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第29話
僕らの家庭(?)では、炊事・洗濯・ゴミ処理等は、全て火朽さんの担当だ。
僕にもローラにも、生活能力は欠落しているのである。
手伝おうという気が起きないわけではないが、僕がやっても、皿洗いひとつとっても、火朽さんがやり直すはめになったりするので、余計な事はしないようにしている。ローラは、単純にやる気を持ち合わせていないだけであるようだ。
そんな僕に、喫茶店部分の従業員をやれというのだから、ローラは中々の猛者だ。
なお、僕には断る権利も無かった。これは、聞くまでもない。
ローラが決めた事は絶対だ。何となく。ローラは、意見を変える事はあるが、譲る事は無いのである。
「で、大学に行く準備は出来たのか?」
「ええ。三年生に編入という形で、明日からです。もう夏ですが、四月からいた風に暗示をかけてもらっているので、余裕です」
「おう。お前、民族学科だったか?」
「そうですね。ローラが紹介してくれた、吸血鬼の教授――夏瑪先生に、既に何度かお会いしてお話を伺ってます」
「夏瑪なぁ。アイツも鬼畜だから、苛められたら俺に言え」
「――? ローラほどでは無さそうですが、肝に銘じます」
僕がサラダを食べている前で、二人がそんな話をしていた。
それからローラが、骨付き肉を手に取りながら、僕を見た。
「明日から、朝十一時開店の夜十時閉店だ。メインは、夕方から夜狙い」
「店番してろって事?」
「おう。人間の気配がしたら、俺は研究室から顔を出す」
そんな事だろうと思った。僕は適当に頷いておいた。
「頑張って下さいね、砂鳥くん。僕も可能な限りお手伝いしますので」
「火朽さん……有難うございます!」
微笑した彼は、本当に、僕にとって癒しである。変な意味合いは、繰り返すがゼロだけど。上品に厚焼き玉子を食べている彼を眺め、火朽さんは本当に料理上手だけど、方向性は無秩序だよなと、統一性が無い本日のメニューを見て思った。
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