ちのぼる湯気を揺らす二つのカップを載せたトレーを手に、愁が立って いる。  さっきまでこの部屋に満ちていた緊張など、 まるで知らないかのような、やわらかな表情。  けれど――  赤い瞳だけは、二人の空気をきちんと見抜いた色をしていた。  「……仲直り、できたみたいで良かった♪」  そっと微笑みながら、テーブルへカップを 置く。  その所作はあまりにも静かで、部屋に残っていた小さな棘までも、いっしょに沈めてしまう みたいに優しかった。  ふわり、と――  花を思わせる香りがほどける。  その瞬間、京之介の胸の奥に残っていた ざらつきが、音もなくほどけていく。  「……」  「……」  言葉が出ない。  ただ、見てしまう。  湯気の向こうで微笑む愁を、どうしようも なく、目で追ってしまう。  向かいに座る古和美も、同じだった。  さっきまでのことなど忘れたみたいに、ただ 静かにカップを見つめている。  「……また冷めてしまう前に、どうぞ」  やさしく促す、その一言。  「あ、……んふ、ふふ……♪ せ、せやな……。え、ええ香り。さすが、うちの愁や。今日も完璧やな」  誤魔化すみたいに笑いながら、京之介はカップを口元へ運ぶ。  触れた瞬間に広がる、やわらかな温度。  続いてほどける、穏やかな香りと味。  (……かんにんえ……愁。さっき一瞬だけ、 あのアホ見した写真に目ぇ奪われて……うちは、あんたが、いっちゃん好き……世界で、一番……♡)  思わず、目を細めてしまう。  古和美もまた、少し驚いたように香りを確かめ、もう一口、ゆっくりと含んでから――  「……本当……私が淹れるより……美味しい」  珍しく、飾りのない声だった。  その言葉に、愁はほんの少しだけ肩の力を 抜き、  「そう言ってもらえて、安心しました♪」  やわらかく微笑む。  その微笑みは―― 紅茶の香りを、さらに甘く感じさせるみたいで。  京之介は、ふと気づく。  向かいに座る古和美までが――恋人がいるはず の男までが、まるで同じ顔で、その笑みを 見つめている。  一瞬、胸の奥に小さな棘が刺さる。  (……なんやコイツ。恋人おるくせに……)  じわり、と滲む独占欲。  けれど――次の瞬間。  (……まぁ、無理もあらへんか……♪)  ふっと、胸の内でほどけるような優越が灯る。 誰が見たって、惹かれてしまう。  今の愁は――やさしくて、綺麗で、あたたかい。  その全部を、いちばん近くで知っているのは 自分だ。  そう思えた瞬間、さっきの棘は、甘い熱に 変わっていた。  (……ほんま……罪な子や、愁は……♡)  胸の奥が、くすぐったく火照る。  ――そのとき。  愁が静かに腕時計へ視線を落とした。  「……俺、そろそろお暇しますね。晩ご飯の 準備がありますので」  その言葉に「……はっ?」っと京之介は、 弾かれたように顔を上げた。  「や、やったら一緒に帰ろ! うちの専用機やったら、十分でアパートまで――」  言い切るより先に、愁は静かに京之介の方を 向き、やわらかく首を振る。  「だめですよ、京之介さん。 古和美さんとのお話、まだ残ってるでしょう?」  責める響きは、どこにもない。  ただ――当たり前のことを、当たり前に告げる だけの、やわらかな声音。  それがいちばん効くのだと、京之介自身が、 誰よりよく知っていた。  「う……せ、せやけど……」  最強と呼ばれる男は、たったそれだけで、 呆気ないほど弱くなる。  古和美との話が終われば、また、 すぐに会える。  ――それは、分かっているのに。  (……離れた、ない……)  胸の奥でこぼれた小さな本音は、自分でも驚くほど幼く、切実だった。  けれど――  その想いは、表情に出てしまっていたの だろう。愁がふっと、胸の奥までほどけてしまいそうな笑みを向けてくる。  「今夜は―― “高野豆腐の炊いたん”も作っておきますから。 寄ってください、ね?」  京之介の好物。  何気ない一言のはずなのに、そこには、 ちゃんと分かっているという静かな優しさが 滲んでいた。  その瞬間――  京之介の心は、あっさりと落ちた。  「……ほんま……? ほな、終わったら……すぐ行くさかい♡」  情けないほど素直な声。  けれど、その情けなささえ―― いまは甘く心地いい。  「ええ♪ 待ってます」  やわらかな返事を残し、愁は椅子の背に掛けていたジャケットを手に取る。  そのまま、今度は古和美のほうへ静かに歩み 寄った。  「あの、古和美さん」  京之介に届くか届かないかほどの、低く 丁寧な声。  呼ばれた古和美の肩が、びくりと小さく 跳ねる。