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第33話

新学期早々にそんな感じで今までとは違うスタートを切った俺。 週末は学校生活が始まって初めて松若くんが泊まりに来る事になっていた。 すぐ先の将来の事も考え、松若くんは一緒に暮らす家に持ってきたい荷物があれば事前に運ぶよう父に言われていたけど、着替えくらいという事だった。 松若くんは土曜が練習、日曜が練習試合という予定だったので俺はトゥンナイに手伝ってもらい、松若くんの練習中に家にお邪魔して、その冬服を預かって家に運んでいた。 「わざわざ僕なんかに挨拶だなんて、ありがとうございます」 今日はたまたまお休みで在宅していた松若くんのお父さん。 ついでになってしまったけど、俺はお邪魔した時にご挨拶していた。 柔らかい笑顔で俺に頭を下げてきたお父さんは、俺たちの通う学校の向かい側にある小学校で先生をしていると教えてくれた。 「僕、大学で文化人類学を学んでいて、その時君の一族の事も勉強しましたよ。独自の文化を持つ、謎の多い『鬼』と呼ばれた一族がいるって」 「そうなんですか」 「まさか自分の息子がそんな一族の、それも次期頭領の妻になるなんて思ってもみませんでした。雅美の事はほぼ妻や妻の実家に任せてしまって、僕は親らしい事を何一つしてあげられていないのですが……」 そう話すお父さんは、どこか寂しそうに見えた。 そこから俺は、この人が本当は松若くんのためにやりたい事があったのに出来なかった、もしくはさせてもらえなかったんじゃないかと思った。 「道籠くん、君はその……家の為にこんなに若く、しかも男の雅美と結婚しなければいけなかった事を嫌だと思わなかったの?」 お父さんからの突然の質問。 「……俺も10代で結婚は早すぎるって思ってました。実際ギリギリまで伸ばそうとしていましたし。相手が男って事に関しては、松若くんだったから受け入れられたと思っています。俺、今すぐは出来ませんけど、松若くんの事、絶対幸せにします」 俺は少し考えた後で正直に話したけど、話しているうちに松若くんへの想いが込み上げてきてしまって、最後の方は声が大きくなってしまった。 「凄いね、君は。まだ高校生なのにそんな風に言えるなんて。若くても跡を継ぐという事をちゃんと分かっているのが伝わってくるよ。君と結婚してから雅美も変わってきているように見えたけど、君がそうしてくれているんだね」 「…………」 『変わってきている』と言われて、俺は何故かあのいやらしくて可愛い松若くんの姿を思い出してしまっていた。 お父さんが言いたいのは絶対にそういう事じゃないのに。 「雅美の事、どうかよろしくお願いいたします」 「は、はい……」 俺は心の中で謝りながら、素知らぬ顔でお父さんと固い握手を交わしていた。

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