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第26話 chapter:裏 ……よくある妖怪カフェ奇譚……
「今はやっぱりさ、ほら、妖怪といえど、働いて収入を得る時代だろ? 葉っぱを小判に変える時代は終わったんだ」
僕は、唐突に『この人は何を言い出したのだろうか』と、ポカンとした。
この人――こと、彼、露嬉さん……という感じらしいが、読みはロウラ、みんなには男性ながらにローラと呼ばれている(外見的に)青年は、僕にとっての主人公である。
僕は常々、語り部として生きてきた。
――語り部。
この理由は、僕が、人(に限らず全存在)の心を読む事が可能な”妖怪”だからである。起源は、江戸だ。古いといえば古い。鳥山石燕という偉い人が描いた今昔画図続百鬼にも出てくる妖怪……覚と呼ばれる存在に、一応僕は生まれついた。いつから自分が存在しているのかは不明だが、少なくとも僕が描かれたのでは無いだろう。どう遡って考えても、僕の記憶にちょんまげは時代劇でしか出てこない。
さて、主人公のローラであるが、彼も、これは本名ではない。
ローラというのは、吸血鬼モノの有名な某小説に出てくる少女の名前だ。
現在、絢樫露嬉を名乗っている彼は、気分によって名前を変える。
今は、日本に来たため、妖怪はアヤカシで、己は吸血鬼だからローラにしようとした次第らしい。僕は思う。ローラって、吸血鬼側の名前だったかな……?
そんな吸血鬼の彼は、いつも突飛だ。
いつもというのは、僕を拾ってくれてから、”いつも”だ。
例えば僕に、絢樫砂鳥という安直な名前を与えた時も、初対面の二分後くらいだった。
しかしそれを気に入り僕は、名乗り続けている。だから良しとしよう。
――何故、彼が僕にとっての主人公なのか。
それは、彼の心だけは、僕には読み取ることができないからだ。
だから、見ていて楽しいのである。僕は、他者が基本的に好きなのだ。
「働くって今更……何するの?」
「ん? 喫茶店」
僕の問いに、紫暗の瞳を瞬かせて、ローラが答えた。形の良い猫のような瞳が、獲物を捕る前のように輝いている。僅かに茶味が指した黒髪を揺らしながら、ローラが椅子に背を預けた。
「喫茶店って……コーヒーとか、淹れられるの?」
「砂鳥が入れてくれ。大学が無い日は、桔音も手伝ってくれるらしいしな」
「――大学? 火朽さん、大学に行くの?」
「外見的には大学生だからな」
「じゃあ僕も高校に通うとか?」
「いや、それはない。お前は確かに十代後半で成長が体も頭も止まってはいるが、大切な従業員だ。バイトだ」
断言したローラは、二十代後半くらいの外見をしている。
あくまでも外見年齢だ。
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