頬は見る間に赤くなり、  「ひゃ……は、はい」  どこか間の抜けた返事。  ――緊張が、隠しきれていない。  その様子に、愁はくすりと小さく笑った。  「あまり叱らないであげてください……」  静かに。  けれど、まっすぐに続ける。  「方法は問題ですけど……古和美さんの デバイスがあったおかげで、俺たち…… 助かりましたから」  そう言って、丁寧に頭を下げる。  その一連の所作は、まるで相手の胸の奥だけを正確に撫でるみたいに、やさしくて――ずるい。  (……ああ)  古和美の表情が、ほどけていく。  隠しようもないほど、嬉しそうに。  自分の作ったものを認められることに、この男がどれほど弱いか。  ――愁は、もう知っている。  (……ほんま、罪な子……)  胸の奥で、独占欲とも誇らしさともつかない 熱が、また滲む。  「ま、まぁ……愁がそこまで言うなら…… 私は……」  言いかけて、古和美は「……あっ」と何かを 思い出したように踵を返す。  そのまま足早にキッチンへ向かい、引き出しを探りはじめた。  ――どこか、落ち着かない動きのままで。  やがて戻ってきたその手には―― ホルスターに収められた、二振りのナイフ。  「……これは?」  愁が静かに問う。  「フェーズド・カーボン製です。……罪滅ぼしにもなりませんが」  古和美は一本を抜き放つ。  黒を基調とした、機械的で無駄のない柄。  直線的なブレードは、光さえ拒むように静か だった。  「斬撃時のみ分子結合を一時解除し、物質抵抗をほぼゼロに近づけます。切断能力も強度も、 君の愛用ナイフより数段上です」  わずかな間。  「……愁の為に用意しました。使ってください」  再びホルスターへ納め、愁へ差し出す。  その光景を、京之介は黙って見ていた。  優しさひとつで、人の心も、武器さえも、こうして自分の方へ引き寄せてしまう。  (……ほんで、人たらし……)  けれど同時に―― それが誇らしくて仕方ない。  愁はやわらかく微笑み、  「ありがとうございます。大切に使わせて もらいます」  静かに受け取り、もう一度、深く頭を下げた。  「それでは――お邪魔しました」  そう告げて、愁は私室を後にする。  扉の閉まる音が、静かに空気へ沈んだ瞬間。  ――古和美の肩から、力が抜けた。  そのまま椅子へ崩れ落ちるように腰を下ろし、 ぐてり、とテーブルへ額を預ける。  「はぁ……裸眼だと……凄……」  何が、とは言わない。  けれど京之介には、分かってしまう。  頬杖をつき、そんな様子を横目に眺めながら、 口元だけで、かすかに笑った。  「……ここ数ヶ月で、愁……だいぶ変わりましたね……」  こぼれるような古和美の声。  京之介は、ゆっくりと頷く。  「あの年頃は、成長早いさかいな」  どこか自慢げに言いながら―― 脳裏に浮かんだのは、別の顔。  (……葵ちゃんの、おかげやけど……)  昔の愁も、優しくはあった。  けれどそこには、どこか機械めいた静けさが、いつも残っていた。  あそこまで変われたのは―― きっと、葵のおかげだ。  (……ほんま、凄いわぁ……)  胸の奥に、わずかな悔しさがよぎる。  けれど同時に、それ以上の想いが、静かに 満ちていく。  (……そやけど、ここから先は負けへん……)  いくつもの出来事が重なって、巡り巡って―― 愁は、自分のもとにも来てくれた。  葵と同じように。  いや、比べるものでもなく。  ただまっすぐに、自分のことも、愛してくれている。  憐れみでも、育ての恩でもない。  触れれば分かる、疑いようのない―― 純粋な熱。  だから。  「んふふふふ……♪」  こぼれた笑い声は、艶を含みながら、ひどく やさしかった。  その愛を受け取った瞬間から、答えなんて、 もう決まっている。  ――一生、愛し抜く。  それだけは、微塵も揺らがない。  気づけば、表情は自然と、穏やかにほどけて いた。  その笑みを見た古和美が、  「……ふぅん……貴方も、随分と――」  言いかけて、ふと口を閉ざした。  「なんや?」  遮るように問えば、古和美はほんの一瞬だけ 沈黙し、  「……いえ。なんでも」  言葉を飲み込む。  そのまま視線を落とし、スマートフォンの画面を指先で滑らせた。  タップして、止まり、また次へ。  ――撮りためた写真。  (……なんや、こいつ)  小さく首を傾げかけて、けれど京之介の意識は、すぐ別の場所へ流れていく。  (……はよ終わらせて、帰らな)  胸に浮かぶのは、湯気の立つ晩ご飯の匂いと、 「待ってます」と微笑んだ、あの赤い瞳。  それだけで、胸の奥が甘く急かされる。  