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第36話
「どうぞ、横になって下さい」
ローラが笑顔で対応する。藍円寺さんが不機嫌そうな顔で、着替えた後、顎で頷いた。こう、しょうがないから座ってやるよ、と、見える仕草である。いつもの事だ。これが――いつも暗示後、デレデレのドロドロになるのである。僕は、それを見る(透視する)のが楽しくて仕方が無い。
「ああっ、あ、ああ」
今日のローラは、最初から噛み付いた。暗示がかかってからすぐだ。すぐに一糸まとわぬ姿にされた藍円寺さんは、寝台の上に太ももを開いて座らされていて、その間に膝をついてベッドに上がったローラに、壁へと追い詰められた。そして、ガブリだ。抵抗しようと持ち上げた手首を、両方ローラが掴んで、壁に押し付けている。そんな状態で、うなじに噛み付かれている藍円寺さんは――……実に気持ち良さそうに、顔を蕩けさせている。
ローラの牙が刺さる時、基本的にローラが意図しなければ、そこに生まれるのは、痛みではなく快楽らしい。意図すれば痛くする事は可能らしいが――快楽を感じている血液の方が、美味しいらしいのだ。
「あ、あ、ああっ、ン」
次第に藍円寺さんの体から力が抜けていったようで、無意識の抵抗が止まった。
するとローラは、藍円寺さんの背に手を回して抱き寄せながら、さらに深く牙を突き立てた。そしてもう一方の手を、藍円寺さんの既に反応を見せ始めていた陰茎に伸ばす。軽く握って、親指で鈴口を刺激し始めた。
「あああ、うああ、あ」
「お前、本当にこうされるの好きだよな」
「あ、あ、大好きっ」
「そうそう、その『好きっ』の『っ』だ。覚えてきたじゃねぇか」
「あああああ、あ、あ、あ、イく」
「ダーメ。今日も、俺が許可するまで、出すな。『命令』だ」
「うああっ、あ、あ、嘘、あ、イけなッ――うあああ」
先走りの液が、だらだらと溢れている。
それを掬ってひと舐めしてから、ローラが藍円寺さんの中に指を挿入した。
「うう、あ、ああ――!!」
「最初から三本入るようになったな」
「あ、あ、あ、あああ! 頼む、まだ、まだ、動かさないでくれ」
「ダメだ」
「いやああっ、あ、あ! ああっ!」
三本の指をバラバラに動かし、ローラが藍円寺さんの中をどんどん解していく。何度か指を広げるようにし、藍円寺さんの菊門を虐める。その後、指を揃えて抽挿を始めた。その動きは、早い。
「あ、いやぁあっ、あ、あ、ああっ、ン――!! ん!! んぅ!」
「いや? 気持ち良すぎてか?」
「うん、うん……! うあ、あ、気持ち良い、あ、ああ!」
「素直になってきたな。俺好みだ」
「あ、あ、あ、気持ち良い、そこ、ソコ、もっと、もっと、あ!」
「その調子だ。よし、今日は褒美をやろう――中だけで、イかせてやる。ドライオルガズム……お前を雌にしてやるよ」
「うああああああああああ、あ、あ、あ! 強い、強っ、だめだ、俺、あ!!!」
グチャグチャと卑猥な音がする。ローラの指先から、吸血鬼特有の甘い薔薇のような芳香を持つ体液が出ているせいだ。それがあるから、本来はローションもオイルも必要ない。使う場合は、気分らしい。さて、今日のローラは自分の体液を塗りこめる方を選択している。これは――催淫暗示もかけられる。精神的にも肉体的にも、だ。要は、媚薬となり得る代物だ。使い方、使う意図次第であるようだが。
「あ、あ、あ、あ、イく。や、イきたっ、あ、ア、ぁぁ、ァ、あ!!」
「前では禁止だ。『命令』だ」
「やぁああああっ、あ、あ、あ、あ、だめ、だめ、あ、なんか、あ、クる、嘘」
藍円寺さんは、快楽を『嘘』と言って、いつも受け入れるのを怖がっている。
信じられないほどに、気持ちが良いらしい。
――まぁ意識的童貞の彼は、哀れな事に、ローラにこうやって暴かれるまで、性的な接触を他人と持った事が一度も無かったようだから、仕方が無いのかもしれないが。
「ダメ、無理、イく、イきたい、あ、あ、イけないっ、あ、イかせてくれ、あああ!」
「だーかーらー。中だけで、イけ」
「うあああ!!!! ――、――ひ、ああああああああああああ!」
その時藍円寺さんが絶叫した。
中だけで、彼は絶頂を迎えたらしい。体がピクピクと震えている。
――ドライは、射精感が長く感じる、らしい。しかし実際には、射精できていない。
「あ……ハ……っ……っっ、っ」
藍円寺さんが震えている。白い肌が、特に頬が、朱く染まっていた。
まだ絶頂の波に襲われているらしく、全身を震わせながら、瞳が虚ろになっている。
チカチカと快楽の色と艶が宿る黒い瞳が、本当に綺麗だ。
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