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第33話

 まぁ、よくある事ではある。人間とは、見た目によらない生物だ。  それが面白いのだろう。そう考えながら、リストを見て、僕は目を見開いた。  短髪の客は、リストに『藍円寺享夜』とあった。  アイエンジキョウヤ……?  これは、噂に聞く――藍円寺の住職さんの名前だ!(と、僕は知っていた)  小さく息を飲み、僕はマッサージスペースへと視線を向けた。  すると、ローラも気づいているらしく、僕を見てニヤニヤと笑った。  楽しそうだ。  ――俺達に気付いた様子ゼロだが、お手並み拝見だな。  わざとらしく、ローラが僕に感情を読ませた。吹き出しかけたが、僕は平静を装う。  藍円寺さんは、見ていると(透視)、ローラに促されて、寝台にうつぶせになった。  住職さんだと聞いたが、私服なのか、それともいつもの事なのかは不明だけど、白いシャツとカチッとしたジャケット姿だった。結構洒落ているし、似合っている。それを着替えた上で、マッサージが始まった。  なんと――……今回、ローラは、実際にマッサージを開始したのである。  暗示では無い。勿論、暗示もかけていた。『今から始まるマッサージは非常に上手い』という、いつもかけるものだ。だが、マッサージも本当に開始したのだ。  暗示によりどこかぼんやりとしている藍円寺さんの、マッサージ用バスローブの紐を、あっさりとローラが解く。結果、下着のボクサー以外、肌を露出した形で、今度は藍円寺さんが寝台に仰向けになった。その肌に、ローラが触れる。  最初は、頬。次に唇――まぁ、この時点で既に、マッサージとは言えないだろう。  僕にはすぐに分かった。ローラは、二週間目にして、ようやく『現物(食料)』候補を見つけ出したのである。実際に吸血する前、ローラは、より美味しく喰べられそうな場所を物色する癖があるのだ。  薄い藍円寺さんの唇を、ローラが何度かなぞる。それから顎を持ち上げ、じっと藍円寺さんの顔を覗き込んだ。とろんとした瞳の藍円寺さんは、されるがままだ。首筋をローラの指が撫でていき、鎖骨をなぞる。すると藍円寺さんが小さくピクンとした。  そのままローラの手が胸の突起まで降りて、まるで愛撫するかのように、優しく弾いた。 「ぁ」  すると、藍円寺さんが声を漏らした。異性愛者の僕まで、ちょっとグッと来る嬌声だった。これは、別に彼が感じやすいから声が出てしまった、とかではない。ローラの指先が、吸血活動を容易にする為に、人間に快楽を与える能力を最初から備えている事と、暗示のせいで声を堪えるという概念が欠如してしまっている事が理由だ。  ローラの指先が、藍円寺さんの腹部まで降り、これだけは本当にマッサージ風に、骨盤部分をぎゅっと押した。しかしその強さが優しく甘かったらしく、藍円寺さんが震えた。見れば――ボクサーの中で、既に藍円寺さんのモノが反応しているらしかった。  それから太ももの付け根を、ローラが撫でる。ローラがお気に入りの吸血箇所の一つだ。理由としては、人間が痕に気づきにくいという事もあるのだろうが――ローラが好んで吸うのが血液だけで無い事も、大きな理由である。ローラは、人の精液や愛液も大好物なのだ。中でも男性が好きな理由は、陰茎から精液を飲みやすいからだと語っていた事がある。 「ぁ……ァ……ぁ、ぁ……」  藍円寺さんが瞳を涙で滲ませた。息が少し上がっている。色っぽいなぁと僕は透視してしまう。盗み見ているようで悪いが、僕はローラの吸血風景を見るのが、比較的好きなのだ。  藍円寺さんの下着の上から、ローラが非常に緩慢に性器を撫で上げた。  するとぶるりと藍円寺さんが震えた。その瞳が、更なる刺激を懇願しているのが分かる。濃い灰色の下着を、先走りの液が濡らしている。既にキツそうだ。ニヤリと笑ったローラが、下着を太ももまで下げると、とっくに反り返っていた藍円寺さんの陰茎が空気に触れた。今度は直接、その筋をローラが指でなぞる。 「ああっ」  悶えた藍円寺さんが、僅かに体を退こうとした。  しかし、ローラはそれを許さず、腰を強く抱き寄せた。  そして片手で陰茎を握ると、それを少し早めに動かしながら、左の乳首に吸い付いた。 「うあっ、ァ、ああっ! ぁ、ア、あン――」 「俺のマッサージ、気持ち良いだろ?」 「あ、あ、ああっ、ン、んっ!! あ、出る、うあ、嘘」 「ダーメ。俺が満足するまで、許さん」 「ぁ、ぁぁぁ、あ、ああああ」  ローラの手が、藍円寺さんの根元を戒めた。  むせび泣く藍円寺さんに気をよくした様子で、ローラは左の乳首を唇ではさみ、舌先でチロチロと乳頭を嬲っている。いやいやとするように、藍円寺さんがギュッと目を閉じて頭を振っている。  どこか俺様風だと先程まで外見的に感じていたせいか、子供のように涙する藍円寺さんに、僕は正直楽しくなってきた。虐めがいがあるタイプというのは、彼のような人物の事だろう。僕がこう言う気分なのだから、ドSのローラなんて、愉快で仕方がないはずだ。 「ぁ、ぁ……ゃぁ……あ……ああっ」 「左の乳首、気持ち良いんだろ?」 「やぁっ」 「右も触ってもらいたいか? 初めて触られた左乳首に夢中みたいだが」 「ぁ、ぁ、触ってぇっ」 「じゃ、下は我慢だ。いいな、これは『命令』だ」  ローラが暗示をかけた。可哀想な事に、これで藍円寺さんは、自分意思では射精が困難になってしまった。暗示は、肉体にも効く。限界が訪れない限りは、暗示が優先されるのだ。そして限界というのは、死傷するような場合なので、基本的に訪れない。 「出したい、出したい、ア!」 「でも、乳首も気持ち良いんだろ?」  ニヤニヤしながら、ローラが左の乳首を甘く噛む。そして右の乳首は、強めに指で摘んだ。それから指を振動させるようにして乳首を弾く。藍円寺さんが背を反らせた。ボロボロと泣き始めた。喉を震わせながら、快楽に堪えきれない様子で震えている。 「うああ、ああああ、待ってくれ、あああああ」 「んー、どこから吸おうっかなア」 「あ、ハ、ああっン」  両方の乳首を散々嬲られた藍円寺さんは、陰茎を固く張り詰めさせている。  その瞳のそばの涙を、ローラが舐めとった。藍円寺さんは、僕から見ても色っぽい。  舌を覗かせて必死に吐息している。

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