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第10話
家に戻って来て夕飯を食べると、父が俺とチロを今まで絶対入ってはいけないと言われていた部屋に入れてくれた。
小さい頃からその描き方を教えられてきた一族に代々伝わる色々な模様が壁いっぱいに描かれ、その左側には祭壇の様なものがあった。
「チロン、頼むぞ」
「うん、ありがとう、久。ボクにこんな大役を任せてくれて」
「お前には私も世話になった。これで恩返し出来たとは思えないが」
「そんな事ないよ、久。ボクの願い、ずーっと忘れないでいてくれたんだよね。その気持ちがすごく嬉しいよ」
俺より少し背の高い父に、チロは抱きついていた。
「チロン……」
「久も繋も、ボクの大事な友達。ボクの大事な宝物」
チロを抱きしめかえす父の姿に、俺にはこのふたりがただならぬ関係だったように見えた。
父は部屋の真ん中に布団を敷き、その上に魔除けとされている模様が大きく刺繍された布を被せると部屋から出て行ってしまう。
「そんな不安そうな顔しなくていいよ、繋。ボク、ちゃんと教えてあげられるから」
俺はチロに手を引っ張られてその上に座ると、頭を撫でられていた。
「久はね、子供の頃身体が弱くて何回も死にかけてたんだ。ボクは責任を取らされて実家に返された久のお母さんに代わってひとりぼっちになった久を育てたんだ。雪女と久を結婚させたのもボクだよ。久、繋みたいに奥手だったから仲を取り持ってあげたんだ」
「ちょっ、俺みたいにって何だよ」
俺が抱えた疑問に答えてくれたかと思ったら、チロは突拍子もない事を言い出す。
「ボク、分かっちゃったんだよ。キミに気になる人がいるの」
「そ……それは……」
「隠してもムダだよ、繋」
誤魔化す為に言葉を探していると、チロは俺の唇に人差し指をおしあててくる。
「ここから声を発していなくても、キミのココロは声を発しているんだよ?久もキミくらいの時、おんなじだった……」
指を離すと、今度はキスされて、そのまま布の上に倒される。
「だから教えてあげたんだ、キミの気持ちはぜーんぶ雪女に聞こえてるよって。……まぁ、キミは相手がヒトだからそういう訳にはいかないけど……」
俺を見下ろしながら、チロは俺の着ていた葬式用の黒い着物を脱がし、自分も着ている白い着物を脱いでいく。
その目はいつもと違ってて、どこか色っぽく、でもどこか怖い気がした。
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