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第55話
輝政が来る少し前。
俺は今までに感じた事のない空気を感じた。
なんていうか……冬とは違う、ものすごく重く冷たい空気。
それがだんだん俺を包んでいくような気がして、思わず掌に力を込めてしまっていたんだ。
「…………」
手の中の炎は大きく拡がっていってその空気を打ち消していくような感じがした。
そして、俺はその炎の中に兄ぃの姿を見た。
『気をつけろ、繋』
「兄ぃ!!」
一瞬だけ見えた兄ぃは今まで見た事のない険しい顔で俺に言い、すぐにその姿が見えなくなった。
輝政は、兄ぃと入れ替わるように教室に入ってきた。
……見た事のない女子生徒と一緒に。
「何だよ、その顔。寝てたのかよ、お前」
「い、いや、寝てないけど……」
俺の前で堂々と腕を組んでいる、恋人同士のようなふたり。
そんな感じで輝政の隣に並んでいるのは、コシンプと同じくらい美人でスタイルもいい、高校生らしからぬ風貌の髪の長い女子生徒だった。
「うふふっ、繋くんって輝政の話してた通りの人なのね」
「だろ?こいつ、見た目だけはそこそこ立派に見えるけど、めちゃくちゃヘタレでさぁ……」
上目遣いで俺を見たその瞳に、俺は人間を感じなかった。
それどころか、嫌な感じさえした。
妖怪、それも悪い妖怪。
そうとしか思えなかった。
「て、輝政、この人は……?」
「あ?お前に関係ねーだろ」
「輝政、そんな風に言ったら可哀想でしょ?初めまして、荒井紗良(あらいさら)よ。先週転校してきたの。よろしくね、繋くん」
俺を睨みつけてきた輝政を窘めながら話すと、彼女は俺に握手を求めてくる。
「あ、あぁ、よろしく……」
それに応じたけど、その手の冷たさはやはり人間とは思えなかった。
輝政、気づいていないのか?
それとも何か考えがあってこうして一緒にいるのか?
俺は、俺はどうしたら……。
「繋くんってもう結婚してるんですってね。輝政から聞いたわ。……どんな方なのか、気になるわねぇ……」
「!!」
妖しく光ったその瞳。
何か……悪い事を考えているようにしか見えない、不気味な瞳だった。
「紗良、そいつの事なんかいいからこっち来いって。繋、早く行けよ」
「あ、うん、じゃあ……」
俺は逃げるようにその場を後にしていた。
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