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第5話

 それから――バスローブに着替えて、うつ伏せになった所までは、覚えている。  が、気づいた今、俺は動揺していた。 「え」 「――安心しろ、お前は、今人生で最高に気持ち良いマッサージを受けてるだけだ」 「……ああ」  俺は、頷くと同時に、非常に安心していた。  けれど……先程とは異なり、思考がはっきりしてきた。  なんと現在俺は……全裸だった。え?  寝台の上にいる。これは、マッサージ用のものだ。なのに、なんか無駄に豪華なセミダブルベッドに見える。まぁ、それは良い(?)  良くないのは、その壁際で、俺は、何故なのか背中を壁に押し付けながら、涙をこぼしているという現実だ。真っ裸だ。え? え? 今時、健康診断ですら、こんな事は、無い。更にマッサージジプシーの俺が断言できる事として、普通のマッサージにおいて、全裸も無い。性感マッサージだったとしたら、風俗という表示を出していないのだから、ここは違法だ。けど、そう言う事じゃない。だって、俺、男だ。そして俺をマッサージしている、胸のバッチに『ローラ』と書いてあるイケメンの青年も、男だ。どこからどう見ても男だ。  その男に、俺は左の乳首を吸われている。全身が熱い。気づいた俺は、射精したくて仕方がない衝動に気づいて、ブルリと震えた。 「ぁ、ぁ、ぁ……ぁ、嘘、あ」  俺のものとは思えないような高い声が、勝手に俺の口から出た。太ももが勝手に震えるのも止まらない。俺は、射精したいのに、何故なのかそれはしてはならないと理解していた。必死でつま先を丸めて、吐息を何度もして、体の熱を逃がそうと試みるが、酷くなる一方だ。 「ああっ!」  その時、強めに右の乳首を指で弾かれた。だらりと、露出している俺の性器から、先走りの液が垂れる。 「ひぁっ」  今度は、左右の乳首へ同時に、指と口の刺激が来た。  俺は思わず目を伏せた。すると、眦から涙が溢れていく。 「ぁ、はぁっ、ン」  ダメだ、なんだこれ。気持ち良すぎる。  俺は、冷静に考えて、男にセクハラ――では済まない事をされているのだと思う。最早、痴漢と称して良いだろう。通報案件だ。だけれども、まずい、頭がおかしくなりそうなほどに気持ちが良い。 「――安心しろ、全部夢だ」 「あ、あ」  ――だよね!  俺は、全部夢だと、内心で理解した。なにせ、イケメンもそう言った。  うん、間違いない。 「だから、安心して、気持ち良くなれよ」  その甘い声――テノールの声音を聞いた瞬間、俺はまるで夢を見ているような気分に陥った。同時に、それもそうだと思った。こんな事は現実ではありえない。なのだから、こんな人生初にして二度と無いだろう快楽に浸ってみても良いじゃないか。童貞の俺には、未知の事ばかりだが、だからこそ……きっとこれは、俺の、夢なのだろう。マッサージ中に、多分俺は、ウトウトしていて、今は、夢を見ているのだ。 「ぁ……ああっ、あ、ああっ」 「右と左、どっちが好きになって来た?」 「ひ、左……」 「じゃ、右を虐めてやろうか」 「!」  今度は、右の乳首に吸いつかれて、舌先でチロチロと乳頭を弄られた。それから、甘く噛まれた時、その刺激が、下腹部に直結した。既にガチガチの俺の自身の先からは、再び液が零れる。 「あ、嘘、あ、ああ、あ、ダメだ」 「乳首だけで、イきそうなのか?」 「っ……」  図星だった。だが、俺は今、出してはならないのだ。 「そうだ。『命令』だからな。たっぷり飲ませてもらうぞ」  ――それから程なくして、口淫された。  俺は、(夢とは言え)人生で初めてされたフェラに、夢中になった。  腰が勝手に動きそうになる。だが、不思議と体には力が入らない。  もどかしさが最高潮に達するまでに、そう時間は要しなかった。  必死に力の入らない体を動かして、俺は、彼の口を離そうと試みる。  そうしながら懇願するように言った。 「あ、ああっ、ン、あ、ああ! 頼む、頼むから、も、もう出させてくれ」 「イかせてくれ。言い直せ」  ――そこからは、記憶が再び飛んだ。  次に我に返ったのは、ありえない所に、ありえない快楽を感じた時の事である。 「うああああああ、や、そんな所、あ!」  入っている。入ってくる。二本の指が、俺の後ろの孔の中に、真っ直ぐに進んできた。目を見開いた俺は、はっきりと言うならば、焦った。俺も、二十七年も生きているから、聞いた事はある。世の中には、アナルセックスとやらが、存在すると。その時使うのは、ソコだ。え? え? え? 「嘘、嘘、あ、ああ!」 「ほら、全部入った」  ニヤリと青年が笑った。楽しそうだ――非常に獰猛な目つきをしている。俺は捕食された獲物の気分を味わった。内側で、俺は、彼の指の形を嫌というほど感じていた。同時に、その指が、ただそこに存在しているだけなのに、もたらす……悦楽を。 「嘘、あ!!!!」  指先が、僅かに中で折られた。それだけで、カッと全身に稲妻のような白い快楽が走る。タラタラと、俺の前からは蜜が流れていく。止めどない。何せ、与えられている快楽自体に終りが見えない。もう、彼の指の事しか、考えられなくなる。指先が、中で俺の奥を撫でる。それだけで、腰骨が熔けた。こんなのは、知らない。 「嘘? 気持ち良いのが嘘だって?」  クスクスと嫌味っぽく笑いながら囁かれた。その意地悪そうな瞳を見ているだけで、それだけでも、体が熱くなる。見られている。俺は、彼が怖かったはずだ。だが、恐怖よりも今は、完全に魅了されているとしか言いようが無かった。 「あ、あ、あ」  そんな俺をじっくりと見た後、彼はニヤっと唇の両端を持ち上げた。 「嘘じゃないだろ? こうすると、もっと良いだろ?」  瞬間、彼の指先が、俺の奥のある箇所を刺激した。  息が凍りついた。ゾクっと、最初に走ったのは水のように静かな快楽だった。だがそれは、全身に響いた時、灼熱に変わっていた。 「うああああああああ」  俺の体が、おかしくなった。

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