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第21話
家や敷地に結界を張る事が可能なように、身を守る呪符やお経といったものが、俺の寺には存在する。玲瓏院系列の代物だ。一部、神道と集合している部分があるが、御遼神社の独自神道とは少し異なる。俺は毎日定められたものの他に、専用の経文を引っ張り出して読み込み、写経をし、身を清め、必死に準備を重ねた。全て、自分の身を守るものだ。
そして試しに、それらを持参して、民家を非常に遠方からチラ見した。
――ダメだった。それだけで怖気が走り、頭痛が極まり、俺はその場で嗚咽を漏らした。吐かなかったのは、食べてこなかったからである。即座に俺は逃げ帰って、体を塩で清めた。無理すぎる。これ、俺に死ねと言っているんだろうか? 比較的本気でそう考えた。
ズドンと重くなった肩と、鈍く痛む頭……俺の脳裏に、絢樫Cafe&マッサージが過ぎった。ローラの笑顔が浮かんでくる。
「会いたいなぁ」
気づくと呟いていた。狼狽えた。マッサージをされたいじゃなく、会いたいって、なんだよ俺! 自分に内心でつっこんでから、俺は何度か首を振った。それから――冷静に考えた。
あの人物は……マッサージの翌日に、膨大な被害を出している霊障を、俺に寄せ付けない程の能力を保持していた……の、だろう。それってもしかして、俺の準備物より、効果があったりしないだろうか?
そうじゃなくとも、ローラにしがみついていたら、怖さが激減する気がした。
「部外者も来るって言うし……誰かを連れて行っても良いって言ってたよな……」
必死で俺は考えた。そして独り言を重ねる。
「……お化け屋敷に肝試しに行かないか、とか、こう、ノリっぽく……誘ったら来てくれないかな……いや、さすがに唐突に客に言われたら迷惑だよな……けど……」
こうして、この日から俺は、準備の傍ら、ローラについて、ずっと考えていた。
――俺が、絢樫Cafe&マッサージに、肩こり以外の理由で初めて向かったのは、お化け屋敷除霊当日から数えて、三日前の事である。
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