25 / 60

第25話

神輿を担ぐ時は輝政と一緒で気まずかったけど、その後は松若くんとふたり、会場の清掃活動をする事になったから気楽な気持ちでいられた。 「繋、今日はこれで終わっていいよ。オレらもすぐ行くから、あっちで奥さんと花火見て来いって」 「あ、ありがとうございます」 親戚の人が俺と松若くんを先に上がらせてくれて、俺は松若くんと花火を見に行く事にした。 「あ、そうだ。松若くん、山から花火、見た事ある?」 「いえ、ないっす」 「じゃあ山から見てみない?いい場所があるんだ」 「分かりました」 俺は、毎年兄ぃとコシンプと見ていた場所に松若くんを連れていった。 一族しか入れない、山の開けた場所。 町の夜景と花火が一緒に見える、俺のお気に入りの場所だった。 「スゲーっすね」 松若くんと並んで地面にそのまま座る。 「うん。花火は毎年ここで兄とその奥さんと3人で見てたんだ」 頭の中に、去年のふたりの姿が浮かぶ。 ふたりと一緒に花火を見る。 そんな日が毎年、ずっと続くと思ってたのに。 「先輩……またお兄さんの事、思い出したんすね」 「……あ、ごめんね、俺、ホントダサいよね。朝もカッコ悪いところ見せちゃったし」 俺はまた、目に涙を浮かべてしまっていた。 「……いいっす、オレの前だけですもんね、そんな風に泣いてるのって」 「ま、松若くん……?」 そう言って、松若くんは俺に抱きついてくる。 「オレ、今まで女の子に好きだって言われた事あったけど、だから?って感じで、何とも思わなかった。なのに、今は先輩に会う度に胸がドキドキして、苦しくなって……」 その身体からも伝わる鼓動。 手伝いをして汗をかいたからか、その甘い匂いがすごく立ち上っていて、俺もドキドキしてしまう。 「先輩の事、好きになっていくの分かるんです。けど、こないだじいちゃんに会った時に『うちの人間は夫になる人には絶対惹かれる、そして絶対逆らえなくなる』って聞いて、これってオレの気持ちじゃないのかなって。オレ、オレがオレじゃなくなってくの、嫌なんです」 「……!!」 その目に涙が滲んでいるのを、俺は見てしまった。 「すんません、こんな事言って……」 肩を震わせている松若くんに、俺はその頭を撫でながらおでこにキスしてしまっていた。 「松若くんは松若くんだと思うよ。そうやって悩んでいる時点で、それは君の気持ちだって俺は思う。だから……好きって言ってもらえてすごく嬉しいよ」 「先輩……」 あぁ、どうしよう。 勢いでこんな事して。 結婚してるけど、まだそんなに日も経ってないのに。 「……何すか、今の。今のでキスしたつもりなんすか……?」 「あ、いや、その……」 何か言わなきゃと考えているうちに、怒ったような、でもその頬はほんのり赤い松若くんの顔が近づいてくる。 「……ん……っ……!?」 ちゅっ、という音と共に、唇に柔らかな感触。 それが松若くんからのキスだと気づいたのは、それから少ししてからの事だった。 「……先輩、いつまで固まってんすか」 目の前には真っ赤になっている松若くん。 可愛くて、可愛すぎて、俺はおかしくなってしまった。

ともだちにシェアしよう!