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第16話

しきたり通り運ばれてきた食事をふたりで分け合って食べると、式は終わった。 「新郎新婦のふたりは今日はここで休んでもらうが、明日から雅美くんには家で暮らしてもらう」 「繋、夜ご飯とお風呂の時にまた来るから奥さんと仲良くするんだよ。じゃあね!!」 松若くんの家族がいなくなり、俺の家族もいなくなると、広い部屋に松若くんとふたりきりになってしまった。 「あ……あの……」 このまま向かい合ったまま無言でいるのはまずい。 俺は思い切って話しかける。 「何すか」 「あ、えっと、その、俺の事、覚えてる?」 その目は、初めて会ったあの時に戻った気がした。 やっぱり綺麗だなって思いつつ、ちょっと怖くもあった。 けど、結婚したからには何とか打ち解けなきゃいけない。 「……はい……」 「そ、そっか、良かった。俺、君にずっとお礼が言いたかったんだ。助けてくれてありがとうって」 ゆっくりと頷いてくれた松若くんに、俺はようやくずっと温め続けてしまった思いを伝えられた。 「……あんなの、大したことじゃねーっす」 「でも、俺は嬉しかったよ。それでまた君に会いたいって思ってた」 「…………」 少し照れくさそうにしている姿が可愛くて、つい本音が出てしまう。 「お……オレ、結婚相手がいる事は小さい頃から聞かされてて、将来の為にって言われて料理とか掃除とかやらされてきたけど、相手が先輩で、跡を継ぐ人だったなんてつい最近まで知りませんでした」 俺ほどじゃないけど低めの澄んだ声が心地良くて、ずっと聞いていたくなる。 「俺もだよ。俺は家事とか掃除はそんなにしてないけど、兄ぃが突然死んじゃって、そこからちょっと色々あった」 「……あの、先輩、オレ、男だけどいいんすか?」 頬を赤らめながら話す松若くんはめちゃくちゃ可愛すぎて、俺は向かい合っていたその距離を狭めてしまっていた。 「うん、ちゃんと子供も出来るみたいだし。それに俺……結婚相手が君で良かったって思ってるから……」 その肩に触れて言うと、松若くんはますます頬を赤く染めていく。 「……すんません。オレ、突然の事で気持ちの整理が全然ついてなくて。先輩の事、別に嫌いじゃないけど、いきなり結婚相手って言われても……」 「そうだよね……」 気持ちはすごくよく分かる。 俺だっていきなり跡を継ぐ事になってチロと関係を持つ羽目になって戸惑った。 だから……。 「あのさ」 「はい」 「少しずつ、少しずつお互いの事分かっていけばいいんじゃないかな。家にいきなり住むのも大変だと思うからさ、最初は週末だけ来るとかにして」 俺自身もそうする事で少しずつ、夫婦になっていけたらって思ったんだ。 「い、いいんすか?」 「父に頼んでみるから。俺、俺なんかと結婚してくれる君に辛い思いをさせたくない」 「先輩……」 あ、どうしよう。 このまま見つめ合ってるだけなんて……って思ってる俺がいる。 「…………」 手が震えたけど、俺は松若くんを抱き締めてしまった。 布越しにその鼓動が聞こえて、何とも言えない甘い匂いがした。 「ご、ごめん!!」 変な気持ちになりそうだったから、俺は慌てて松若くんから離れる。 「……変な先輩……」 そんな俺に、松若くんは初めて口元だけだけど笑顔を見せてくれたんだ。

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