2 / 53

第2話

 そこには――……実は、ちょっと前から存在だけチェックを入れておいたマッサージ店があった。Cafe&マッサージという看板が出ている。街から俺宅(寺をしている)までの一本路の入り口付近にあるため、最初は、「こんな店あったっけ?」と、そう言う認識をしたのだったと思う。  一度気づいてからは……俺は、通りかかる度に、その前では、足早になった。  何となくであるが、そう、本当に何となくなのだが……怖いのだ。  俺は、寺に生まれて、一応住職なんていうものを生業としているのだが、若干霊感的なものがあるらしいのだ。らしい、というのは、自分でも懐疑的だからである。  俺、視えちゃった事は、実はほとんど無いのだ。  ただ、小さな頃から、”嫌な感じ”と”何か怖い”は、経験多数である。  また、俺は視えないけど、この土地は、何故なのかテレビで見る常識とは異なっていて、『幽霊? いる、いる!』みたいな人間が多いのだが……彼らに言わせると、俺がお経を読むと、幽霊がいなくなると言うのだ。そんな事を言われても、最初から見えない俺は、最後まで見えないので、いたのかいないのかも不明だし、本当にお経に効果があるのかも分からない。  なお、俺のお寺は、除霊とかを、本来受け付けていない。  密教系の仏教ではあるのだが、この土地土着の亜種要素が含まれている。  それが関係しているわけでは無いのだが、俺的に、やっぱりそういうのは、専門家(この土地だと、俺の家の本家の玲瓏院家とか)が、やった方が良いと思うのだ。お寺は本来、除霊をする所では無いのである。強いて言うならば、浄霊となるのだろう。  が、俺の家、ほぼ檀家ゼロに等しい……。数軒あるだけでも、有難いのだが。そちらでの俺の年収は、世間では坊主はお金持ちだとか言っているが……百万円に達した年は良い方だったりする……。  勿論それじゃあ二十七歳独身男性の俺、マッサージはおろか、食べていけない。生きていけない。よって――俺は、結局、頼まれるがままに、お経を読みに出かけるバイト……端的に言えば、除霊のバイトをしている。  詐欺だとは、言わないで欲しい。見えないけど、一応、”何か嫌な感じ”が”あ、嫌じゃなくなった”程度になるまで、頑張ってお経を読んでいる。俺は、その瑣末な感覚の差異を、一応霊感であると捉え、お祓い屋さんをしているのである。  そんな俺の感覚的に――あの、新しいマッサージ店であるが、どことなく奇妙なのだ。本来、怖いものは、直ぐに分かる。だから俺は、全力回避する。  除霊で食べている俺ではあるが、俺、怖いの本当に無理だ! 無理すぎる! 怖いんだ。怖いのは、大嫌いだ。ホラー映画とか、ありえない。無理!  だからこそ、怖いものには、人一倍敏感でもある。  だと言うのに、あの店……絢樫Cafe&マッサージという店が、『怖い』と明確に気づいたのは、比較的最近だった。  具体的に言うと、店の手前まで普通で、店前通過中のみ悪夢から覚めた時のような不可思議な動悸がして、店を通過後全てが気のせいだった感覚に陥るのだ。  怖い。本当、怖い。え、何コレ?  そうして気合いを入れて見てみると、更に遠方から近づく時は、何か嫌な感じを覚え、大分遠方に遠ざかってからは、凄く怖い感じがすると悟った。  よって、結論として、俺の経験則的に、あの店は、かなりヤバイ。  なので俺は、いつも全速力で通過している。  今も雨だからじゃなく、怖いから足早になりかけて――……「っく、うわぁ」  俺は思わず立ち止まった。立ち竦んだが正しい。ズドンと一気に肩が重くなったのだ。何かが起きたのが直感的に分かった。コレ、アレだ。あの、集落のはずれにあったお化け屋敷の外結界を誰かが破ったな……完全にあそこの気配がする、うわぁ。  そう……俺も、長年悩まされている肩こりの正体に、ちょっとは、気づいてもいる。  霊障ってやつだと考えられる。  だって、朝お経読むと、ちょっと楽になるしな……。  しかし、そんな事を口にしたら、精神科医(仮)の兄に頭を叩かれるので、言わない。  それに俺は、この土地の常識じゃなく、テレビの常識を信じるので、内心では幽霊なんていないんじゃなかろうかとも強く思っている。  けど、けれど、だ。  頭が痛い。俺は蹲りそうになったが、それは堪えた。吐き気までしてきたが、それもこらえた。ズキズキというよりは、ガシっと締め付けられたような頭痛が響いてくる。両肩には、一体何トンの岩が乗っているのか聞きたい程だ。無理だ、これ、歩けない……。  ここまで酷いのは、久しぶりだ。

ともだちにシェアしよう!