「んで。デバイスの件は、どないしたら ええんや?」  余計な前置きは捨て、核心だけを短く問う。  「……もう結構ですよ。貴方に差し上げます。 どうせ、虹彩も声も登録したのでしょう?」  古和美は画面から目を離さないまま、気のない声音で答えた。  「ん、ああ……」  「なら尚更。 あれはハッキング防止のため、一度生体認証を 登録すると――もう変更は出来ませんから」  淡々とした説明。  けれど視線はずっと、画面の奥に留まった まま。  そこに映っているものを、京之介は見なくても分かっていた。  ――悠月。  口元の、わずかな緩み方だけで十分だ。  (……なんや、こいつも)  同じ沈黙。  同じ焦れ。  違うのは、帰っていく先の名前だけ。  京之介は小さく息を吐き、椅子の背へと身を 預けた。  早く帰りたい。  愁の作った、自分の好物を食べるために。  そのあとの、スイーツよりも甘い時間に触れるために。  ――きっと、向こうも同じだ。  画面の向こうの少年に、今すぐ触れに行きたいのだろう――  そう思った、その瞬間だった。  古和美の頬が、ふっと一段深く緩む。  先ほどまでの淡々とした表情ではない。  胸の奥から滲み出たような、どうしようもなく甘い蕩け方。  (……よっぽど、ええ写真なんやな)  京之介は半ば呆れ、半ば納得するように目を 細めた。  すると――  「ほら。見てくださいよ。やっぱり愁より、 私の――」  嬉しさを隠しきれない声音で、古和美が身を 乗り出す。  その指先が画面に触れ、不意に写真が横へ 滑った。  ――次の瞬間。  そこに映っていたものを、京之介の脳が理解するまで、ほんの一拍。  「……はっ!!?」  腹の底から、弾けるような声が飛び出した。  ――メイド服の、愁。  白いフリルに縁取られた黒の衣装が、細い身体の線をやわらかく包み込み、胸元の小さなリボンが、かえってその無防備さを際立たせている。  視線はわずかに揺れ、こちらを見上げる赤い瞳は、薄く潤んでいた。  拒んでいるわけではない。  けれど――慣れてもいない。  その曖昧な恥じらいが、写真一枚の中に閉じ込められている。  スカートの裾は控えめに揺れ、覗く太ももは 白く、黒い布との境界―― いわゆる絶対領域が、妙に生々しい温度を帯びて目に刺さった。  守りたくなるほど可愛いのと、同時に―― 触れたくなる。  そんな矛盾を、たった一枚で突きつけてくる。  「ふふふふ♪ そんなに驚くほどですかぁー♪」  余裕を装った古和美が、自分でも画面を覗き 込み――  「……あ」  遅すぎる気づき。  もう手遅れだった。  「あんたぁぁッ!! どこでこの写真手に入れたんやぁぁぁッ!!」  気づけば京之介は立ち上がり、古和美の胸ぐらを掴み上げていた。  揺れる身体。  けれど古和美の口元には、小さな、意地の悪い笑み。  「ふふ。私は 貴方と違って――お友達が多いですからねぇ♪」  胸ぐらを掴まれたまま、指先だけで画面を 滑らせる。  次に現れたのは――さらに際どい角度の、 メイド姿。  「なっ……!?」  思考が、爆ぜる。  この距離。  この無防備さ。  こんな写真を撮れる存在など―― 一人しかいない。  脳裏に閃光のように答えが走る。  「……凛ッ!」  確信。  次の瞬間――  「あん子ぉぉッ!!! ほんまぁぁぁッッ!!!」  絶叫。  京之介は、ぱっと手を離した。  古和美のスマートフォンを粉々に叩き割る衝動がよぎる。  だがそれすら読んでいたかのように、古和美は端末を両手で抱き込み、胸元へ守るように 引き寄せた。  「ちっ……」 (……時間かかる……)  一瞬で判断が下る。  「あんたッ!! その画像、消しとけよ!! 人の彼氏なんや思っとんねん!!  ボケェッ!!」  吐き捨てるように叫び、京之介は踵を返した。  操作パネルを乱暴に叩き、扉を開く。  開いた瞬間―― もう駆け出している。  頭の中は、疑問と妄想でぐちゃぐちゃだった。  何故、あんな写真がある。  何故、凛は古和美に渡した。  何故、自分には寄越さない。  頼めば――愁は、あの格好をしてくれるのか。  「……っ……!」  足が、さらに速くなる。  駆ける。  駆ける。  跳ぶ。  深骸域の中心――  地上へと続く円環の吹き抜けを、京之介は 一直線に駆け上がっていった。  胸の奥で燃えているのが、怒りなのか、焦り なのか、それとも別の熱なのか―― もう、自分でも分からなかった。

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