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第40話 【番外】新婚生活
俺とヒースが結婚して、数週間。年末年始が間近に迫った。既に両家の家族での食事会も恙無く終わったのだが――双方の家族ともに、結婚式はいつやるのかと迫ってきた。
同性婚制度が始まる前からだそうだが、みんな、あんまり結婚式はやらない。ただ、ヒースのお家が歴史ある大企業のため、やった方が良いのではないかという話だった。
『まぁ、焦る事はない』
と、まとめたのは、ヒースだ。そんなヒースと二人で、結婚指輪を買いに行ったのは一昨日の事で、今、俺の左手の薬指にはシンプルな銀の指輪がはまっている。小さなダイヤがはまっている。俺はお風呂に入る時はずそうと思っていたのだが、ヒースが言うのだ。
『ずっとはめていろ。錆びないらしいし傷もつかないといっていただろ。もし劣化したら、買い換えれば良い。それよりも、俺とおそろいのものをずっと身につけていて欲しい』
率直に言って、照れた。逆を返せば、ヒースもまた、俺とおそろいのものを身につけていてくれる。俺は自分に、こんなに独占欲があるとは思っていなかった。ヒースが俺だけのものみたいで、嬉しくなってしまったのだ。
現在俺は、ヒースのマンションに泊まりに来ている。年末年始を、一緒に過ごそうと約束したからだ。蕎麦を食べたり、初詣に出かけたりする予定だ。
ヒースはまだ年内の内に数日間は、大学院に行かなければならないそうで、俺はヒースの家でいつも帰りを待っている。日中は心理学の勉強をし、夜は直接勉強を教わり――そして体を重ねている。
ルームサービスもあるが、俺は少しずつ、料理をしている。掃除もしている。泊めてもらうからには、出来る家事をしようと思ったのだ。洗濯とゴミだしは、マンションの業者さんにお願いしているが。
本日は、カレーを作った。固形ルーを用いた、ごくごく平凡なカレーだ。ご飯も炊けたし、福神漬けも買ってある。カットキャベツの袋をあけて、サラダも用意した。このくらいが、俺に現在できる限界だ。一人暮らしをしてきたから、ある程度の料理はできるのだが、ヒースは料理もガチ勢だから、俺は叶わない。
しかし配偶者になったのだから、俺も上手くなりたい。料理をしながらヒースの帰りを待っていると、とっても幸せな気持ちになる。
――その時、エントランスから鍵の回る音が響いてきた。俺は黒いギャルソンエプロンをつけたままで、慌ててそちらへ向かう。すると靴を脱いでいるヒースがいた。
「おかえり」
「ただいま」
そう言うと、微笑したヒースが鞄を床に置いて、俺を抱きしめた。帰ってくると、ヒースはいつも俺を抱きしめる。そして、キスをするのだ。目を閉じて、俺はそれを受け入れる。顎に手を添えられ、少しだけ顔を傾けさせれて、啄むように口づけられた。
ヒースはそれから、俺の肩に顎を乗せると、再び両腕で、ギュッと俺を抱きしめた。
「好きだぞ」
この言葉も、毎日聞いている。帰ってきた時、寝る前、朝起きた時、出かける時、最低でも四回は、囁かれている。ヒースは、俺を溺愛していると思う。こんなに大切にされて良いのかと、時折不安になるほどだ。
「良い匂いがするな」
「今夜はカレーを作ったんだ。あーあ。グランギニョルの夜だったら、料理スキルがカンストだったんだけどなぁ」
「生産カンスト者は貴重だったし、ログアウト出来なかった当時は助かったが、はっきりいって俺のためだけに毎日料理をしてくれるネジが好きだし、俺は今が良い」
ヒースはそう言うと、両手を俺の頬にあてて、少し屈んでじっと覗き込んできた。
「それに良い匂いがするのは、お前だ」
「同じシャンプー使ってるのにか?」
「不思議だな。雰囲気とでも言えばいいのか」
そのまま俺の額にヒースがキスをした。俺は両頬を持ち上げる。
