3 / 53

第3話

 前の時は、風邪かなと称して、すぐ上の精神科医の兄のもとに出かけたら、「肩にホコリついてる」と言われて、バシンバシンと叩かれた瞬間に治ったが、兄は、本日は救急のバイトだ。俺には、兄が二人いる。一番上の兄は、子持ちで、別宅で子供と二人で暮らしている。あの人は、心霊現象とかとは一生縁がなさそうな顔をしている。良いなぁ……。  だけど、困った。体も限界だが、雨もかなりキてる。土砂降りだ。  俺は、チラッと、怖いお店を見た。怖い、本当怖い。行きたくない。絶対近寄りたくない。でも……今、ちょっとでも体を楽にして、かつ雨から逃れるには、あの店しか、見渡す限り存在しない。  どうしよう。行きたくない。怖い。でも、肩もまずいし、ああ、けど、怖いよう……誰か、助けて……うーん、怖い……。  と、俺はグルグルと思考の迷宮に投げ込まれた。しかも頭痛がしているから、上手く頭が回らない。俺は、とりあえず家を目指し、重い足取りを再開した。  だが、どんどん肩が重くなる。最悪の具合である。倒れそうだった。救急車を呼んでも良いレベルか、検討を開始した。そんな時、丁度斜め前に、嫌な感じがするお店が迫った。怖いお店だ。怖い。  だが――毎回の常である通り、やはりお店の真正面は、不思議と怖くないのだ。  不可思議な動悸がしつつも、安堵している感覚だ。何なのだろう。  再びチラッとお店を見る。中には、二人の店員さんが見えた。  一人は、背の高い、尋常ではないイケメンだった。爆発しないだろうか。さぞかしモテるんだろうな。童貞の俺からすると、イケメンは、それだけで罪だ。色々な意味で。  俺は、この人物を見た瞬間、視線が釘付けになった。  ――怖すぎて逆に見ちゃうんだけど、ナンダコレ?  人生で初めての体験である。俺は、首を傾げた。店の前に来た途端、比較的体が楽になったのもあり、さくっと傘の下で首を捻る事が出来た。  外見自体は、本当に人間か疑う程の美貌の持ち主(男だけど)という以外の感想は、あまりない。形の良い猫のような瞳が、若干堀が深めのせいか、紫っぽく見えるが気のせいだろう。スっと通った鼻筋は、俺に美術センスは無いが、ちょっと石膏像を作れるなら再現してみたくなる程度には、整っている(つまり俺に再現は無理だ)。恰好良く微笑している唇は、きっと十人中七人くらいの街コン参加中女性が話しかけたくなる人の良さそうな艶がある。しかしながら――……”何か怖い”……。  もう一人の少年は、全く怖くない。無個性な十代後半くらいの茶髪の少年は、眺めていると癒される感じがする。ハーフかクォーターなのか、大きなキラキラした瞳が黄緑色に見える。背も低い。だが、威圧感は、身長の問題では無いだろう。  そう考えていた時、例の怖い方の青年と目が合った。  ――ゾクリとした。  息が凍る。怖い。それが、やはり、直感的に思った最初の感想だった。  逃げなければ。大至急ここから逃げなければならない。  確かにそう考えているというのに、俺の足は、扉に向かい動き始めた。  ダメだ――惹きつけられて、逃れられない。  その時、俺の脳裏に、激しい雨の音が走った。

ともだちにシェアしよう!