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第40話
こうして、俺と松若くんは平日はたまに学校で、週末は俺の家で、お互いの想いを、肌の温もりを確かめあう関係になっていた。
それが1ヶ月ほど続いたある日曜日、帰宅した俺たちを待っていたのは父からの大事な話だった。
「お前たちの家が完成した。来週末からそこに住んでもらいたいと思っている。その前にしきたりに従い、魁人たちの家を焼く。繋、お前の力でやるんだ」
「…………」
兄ぃたちの家。
家から歩いて3分くらいのところにあるけど、高校を卒業してから本格的に暮らすって兄ぃが言ってて、ほとんど使っていなかった家だ。
俺の一族は人が亡くなるとその人が住んでいた家を焼くという風習があり、それは頭領と時期頭領の役目だと父が教えてくれた。
「チロン、繋はそれくらい出来るようになっているのだろう?」
「あー、うん、まぁ、大丈夫だと思うよ」
父が尋ねると、チロは曖昧な返事をした。
俺がまだ力のコントロールが出来ていなくて、その日によってムラがあるからだ。
「食事の後、お前たちの家まで連れて行く。繋、雅美、いいな?」
「は、はい」
「分かりました」
突然の話だったのに、松若くんは俺よりも落ち着いた様子で話を聞いているように見えた。
帰ったらいつものように松若くんとの甘い時間を過ごすはずだったのに。
「ざ〜んねんだったね、繋。明日はガッコウだから今日はこの後お風呂入って寝るだけだね〜」
「うるさい!!」
父が車を運転してくれて、人間の姿のチロが助手席に乗って一緒に家に向かっていた。
「あの…先輩の心の中、あんまり覗かないでもらえませんか?」
「覗いてるわけじゃないんだよ〜、ボクら妖怪はね、ヒトの気持ちが勝手に聞こえちゃうんだ。だから……キミの気持ちもハッキリ聞こえるよ。ふふっ、結婚したばっかりなのにもうすっかり仲良しでいいねぇ〜」
「チロ、やめろってば!!」
車で5分ほどの距離。
車内はチロのせいで静かになる事がなかった。
「……ここだ」
バス停を通り過ぎて少し山の中に入った場所。
坂を登ったところに見える、真新しいコンクリート造りの平屋建ての広い家。
入口のすぐ横のガラス張りの場所にバスケットゴールがあるのが見えた。
「すごいよね?久がね、雅美くんの為に考えてくれたんだよ」
「あ、ありがとうございます」
父から鍵を渡されて中に入ると、すぐにふたりでそのバスケットゴールのある部屋を見に行った。
ちょっとした体育館のような部屋。
松若くんは助走をつけると、ゴールに向かって跳び、そのリングにぶら下がる。
「わぁ!さすがだね、雅美くん」
「あっす」
あぁ、やっぱりカッコイイな、バスケをしてる時の松若くん。
「気に入ってもらえて何よりだよ。子供との遊び場としても利用して欲しい」
「は……はい……」
父から『子供』という言葉が出て、俺はドキッとしてしまう。
松若くんもびっくりした顔をして俺の方を見ると少しだけ頬を赤くしていた。
それから既に家電や家具の入った部屋を見せてもらい、来週末に家にある荷物を搬入するよう父から言われた。
家には俺たちの寝室からだいぶ離れた場所にチロの部屋もあり、どうやらチロとは今まで通り同居するようだ。
「ボクも一緒に住むなんてなんか申し訳ないけど、よろしくね、雅美くん。ご飯とか家事は一通り手伝えるから遠慮なく言ってね!!」
「……料理はひとりで作りたいんで手伝わなくていいっすよ、チロ先輩」
「わぁ〜、カッコイイ!!じゃあ甘えるね〜」
……大丈夫かな、3人で暮らすの。
いや、その前に兄ぃの家を燃やす大役、果たして俺に出来るのかな。
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