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第28話
翌日には、引越し業者がやってきた(人間の)。
既に当該地域に喫茶店兼住居の土地は確保済であり、偽装戸籍まで万端であった点は、さすがはローラだ。ローラは、全てを進めてから僕ら(基本的に僕と火朽さん)に、話す。
僕は真新しい喫茶店の店舗を見渡した。
カウンター席は無い。全席テーブル席で、店内には二席しか無い。
僕の対応能力も、ローラはよく知っているようだ。
入ってすぐの場所には、ケーキやクッキー類が並ぶショウウィンドウ。
ここには、市販品を並べるらしい。オリジナルは現在の予定ではゼロだ。
コーヒーや紅茶も市販品を温めるだけであったり、注ぐだけらしい。
驚いたのは、看板だ。
Cafe&マッサージと描いてある。
――マッサージ? 僕には、そんなスキルは無い。
「ねぇローラ。マッサージって何?」
「ここは、ほら、肩に弱い霊を乗っけているせいで、肩こり頭痛に悩まされている連中が多い土地でもあるから、パンパンって俺が叩くと治るわけだ。それを、ウリに、な」
「資格とかあるの?」
「長生きしてるからな。大抵の資格はある」
「あ、そう」
僕は深く突っ込まない事にしている。聞くと話が長引くからだ。ローラは、語りだすとたまに止まらなくなるタイプなのである。
「住居の準備が終わりましたよ」
そこに火朽さんが顔を出した。彼は、薄い茶色の髪と瞳をしている。その眼差しがいつも柔和で、僕は好きだ。好きだといっても、変な意味合いでは無い。
妖怪にも性別が存在するのだが、妖怪は恋愛観念が比較的ユルユルで、男女無関係に恋をする者達が多い。だが、そんな中で珍しく僕は、異性愛者なのである。ノーマルだ。
しかしこれまで知る限り、ローラにしろ、火朽さんにしろ、どちらかというと、”男好き”である。ローラには特定の恋人が出来た所を見た事が無いけれど、火朽さんは、既に二百人くらい(一人につき三年から十年程度)は、男性との長期的恋愛活動を行っている。
なお、僕が彼らに、そういう対象に見られた事は、嬉しくも悲しい現実として、一度も無い。今後も無いだろう。
「お疲れ様。じゃ、とりあえず飯にして、明日の開店からの打ち合わせをするか」
こうして、僕らは住居部分へと向かった。
店から直通の裏側が家になっていて、こちらは三階建て、地下一階だ。
どこに引っ越したとしても、家はいつの間にか、ほぼ同じ間取りの同じような家が用意されている。これに限っては、人間の業者ではなく、恐らくローラが用意しているのだろう。
一階部分が、生活スペースと決まっている。妖怪も食事をしたり、入浴をしたりするのだ。二階部分が私室である。そして三階と地下一階は、常にローラの研究室――という名前の、娯楽室となっている。ビリヤードやダーツが置いてある。一体何を研究しているのかと、過去に何度か聞いた。
――俺は、人間を研究してるんだよ。
と、ローラは口にしていた。ビリヤードも、その一環であるらしい。
僕は食卓の椅子を引き、テーブルに並んでいる美味しそうな料理を見た。
中でも僕のお気に入りは、シーザーサラダである。
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