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第28話 【番外(マオ&ナチ】afterwards③ …… 大切な話

「それで、大切な話って何?」  ナチが問いかけると、マオが一度俯き、それから真剣な表情で顔を上げた。ゆっくりと二度瞬きをしてから、マオがじっとナチを見る。 「現実で、もう一度言えと、そ、その……言ってたよな?」  それを聞いて、ナチが嬉しそうに両頬を持ち上げる。小さく頷いたナチは、マオの瞳を見据えている。 「好きだ。現実でも、気持ちが変わらない。今、会って、更に好きになった。頼む、答えをくれ。俺の恋人になってくれないか?」  焦燥感に駆られるようにマオが述べると、ナチがグラスに手を伸ばした。そして唇でストローをくわえる。その唇が艶っぽいとマオは思って、見惚れていた。だが、告白の結果が気になりすぎて、緊張で震えそうにもなっている。 「断ると思う?」  アイスティを飲み込んでから、ナチが小さく吹き出した。 「俺、とっくにマオの事が好きだって、気づいてなかった?」 「――脈があるんじゃないかと何度も思って告白したんだよ。だけどな、いつもお前、断るか、濁しただろ?」  マオが眉根を下げて、口元だけに笑みを浮かべた。その表情に、ナチが苦笑する。マオが雨に濡れた犬に見えた。 「けど……そ、そうか。俺の事、きちんと好きでいてくれたんだな」 「うん。大好きだよ」  ナチがするりと述べると、今度はマオが本当に嬉しそうな顔に変わった。そして、鞄に手を伸ばし、中から小箱を取り出した。 「恋人になれたら、渡そうと思ってた」 「何、これ?」 「開けてくれ」  頷き、ナチが包装を取り、そして――現れたヴェルベット張りの青い箱を見て、思わず咳き込んだ。明らかに、指輪が入っているようにしか見えない。蓋を開けてみれば、中にはペアリングが入っていた。 「俺の恋人だって、証明したくて」 「重いね」 「嫌か?」 「んー、良いけどね。マオもずっとつけててくれるんでしょ?」 「あ、ああ。勿論だ」  片方の指輪を手に取り、ナチが右手の薬指にはめる。それを見て、マオが少しだけ悲しそうな顔に変わった。 「左手じゃダメなのか?」 「大学の噂で、左手の薬指に婚約指輪以外をはめると、結婚できないってお話があるんだよ」 「結婚?」 「――マオは、俺との仲を真剣に考えてくれてるわけじゃないんだ?」 「い、いや! え!? 結婚してくれるのか!?」 「俺は付き合うってなったら、必ず将来を考えるからね」  ナチが述べると、マオが瞳を潤ませ、何度も笑顔で頷いた。  同性婚制度が施行されてからは、もう何年も経過している。 「プロポーズは俺からする予定だったんだ」  そう言いながら、マオはもう一方の指輪を手に取り――そして、右手の薬指にはめる。 「今度、婚約指輪を買いに行こうな」 「そうだね。それにしても、よく俺の指のサイズが分かったね」 「ログアウト出来ない時、お前が寝てる隙に計測した」 「……へぇ。それより、ねぇ、マオ」 「ん?」 「三階に俺の部屋があるんだけど、来る?」 「良いのか? ナチの部屋……すごく行ってみたい」  二人は見つめ合うと、どちらともなく頷いた。その後、二人で会計を済ませ、階段を登ってナチの部屋へと向かった。ナチの両親は、厨房で忙しそうにしている。  マオは緊張しつつも、それとなくナチの手を握ってみた。すると、ナチが振りほどいた。それに悲しくなっていると、ナチが手をつなぎ直した。恋人つなぎに変えたのだ。ナチがギュッとマオの手を握る。 「ここ、俺の部屋」  そうして二人で中へと入り、ナチは寝台に座ってから、テーブルの前の椅子を見る。 「そこにマオは座って」 「――隣に行っちゃ、ダメか?」 「別に良いけど」  ナチが同意したので、マオは寝台へと進む。そしてナチの隣に腰掛けると、勇気を出して、ナチの肩を抱いた。大人しくナチは抱き寄せられながら、マオを見る。二人の視線が重なる。  ――ゲームの中において、二人は体を重ねた事がない。キスをした事もない。二度ほどマオが堪えきれずにナチを押し倒したが、ナチが断ったため、悶々としながらマオは我慢したという経緯がある。 「ナチ、愛してる」 「俺も、マオが好きだよ。だから……キスしたい」 「!」  ナチの言葉に、マオがもう堪えて切れなくなった。激情が胸中で渦巻く。気づいた時には、ナチの唇を貪っていた。薄らとナチが唇を開けると、マオが舌を挿入する。そしてナチの歯列をなぞりながら、濃厚なキスをした。舌を絡め取られたナチはナチで、余裕そうに見えるが緊張していないわけではない。ナチだって本心を言うならば、ずっとマオが欲しかったのだ。  そのままマオは、ナチを寝台に押し倒した。ナチはマオの首に腕を絡める。そうして二人は再びキスをした。そうしながら、マオはナチの服に手をかける。