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第34話

松若くんの部活が終わるまで、俺はお母さんから家で待っていればいいじゃないと言われ、松若くんの小さい頃のビデオを見せてもらってその帰りを待っていた。 松若くんは帰宅するとすぐにシャワーを浴び、俺の家に行く準備をしてくれた。 「雅美、明日は何時から試合なの?」 「10時です」 「分かったわ。じゃあ10時過ぎに体育館に向かうわね」 「はい」 短くてツンとはねている髪がシャワーの後で濡れていて、なんとなく色っぽく感じた。 「繋さんは明日、試合見に行きます?もし行くならご一緒しませんか?」 「あ、はい、ありがとうございます。よろしくお願いします」 お母さんが声をかけてくれて、俺は松若くんと一緒に家を出た後、松若くんの家に向かってお母さんたちと合流してから試合を見に行く事になった。 帰りのバスの中。 土曜日で平日以上に人が乗っていないバスには、俺たちの他に観光客らしい女の子3人グループが乗っていた。 「ねー、声かけてみようよー」 「こんな田舎にあんなイケメンいるなんてビックリー!!」 「なんか寄り添って乗ってるの、可愛くない?」 終点まであと少し。 松若くんは部活で疲れて俺にくっついて眠ってしまっていた。 「あのー、どこまで行くんですか?」 俺たちの前の席に移動してきた女の子たち。 その中のひとりの子が話しかけてくる。 お化粧バッチリの女の子。 コシンプにはだいぶ劣るけど、キレイな人だった。 「慈圀谷ですけど」 「わぁ〜!!声低くてカッコイイ!!」 「めちゃくちゃイケボですね!!」 「あたしたち観光で来たんですけど、あなたもですか?」 「い、いえ、俺は地元……」 女の子たちのテンションの高さに引いてしまう俺。 「ん……」 その大きな声に、松若くんがモゾモゾと動き出した。 「先輩……誰すか、この人たち」 不機嫌そうに話しながら女の子たちを見る松若くん。 寝起きだからなのか、いつもよりもその目つきは怖かった。 「か、観光でこっちに来た人たちなんだって。松若くん、もうすぐ着くからもう起きててね」 「……うす」 「学生さん?先輩と後輩で仲良いなんてかわいい〜!!」 女の子たちは歳上なのか、俺たちのやり取りに黄色い声をあげる。 「ふたりともカッコイイから、当然彼女いるわよね?」 「…………」 一番気が強そうな人が聞いてくる。 「……俺はいません。もう結婚してるんで」 そう言って、俺は見えないところで松若くんの手を握っていた。 松若くんは俺の顔を見て一瞬びっくりした顔をしたけど、その指を俺の指に絡めてきてくれた。 「えっ、結婚!?」 「まだ10代よね?早くない?」 「い、家の方針で……」 「えぇっ!?それでもう結婚って、人生全然楽しんでないじゃん!!こんな若くてカッコイイのに勿体ない!!」 女の子たちは俺の『結婚』という言葉にめちゃくちゃ食いついてくる。 もう話しかけないで欲しくて言ったのに、逆効果だったみたいだ。 「うるせーな、先輩が結婚してたってアンタらに関係ねーだろ」 「松若くん……」 騒ぐ女の子たちを、松若くんはその一言で黙らせる。 それで女の子たちはそそくさと席を移動していった。 「あ、ありがとう」 「……本当はオレの旦那ですって言ってやりたかったっすけど」 「…………」 俺の手をぎゅっと握って少し頬を赤くしながら話す松若くんに、俺の胸は熱くなった。

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