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第38話

 その日の食卓において、非常にローラは上機嫌であった。  そりゃそうだろう。人間の食事をしている現在ではあるが――その直前に思う存分、藍円寺さんを貪ったのだから。ニヤニヤしっぱなしのローラを見ながら、僕はグラタンを口に運ぶ。それから、一転してこちらは珍しく憂鬱そうな顔をしている火朽さんを見た。いつも穏やかに笑っている彼にしては、とても珍しい。遠い目をしている。 「火朽さん?」 「おかわりですか?」 「あ、いえ。あの、なんか暗いですけど、何かありました?」  僕はちなみに、頑張れば、やろうと思えば火朽さんの心は読める。しかし、だ。こういう表情の時、口で聞いて、口で話を聞く方が、以外と他者はスッキリするようだと僕は経験上知っているので、聞いてみるようにしている。プライバシーを詮索されたくなさそうな場合は、別だけど。 「……聞いて下さい。ほら、初日に、僕を無視ししてる人がいるって話をしたでしょう?」 「覚えてます」 「有難うございます。その人がですね……今も僕を無視してまして」 「辛いですね……」 「いや、別に。頭にきますしイラっとはしますが、無視如きで傷つくような繊細な心を、残念ながら僕は身につけていないので、そこは良いんです。ただ、ちょっと問題がありまして……」 「問題?」 「ええ。見かねた夏瑪先生が、僕と彼を同じ班として、共同発表を企画して……下さったのは、分かるんです。有難い配慮ですが、余計なお世話で――というのは兎も角、それで、今日の午後に打ち合わせをする事になっていたんです。僕は時間通りに行き、彼も時間通りに来たんですが……僕が話しかけても全部無視で、一度も視線も合わず……その後、二時間経過した時、彼がおもむろに立ち上がり、夏瑪先生の教授室へと行き、そして一言。『すっぽかされました。僕、帰って良いでしょうか?』と……言ったらしいんです。部屋にそのままいた僕に、直後、夏瑪先生から連絡があって、発覚しました。僕が教授室に着いた時には、既に彼は帰路についていましたよ」 「へ?」 「僕にはもう、彼の気持ちがまるで分かりません」  どんよりとしている火朽さんは、それから溜息を吐いた。 「いくら僕でも、学業に支障が出るのは、ちょっと……そろそろ許容できないと言いますか」 「火朽さん……火朽さんは、悪くないです」 「ええ。僕の悪い部分は、我ながらゼロです。今悩んでいるのは、どのようにして、八つ裂きにしてやりたいこの心境を抑え、人間の法律的な意味合いで合法の範囲内で復讐してやるかというドロドロとした内心の收め方です」 「ファ、ファイトです……!」  僕は引きつった笑みを隠すように顔を背け、とりあえずエールを送った。  火朽さんは、相当鬱憤が溜まっているようである。  僕が傾聴しても、あんまり意味は無さそうだ……!

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