そして首元をはだけると、今度は首筋に吸い付いた。  ツキンと疼いたその箇所に、キスマークをつけられたと気づいて、ナチが頬に朱を差す。その後マオは、今度は服の下へと手を入れて、ナチの左胸の突起を指で愛撫しながら、右手で服を乱しにかかった。されるがままになっているナチは、求められる事が嬉しかった。  すぐに上半身の服をはだけられたナチは、今度は右胸の乳頭を舌先で舐められて、肩をピクンと跳ねさせる。マオは性急に、ナチのベルトを引き抜いて、左手ではナチの陰茎をゆっくりと服の上から撫でた。 「手馴れてる」 「そうか?」  ナチの言葉にマオが小さく笑いながら、今度はナチのボトムスを脱がせた。すぐに一糸まとわぬ姿にされたナチは――初体験である。正直、緊張していた。マオはナチの肌を舌でなぞってから、ナチの左の太ももを持ち上げる。そしてナチの陰茎の筋をゆっくりと舐め上げた。 「ン……」  何度かそれを繰り返されると、ナチの陰茎が反応を見せた。それに気を良くしたように、マオがナチの先端から零れ始めた先走りの液を舐めとる。そうしつつ、ジャケットのポケットから、マオはローションの小さなボトルと、ゴムを取り出した。  同性婚制度が施行されてから、現実でも男同士の性交渉が容易になる品が、数多く販売されている。 「準備良すぎない?」  それを見て、ナチが苦笑した。ナチに触れているだけで、既にガチガチに反応しているマオは、先ほどまでとは異なり、現在は完全に瞳に肉欲が宿っているように見える。その表情にゾクリとしながら、ナチは唾液を飲み込んだ。 「もうずっと、長い間、俺はナチが欲しかったんだ。だから、用意も万全だ」 「ぁ……ァ……」  ローションを指に絡めたマオが、ゆっくりと人差し指の先端を、ナチの中へと挿入する。その指が、第一関節、第二関節と進んでくる度、ナチは息を詰めた。ローションの立てる水音に羞恥を覚えたナチは、瞳を潤ませる。するとマオが、指を二本に増やした。痛みはない。マオが指をかき混ぜるように動かしてから、先ほどまでよりも奥を暴いた。 「あ、あ……そ、そこ、変」 「ここか?」 「ン――!!」  前立腺を見つけ出され、少し強めに刺激されると、ナチの体が熱くなった。甘いナチの声を聞いて、それだけでより激しく欲情したマオは、そこばかり責め立てる。 「あ、あ、あ」  すぐにでも挿入してしまいたかったが、ナチの体を思って、マオは堪える。指先で、ナチの狭い中を広げるようにした後、抜き差しを始めた。それを繰り返される内に、ナチの体が熱を帯び始める。 「は、ッ……う、ぁ……マオ。マオ……もう良いから」 「まだ辛いだろ?」 「でも、もう俺、出そう。このままイっちゃいそうで」 「一回出せ」 「嫌だ。マオと一緒にイきたい」  それを聞いたマオは、ついに堪えきれなくなって、己の下衣を脱いだ。そしてゴムの封を口で切りながら、指を引き抜く。そして己の陰茎に装着すると、既に完全に勃ち上がっている肉茎の先端を、ナチの菊門に押し付けた。 「良いんだな? 辛かったら言ってくれ……止められる自信はないけどな」 「平気だから、あ、あ」  マオの亀頭が入ってくる。指とは全く異なる熱と質量に、震えながら吐息したナチが、マオに抱きつく。雁首まで入りきった所で、一度マオが動きを止めた。そして必死で息をしているナチを、微苦笑しながら見る。優しい顔だが、瞳には獣のような色が宿っている。 「あ、ァ――!! あ……ン、ぁ、ひッ、ぁ――!」  直後、マオが一気に根元まで陰茎を進めた。その衝撃に、ナチがギュッと目を閉じる。睫毛が震えている。ナチの腰骨を掴んだマオは、ゴクリと唾液を飲み込んでから、ゆっくりと腰を揺さぶり始めた。そうされると満杯の中から快楽が響いてきて、ナチの吐息が更に上がる。 「あ、あ、や、ャ……ああ! うあ、マオ」 「辛いか?」 「違う、気持ち良、っ、う……あ、俺こんなの知らない」 「初めてか?」 「う……うん。あ、っ……ふ、ぁ、ア……」  ナチの瞳から、生理的な涙が溢れる。マオは堪えきれなくなって、抽挿を始めた。そうされると頭が真っ白になり、快楽の奔流にナチは飲み込まれた。未知の快楽が怖くて、マオに抱きつく。次第にマオの動きが早くなる。ギュッとナチの内壁が、マオの陰茎を締め付けている。 「あ、あああ! ダメ、もうイく」 「――悪い、俺も余裕がない。出すぞ」  そのまま二人は同時に果てた。ナチの白液がマオの腹部を汚す。マオはその間も長々とナチの内側で射精していた。二人の荒い吐息が、静かな室内に谺している。 「ナチ、好きだ。ずっと手に入れたかったんだ」 「……は、ッ……ん」  マオがナチの中から陰茎を引き抜くと、ゴムに手をかけた。それをぐったりしながらナチが見ている。 「愛してる。ナチ、大切にするからな」

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