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第22話

 俺は――ローラ達を、誘ってみる事に決めた。  ――絶対に、ローラをお化け屋敷に誘う!  そう誓いながら道を歩くも、断られたらどうしようかと、内心では不安でいっぱいだった。断られたら、店にも行きにくくなるかもしれないからだ……。しかもコミュ障の俺だ。誰かをどこかに誘った経験などゼロに等しい。上手く誘えるのだろうか……。  そんな不安を抱えて向かった店で、俺は動転しながら口を開いた。 「その……実は、頼みがあってきた」  切り出しながら、ギュッと手を握り、爪を掌に立てた。緊張していた。  ローラは、目を丸くしながら、俺を見ている。その傍らに立つ砂鳥くんは落ち着いた顔をしていた。俺は必死で言葉を続ける。 「明後日、一緒について来てくれ。夕方の三時に、南通りの地蔵前に来い」  ちょっと偉そうな言い方になってしまった気がした。だが、俺は必死だったのだ。断られたら、死んでしまうような強迫観念に駆られていた。 「ええと……それは、俺と砂鳥で行けば良いんですか?」  ローラが言った。来てくれそうな気配に、俺は安堵した。  だが……チラリと砂鳥くんを見る。彼は、未成年だろう。果たして、巻き込んで良いのだろうか? しかし、考えてみると、この少年もまた、絢樫Cafe&マッサージというこの不可思議な店に深く関わっている。彼の存在も、もしかしたら重要なのかもしれない。 「ああ。そうだな。二人で来てくれ」 「え」  俺の言葉に、砂鳥くんが驚いたような顔をした。 「折角の常連さんのお誘いですしね……店の時間ではありますが……行こうか、砂鳥?」 「へ? あ、うん。そ、そうだね、ローラ。藍円寺さんは、よく来て下さるし!」  しかし、ローラがフォロー(?)してくれたため、俺は、なんとか無事に約束を取り付ける事が出来た。これだけでも、どっと疲れた気がした。  そのままマッサージを受けたかったが、この日は、準備があるからと、俺は帰宅した。  考えてみると、当日のその時間帯は、彼らは本来店の時間であるはずだから、本当に申し訳ない。だが……俺は、お化け屋敷の恐怖に負けていた。  それから三日間、気合を入れて俺は、準備に勤しんだ。  彼らがいたら恐怖は軽減されるだろうが――守るのは、俺だ。  果たして、俺にそれができるのだろうか?  そもそも自分の身を守れるのだろうか?  そう考えながら、法具や錫杖を用意し、念入りに僧服の確認をした。これを身に付けるのは、久しぶりだ。寺に代々伝わっている代物である。普段の数少ない葬儀時は、市販の袈裟を俺は身につけているし、お祓いバイト時など、俺は普段着だ。  こうして当日を迎えた。本当に来てくれるのか、若干不安だったが、ローラと砂鳥くんは、きちんと待ち合わせの場所に来てくれた。ああ……それにしても、怖い。お化け屋敷に近づいている現在……俺の背筋は総毛立っている。ギュッと錫杖を握り締めながら、俺は懸命に足を動かした。努力しないと、逆走して逃げ出しそうだった。怖い怖い怖い。  そして、いざ……お化け屋敷に到着した。  ――俺、何にも視えないけど、ここ無理、嫌、帰りたい、泣きたい。  涙ぐみそうになりつつも、俺は鐘を鳴らしたり、錫杖を床についたりした。  本当にこんなもので、効果はあるのだろうか?  俺から見る限り、嫌な感覚は消えない。何も視えないが、何となく嫌なのだ。  恐怖で膝が震える。それを必死で制しながら、俺は中に入った。  何度もローラと砂鳥くんが着いてくるのを確認しながら、深呼吸しつつ階段を登る。  頭痛と肩こりが襲いかかってきた。ドシンと何かが肩に乗っている感覚だ。  階段を上りきった時、追いついてきた御遼神社の跡取りに言われた。 「このままだと、予定人員で、奥の鏡の部屋には到達できません。俺達は、隣室で待機しているので、藍円寺さん、お願いします」  微笑している彼を見て、俺は顔が引きつり掛けた。え。  ローラと砂鳥くんは、お祓い要員では無い。つ、つまり、俺一人で、禍々しさの根幹である鏡に対処するのか……? 全身に震えが走った。

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