それから二人でカレーを食べた。
「なぁ、ネジ」
「ん?」
「今日は一緒に、風呂に入らないか?」
「え」
「嫌か?」
「……いいけど」
どうやら俺は、ヒースの『嫌か?』という言葉に弱いようだ……。
なお、浴室は、二人でも入れるくらいに広い。本日、俺とヒースは、一緒にお風呂に入っている。初めてだ。
湯船に二人で浸かって、雑談をしていると、ヒースが不意に両手を組んだ。そして水鉄砲のように、お湯を俺に向かって放った。
「な! 何するんだよ」
俺は同じ事が出来ないので、両手でお湯をすくって、ヒースに向かって投げた。
「ネジがあんまりにも緊張しているみたいだったからな」
「う」
図星だ。ヒースと一緒に入ると聞いて、終始ドキドキしていたのだ。
それからお俺達は、ばちゃばちゃと子供みたいに二人で、お湯で遊んだ。
「さて、洗うか」
「先に洗ってくれ」
「一緒に洗えば良いだろ? 背中、流してやる」
ヒースが当然の事のように言ったので、そういうものかと俺は頷いた。
……それが、間違いだった。
「ぁ……ァ、ぁ……っ、ッ、ッぅ」
泡まみれの手で、ヒースが後ろから俺の前に手を回して、陰茎を洗い――いいや、扱き始めたのだ。すぐに俺の陰茎は、硬くなってしまった。
「う、うぁ……ァ、あ」
もう一方の手では、左胸の突起を洗われて――いいや、愛撫されている。陰茎と乳頭への刺激に、俺は声が堪えられない。
「あ、洗うだけって……っ、ぅ」
「そんな事言ってないが?」
思い出してみれば、確かに言っていなかった。なお、俺の背中には、硬くなったヒースの陰茎が当たっている。なんだか羞恥に駆られて、抗議しようとしたのだが……気持ち良い。気持ち良い時は、嫌だとはいってはいけないと、俺はヒースに教え込まれた。
「あぁ、出る……っ、ん!!」
俺がそう言うと、意地悪く手が離れ、今度は泡まみれの手で、両胸を刺激された。陰茎への刺激がなくなったものだから、俺の太ももが震える。もっとして欲しい。腰が動いてしまう。
「ひぁ」
だが、胸の突起を泡のついた指先で優しく撫でられると、全身にツキンと快楽が走るのだ。
「あ、あ、あ……」
VRの中では、何度も乳首だけで果てたが、現実ではほとんどそれはない。だが、出てしまいそうなくらい気持ち良い。目の前の鏡を見たら、俺の瞳に情欲が宿っていた。物欲しそうな自分の顔、赤く尖った乳首、勃ちあがっている陰茎、その全部が鏡に映っている。
「さて、流すか」
ヒースがシャワーで俺の体の泡を流した。自分の体も流している。結局イけないままで、俺は涙ぐんだ。熱が体の内側で燻っている。
入浴を終えると、俺達はすぐに寝室へと移動した。
正面から抱き合い、俺はヒースの肩に手をのせて、腰を下ろす。そんな俺の腰を、ヒースが支えている。深々と貫かれた状態で、俺達はキスをした。何度も何度も、お互いの舌を絡める。
「好きだ、ネジ」
「俺もヒースが好き、ぁ……あ、あ、好き、好きだ」
「俺の方が絶対に愛の比重が重いと思うぞ」
「そんな事ない、う、ぁ……深い、っ」
それからヒースが動き始めた。気持ち良い場所ばかり、穏やかに貫かれ、炙られるように俺の体が昇められていく。
「イく」
「ああ、出せ」
「ン――!!」
穏やかに追い詰められて射精すると、本当に気持ちが良くてならない。
この夜、ヒースは俺を何度も気持ち良くしてくれた。
事後は、二人で横になっていた。ヒースに腕枕された俺は、ヒースの胸の上に手を置き、幸せに浸る。ヒースの体温が、俺は大好きだ。
「ヒース、好きだからな」
「聞き足りないな。もっと言ってくれ」
クスクスと笑いながらそう言って、ヒースは俺の頬に触れるだけのキスをした。
こんな毎日は平和で、これからも続けば良いと、俺は願った。
【終】
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