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【16】夜会と視察がフラグでないことを祈る。
俺は15歳になった。
前世ではあと十年ほどで幽閉されたのだが、この当時は全然そんなことを考えていなかったな……。
薬草の栽培は順調に進んでいる。
俺が知る限りの解毒薬、感冒薬、傷薬などを栽培している。
前世と比較すれば、この薬草園の内部だけでも、少なくとも十年分は医学が発展していると言えるだろう。ただちょっとだけ不安ではある。進めることでおかしな変化が起きたらどうしたものか。いいや、発展していくのはいいことだと祈ろう。
最近目立った変化はといえば……父から度々視察に行って欲しいと言われることである。考えてみれば王族の仕事は分担しないとこなせないし、兄は当然この歳の頃には視察に行っていたわけで……。まぁ、俺は安定して、病弱を理由に断っているのだが。
兄はといえば、19歳になった。
俺の背は未だに伸びる気配がないが、兄は高い。前世では、俺はこの時期、背が伸びないことがコンプレックスだった。今ではずっと子供のままでいたいとさえ思っている。だがそんな俺も15歳。今年は夜会デビューだ。
新しい服を仕立ててもらったりしながら、俺は当日を迎えた。
「これはこれは第二王子殿下……! 実に麗しい」
ダンスは義務ではないため、美姫に囲まれている兄を壁際から眺めていた時だった。
恰幅の良い貴族が一人、俺に歩み寄ってきた。誰だろうか。服装から貴族だとはわかるのだが、残念ながら俺の記憶にはない。
その貴族は……不意にガシッと両手で俺の右手を握った。
「ぜひ一度ゆっくりとお話させていただきたかったんです」
「はぁ……?」
「想像していた通り、絹のような肌……!」
そう言うと男は俺の手に唇を近づけてきた。え。あっけに取られていた時だった。
「貴様、気安く俺の弟に触るな!」
いつの間にかそばにいた兄が割って入ってくれた。た、助かった……!
ウィズは俺の手首をきつく握ると歩き始めた。足をもつれさせながらも慌ててついていく。すると王族用の休憩室へと入った。ここまで来れば安心だ。
そう考えていたら、兄が俺の肩に手を置いた。そして腰を折って覗き込んできた。
「どうしてそんなに無防備なんだ……お前に言えばいいわけじゃないとは分かっているけどな! 言わずにはいられない」
む、無防備? 悪いが俺は、どこから刃物を向けられようとも避け切る自信があるぞ……? 一体何の話だ? そう思っていたら、兄の顔が近づいてきた。ん?
目を伏せた兄の唇が真正面にある。は?
困惑して硬直していたその時だった。
「ウィズ様、フェル様、先ほど騒ぎがあったようですが、大事ないですか?」
コンコンと、扉を二度叩く音がした。見ればユーリスが立っていた。
「ち、違う、べ、別に、キ、キスしようとしていたわけじゃないんだからな!」
兄はそんなことを叫ぶと走り去った。腕を組んだユーリスは、それを見送ってから、俺に対してにこやかに笑った。
「また一つ、貸しですよ」
「……え?」
「まぁ俺も愛しのフェル様のキスシーンなんて見たくないので」
「は?」
「俺はともかく、ウィズ様の愛は実に深そうですね」
ユーリスはそう言うとクスクスと笑った。俺は必死で現状理解に努めた。
まさか……な……。
ブラコンだブラコンだとは思っていたが、兄とはちょっと距離をおいたほうがいいんじゃないのか……?
そんな夜だった。
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