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第25話
神輿を担ぐ時は輝政と一緒で気まずかったけど、その後は松若くんとふたり、会場の清掃活動をする事になったから気楽な気持ちでいられた。
「繋、今日はこれで終わっていいよ。オレらもすぐ行くから、あっちで奥さんと花火見て来いって」
「あ、ありがとうございます」
親戚の人が俺と松若くんを先に上がらせてくれて、俺は松若くんと花火を見に行く事にした。
「あ、そうだ。松若くん、山から花火、見た事ある?」
「いえ、ないっす」
「じゃあ山から見てみない?いい場所があるんだ」
「分かりました」
俺は、毎年兄ぃとコシンプと見ていた場所に松若くんを連れていった。
一族しか入れない、山の開けた場所。
町の夜景と花火が一緒に見える、俺のお気に入りの場所だった。
「スゲーっすね」
松若くんと並んで地面にそのまま座る。
「うん。花火は毎年ここで兄とその奥さんと3人で見てたんだ」
頭の中に、去年のふたりの姿が浮かぶ。
ふたりと一緒に花火を見る。
そんな日が毎年、ずっと続くと思ってたのに。
「先輩……またお兄さんの事、思い出したんすね」
「……あ、ごめんね、俺、ホントダサいよね。朝もカッコ悪いところ見せちゃったし」
俺はまた、目に涙を浮かべてしまっていた。
「……いいっす、オレの前だけですもんね、そんな風に泣いてるのって」
「ま、松若くん……?」
そう言って、松若くんは俺に抱きついてくる。
「オレ、今まで女の子に好きだって言われた事あったけど、だから?って感じで、何とも思わなかった。なのに、今は先輩に会う度に胸がドキドキして、苦しくなって……」
その身体からも伝わる鼓動。
手伝いをして汗をかいたからか、その甘い匂いがすごく立ち上っていて、俺もドキドキしてしまう。
「先輩の事、好きになっていくの分かるんです。けど、こないだじいちゃんに会った時に『うちの人間は夫になる人には絶対惹かれる、そして絶対逆らえなくなる』って聞いて、これってオレの気持ちじゃないのかなって。オレ、オレがオレじゃなくなってくの、嫌なんです」
「……!!」
その目に涙が滲んでいるのを、俺は見てしまった。
「すんません、こんな事言って……」
肩を震わせている松若くんに、俺はその頭を撫でながらおでこにキスしてしまっていた。
「松若くんは松若くんだと思うよ。そうやって悩んでいる時点で、それは君の気持ちだって俺は思う。だから……好きって言ってもらえてすごく嬉しいよ」
「先輩……」
あぁ、どうしよう。
勢いでこんな事して。
結婚してるけど、まだそんなに日も経ってないのに。
「……何すか、今の。今のでキスしたつもりなんすか……?」
「あ、いや、その……」
何か言わなきゃと考えているうちに、怒ったような、でもその頬はほんのり赤い松若くんの顔が近づいてくる。
「……ん……っ……!?」
ちゅっ、という音と共に、唇に柔らかな感触。
それが松若くんからのキスだと気づいたのは、それから少ししてからの事だった。
「……先輩、いつまで固まってんすか」
目の前には真っ赤になっている松若くん。
可愛くて、可愛すぎて、俺はおかしくなってしまった。
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