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第23話
このお化け屋敷がお化け屋敷になってしまったのは、呪われた鏡が二階の奥の一室にあって、常に呪いを放っているから、だと聞いている。
「ああ。分かった」
しかし……俺は断れなかった。断ったら、玲瓏院のご隠居に、後でなんて言われるかも恐ろしかったのだ。我ながら虚ろな遠い目をしていただろう俺は、そのまま目的地へと向かい、部屋に入るなり、御札を鏡に貼り付けた。こ、これで、聞いている理論的には、呪いは封じられている……はずだ……。視えないから分からないが。とにかく怖い。不気味な鏡がそばにある。泣きたくなりながら、俺はローラ達を一瞥した。彼らは――平然としているように見えた。壁に背をあずけて座っている。だが、念のため俺は尋ねた。
「怖いか?」
「いや、全く」
ローラが即答した。満面の笑みである。
それを見た時――俺は、いつも店に対して感じる、ある種の不可思議な感覚に襲われた。
……ちょっと、奇妙では無いか?
一般人にしろ、不思議な何らかの力があるにしろ……こんなにも禍々しい代物のそばにいるのに、この笑みは、何だ?
俺は、自分が、とんでもない間違いを犯してしまったような錯覚に囚われた。
「藍円寺さんこそ、怖いんじゃないのか?」
「――なんだと?」
その時、ローラが言ったから、俺は反射的に眉を顰めた。が、正しくその通りだった。なにせ、俺は今も泣きそうなほど、恐ろしい。寧ろ、気さくに声をかけられて、ちょっとだけ恐怖が和らいだし、直前までローラに感じていた違和も消えた。
「俺には怖いものなんて存在しない」
俺は、断言した。こう言えば、二人を少しくらいは安心させられるかとも思っていたし、ビビっているとバレたく無かったというのもある……。俺は、見栄っ張りだ。が、緊張していたため、ペラペラと俺の口は、余計な言葉を続ける。
「こんな程度の低い物件に駆り出されて、正直迷惑していた所だ。暇で堪らないだろうと思ってな。退屈しのぎに、お前達を呼んでみようと気まぐれを起こしただけだ」
何言ってるんだよ、俺!
折角来てくれた相手に失礼だとも思ったが、俺の口は、黙ってくれない。
だって、だって、だ。怖くて怖くて、緊張感が抜けないのだ。
震える指先を何度も握って誤魔化すが、いっこうに震えも消えない。
「じゃあ、一つ。退屈しのぎに、肩揉みでもしましょうか?」
しかし気を悪くした風も無く、ローラが微笑した。
「っ、あ……の、良いのか? 料金は?」
思わず安堵の息を吐きつつ、俺は首を捻った。実際、肩が死ぬ程重いし、マッサージをしてもらって恐怖を和らげたいという思いもある。
「――いつも通り現物だ。『命令』だ。俺の正面に座れ」
続いて響いた声。
俺は、それを上手く認識できなかった。
気づくと思考が霞に飲み込まれていたのだった。
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