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第11話

 だが、不思議な事に、謎の腰の不快感が残ったあの日の翌日、俺は人生で初めて、一度も肩こりをせずに過ごす事が出来た。肩がこらなかったのだ! 感動しすぎて大変だった。きっと、あれは、揉み返しとやらだったのだろう。天使は、やはり天使だったのだ。  しかし、翌々日――つまり、今日は、どっと肩が重くなった。  本家から電話がかかってきて聞いたのだが、例のお化け屋敷(民家)に、昨日どこぞの馬鹿な学生が侵入して、結界を構築していた御札を剥がしたらしい。普通、そもそも罰当たりな行為だから、概念として、そういう事はしないべきだと、躾けろよ親……! 教師! と、まず思った。同時に、もう良い年の大学生集団だったらしいのだから、自分で常識的か判断しろとも怒りが沸いた。とはいえ、俺が怒ってもどうにもならない。けれど頭にくるのは、民家から俺の寺まで漂ってくる嫌な気配のせいで、肩がこる事だ……。  さて、本家からの電話である。 「何でも、うちの絆のぶっちゃけライバルのタレント霊媒師が、除霊に来るらしいから、今回は頼まれてもノータッチで」  そんな内容だった。 玲瓏院絆というのは、俺の本家の長男だ。双子の兄であり、弟は紬と言う。  絆は、KIZUNAという名前で、芸能活動をしている、事務所所属のタレントで、ウリが霊感だそうだ。オカルト番組に引っ張りだこだが、そこ以外でも活動している。時々、ドラマの脇役として見かけたりすると、親戚だからテンションが上がる。  ただ、親戚だからこそ分かるが、絆は、多分俺以下である。  本当にすごいのは、紬だ。何せ、大天才(霊能力者的な意味で)と評判だ。  紬は、歩くだけで、近隣の霊を全て吹き飛ばせるなんて聞いた事もある。  ――実際、紬と一緒にいた時に、嫌な気配を感じた事は、一度も無い。  俺から見ても、やつはすごい。それに比べると、絆は、「視える」「視える」と言うが、「だから?」と、聞き返したくなる事が多い。視えたって、なぁ。特に何も、視えない俺にとっては、影響が無いのが実情だ。  それよりも、問題は肩こりだ……。  俺は今日も今日とて、絢樫Cafe&マッサージへと向かう事にした。

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