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第9話

兄ぃの死を悲しんでいる間もなく、俺と結婚相手との顔合わせは来週に延期になり、しかも俺が跡継ぎに決まった為に顔合わせじゃなくていきなり結婚式を挙げる事になってしまった。 そして、その前に俺は跡継ぎとして妖怪と関係を持つ事になり、俺と一番親しいチロがその相手に選ばれていた。 兄ぃのお葬式は祈りを捧げる場所で営まれ、一族全員だけでなく山に住む妖怪たちも集まった盛大なものだった。 人も妖怪も関係なく、誰もが兄ぃの突然の別れを悼み、悲しんだ。 「繋さま、貴方様のご結婚を魁人さまと見届けられなかった事、本当に残念です。なれど魁人さまと私はポクナモシリより貴方様の幸せを願っております」 お葬式が終わると、コシンプは兄ぃのお供として共にポクナモシリ……死者の住む国に行く事になっていて、俺とチロがその見送り役を任されていた。 「チロンノップカムイ、繋さまの事、しっかり支えてあげてくださいまし」 「うん、分かってる、任せて。コシンプ、元気でね」 「ありがとうございます……」 『やっと楽になれます』 コシンプは最期にそう言って、兄ぃの身体と共に光に包まれて消えていった。 「あれってどういう意味なんだろう……」 「え?そのまんまの意味じゃない?コシンプ、ボクよりも長く生きてるからヒトの死を見送り続けてきて疲れきってたんでしょ」 俺の呟きに、チロは無邪気に答えた。 「分かってても結構ダメージ大きいんだよ?ずっと一緒にいたヒトの死を見送るのって。これはボクの推測だけど、もしかしたらコシンプは魁人に結婚相手に指名されて、やっと死ねるって思ったのかも。だってボクも繋と契りを交わす事に決まった時、そう思ったし」 そう言って、チロは背伸びをするといきなり俺にキスしてきた。 「!!」 いきなり奪われた、俺のファーストキス。 もう少しロマンチックなのを想像していたのに。 「繋、かーわいいっ!!これだけで顔真っ赤になってる」 「わぁっ、んんっ……!!」 抱きついてきたその身体を驚いて受け止めると、チロは俺の唇を舌で撫でる。 「口開けて。気持ちいいコトしてあげる」 「チ、チロ、そんないきなり……ッ……」 口の中に入ってきたその舌に、俺は背筋がぞくぞくした。 「これは練習だよ?繋はこれから結婚して、そのヒトを悦ばせなきゃいけない。愛し合う術を知らなかったら跡継ぎとして恥ずかしいよ」 口の端に唾液らしいものをつけて笑うチロは、今まで見た事のない顔で笑っていた。 「繋、キミが生まれてボクを慕ってくれて、ボクは本当に嬉しかった。ボク、今まで仲良くしてくれたヒトとは契りを交わす事も結婚する事もなかった。だからボクもコシンプほどじゃないけど、たーくさんのヒトを見送ってきたんだよ。ボクたち妖怪はキミたち一族に退治されない限り、跡継ぎと契りを交わして関係を持つか結婚しない限り、ポクナモシリに行けないんだ。まぁ、好きでずーっと生きてる妖怪もいるけどね」 いつもと少し違うチロに、俺はどうしていいか分からなかった。

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