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第30話

 こうして、早速翌日から喫茶店がOPENした。  名前は――『Cafe絢樫&マッサージ』である。  僕は思う。カフェなのか、マッサージなのか。マッサージの待ち時間に、ちょっと珈琲でもという感覚なのか……混沌としている。だが、ローラがこれと決めた以上はコレなのだろう。看板も既に出来ているし、僕には直す力も気も無い。  最初のお客様は、愛らしい女性学生二人組だった。僕のテンションが上がった。しかし、初めてだからと顔を出したらしきローラのテンションは、著しく下がっていた。そのため、彼女達が僕の入れた粗末な珈琲に満足した風に帰っていった後、僕は尋ねた。 「え? お客様が来て良かったよね? なんでそんなにテンション下がってるの?」 「へ? 俺、ほら、処女と童貞が基本食だからさ」 「……え?」 「ん?」 「……ま、まさか、お客様を喰べるつもりで……?」  今更ながらに、僕はローラが吸血鬼である事を思い出した。  ローラはきょとんとしている。 「当たり前だろ。働いて喰べるんだろ? 人間も」 「え」 「喰べるために、働く! それがうちの基本理念だ」 「それ、現金じゃなく現物を求めてるって事!?」 「当たり前だ。金はある」  そう言って、ローラは姿を消した。いなくなってしまった。彼は、霧になる事が可能なのだ。コウモリにもなれるそうだ。鏡には映らない。この辺は、本当に典型的な吸血鬼であるが――ニンニクも玉ねぎも十字架も日光も平気だという。銀の銃弾は知らないが。  その後、日中は、もう一人、買い物帰りの主婦さんが来た。  僕の出したアイスティを微妙な顔で飲んだ後、愛想笑いをして帰っていった。  この時にいたっては、ローラは出てすら来なかった。  ローラが次に出てきたのは、合計で七番目となるお客様がやって来た時である。  何だか疲れた顔をした男子大学生が来店した時だ。  僕が真っ先に考えたのは、彼が『童貞なんだろうな』という事である。  ――だが、違った。 「マッサージをお願いしたいんですが……」 「承ります」  スっと僕の隣に立ったローラが、いつもからは考えられない柔和な微笑を浮かべ、物腰も柔らかに応対した。そして奥のマッサージスペースに向かい、適当にマッサージを始めた。僕から見ても、決して上手そうには思えなかったし、客の人間の心が見える僕としても――『(え、なにこれ下手すぎだろ……)』という気持ちを読み取ってしまった。  けれど。  最後に、ローラが、客の体にまとわりついていた弱い霊を全部手で振り払った瞬間、学生が息を飲んだのが分かった。 「あ、有難うございました……」  狐につままれたような感覚が伝わってくる。その後、全身が楽になったと、客は内心で驚いた後、大歓喜していた。  ――なるほど。ローラの目論見は、成功らしい。

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