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番外編1-2 Toxic.

「なんで、あんたと、白川君が一緒に出勤して来んのよ!!!」 カンカンに怒った町田オーナーが俺と辰公を目の前にして静まりかえった事務所内で怒鳴りつける。 事の発端は、店の前の通勤路で俺と辰公が歩いている所にばったり、町田オーナーが現れた。 そして町田オーナーは、辰公の悪癖を知ってか俺の体をまじまじと舐め回すようにみて、昨日の噛み跡を見つけられてしまった...と言う状況だ。 「何がダメなんだよ。」 悪びれた様子もなく聞き返す辰公にわなわなと拳を震わせると、顔を真っ赤にしながらますます怒髪天を衝く。 「私は白川君をミステリアスなキャラで、売り出すつもりだったのよ!!!!!!!あんたみたいなセックス依存症αとセットで売り出す気はないの!!!!!」 「あんたはいつもいつも」と、ぶつぶつ独り言を言いながら抑えた怒りを乱雑に、広い椅子に座る。 「この間も『辰公さんと恋人だと思ってた。』とかなんとか言って入りたてのβの子がやめたわ。その前は貴方の担当になった女性βのメイクスタッフがやめて、その前は『向いてないって言われた。』って泣きながらΩのキャストがやめてったの!!貴方一体何人辞めさせたら気が済むの!!??!」 こんなに怒っているのに、辰公はなんの悪びれた様子も謝る様子も見せず、タバコに火をつける。 本当に無神経で性悪だ、この人。 「恋人になるならまだいいわ。関係持ってすぐポイなんて、もっと上手くやれないの!!?」 バンバンと怒り狂ったオーナーがテーブルを叩く。 「1人の人間を愛するなんて出来ねーよ。飽きちゃうし。」 胸がじくじくと痛む。 その痛みを表情に出さず、ただ呑み込んだ。 素直な人だ。その言葉が俺に突き刺さってるとも知らずに、ただ素直に自分の生き方を生きる。 まぁ、それで救われてる部分もあるけど。 「はぁ...、まぁいいわ。白川君の目の前でそれが言えるんなら。白川君、辰公の事、本気で好きって事じゃないのよね?」 心配そうに俺を見る。町田さんは俺に期待してくれてる。キャストとしてこれからここでやってく事を望んでくれてる。 その上で辰公に恋に落ちるのは、破滅しかないと辞めていった人間の数を見て分かるし、町田さんもそれを心配している。 「こんな、人誑しと本気で恋愛なんかしません。俺には1番になるって言う目標があります。 それの妨げになるような事はしない。」 歯切れ良く答える。 本心。9割。 妨げになるような事はしない。 恋愛もする気はない。でも、しないんじゃなくてできないんだ。あっちが俺を見てない。 目に止まった時だけ恋愛になるだけ。 それが俺には丁度いい。 目標を達成するためにはそれが丁度いいんだ。 言い聞かせるように繰り返す。別に本当に好きなんじゃない。 そんな真っ直ぐな俺を見て、町田は安心したように。辰公は嬉しそうに企んだ笑みを見せた。 「な、言ったろ。こいつは大丈夫だって。」 俺の言葉に落ち込む様子もなく俺の肩を抱いた。俺が辰公を睨むと、町田さんも同じく辰公を鬼の形相で睨みつけていた。 「全くα性はどうしてこう傲慢な奴が多いのかしら。」 ハァと深々とため息を吐く。 どうやら辰公以外のα性にも町田さんは苦労させられているみたいだ。 広いテーブルに突っ伏すように苦悩に悶える町田さんに辰公が真面目なトーンで話す。 「なぁあかり、こいつ俺に任せてくれない?」 俺を顎でしゃくり、指し示す。 町田さんを名前で呼ぶのは辰公くらいだ。 その声のトーンに真剣さを感じ取った町田さんも顔を上げると真面目な表情で辰公を見ていた。 「任せる?教育するって事?」 疑問符を浮かべる町田さんが片眉を上げる。 俺がいるのに、俺の入る余地なく話が続く。 「そう、こいつにはセンスがある。そこで前話してたペアの話、こいつと俺でまず試してみるのはどうだ?」 2年以上前はなかったペア制度は、俺のデビューを目前に案として上がっていた。 キャストがまだ今の半分程度だった時のデルタは、ランダムにキャストを宛ててショーに出していた。 町田さんは悩ましそうに頭をあちこちに傾けた。長く続く唸り声がその葛藤を表現しているようだった。 「白川君がデビューして、3ヶ月間、様子を見るわ。教育は辰公、貴方に任せる。もし白川君から苦情が挙がればすぐに私と交代よ。デビュー3ヶ月でどれくらいできるか見てから貴方とのペアを考える。貴方が認めたとはいえ、ナンバーワンと新人をペアする事はリスクが大きすぎる。」 口を開いた町田さんは先程の怒り狂った態度から一変、仕事ができる女に代わり、淡々と会話を練っていく。 「ああ、それでいい。」 その町田さんに返事を返す辰公もまた、このデルタを重んじているのが伝わってくる。 互いに信頼し合ってる。それくらい深い仲なのだろう。 性へのだらしなさはさておき、だ。 「白川君も、異論ないわね?」 恐らくかなりお膳立てされた環境。 普通のキャストならこの2人に目をかけられることも少ないのだろう。 チャンスを物にしないほど馬鹿じゃない。 「はい。お願いします。」 辰公と町田の視線を浴びる。 2人の眼差しは期待のひとつのみ。 俺はこの2人の期待を背負い、誕生日が来るまでの約1ヶ月間の研修期間が始まった。 元々ただの割りのいいバイトだった。 大学辞めて、再入学するための金を作るためのバイト。 興味もなくて、ただ与えられた仕事をこなすだけ。 でもΩというレッテルと容姿のギャップから、客によく話しかけられてた。 別に浅い会話は苦手じゃなかった俺は、愛想良くやってたらチップが貰えて、これは稼げると自分なりに上手くやってたらいつのまにか一目置かれてた。 でもバイト先の事なんか、大事にも思ってなくて、喧嘩して怪我したりもしてた。 そんな中辰公に助けられて、セックスを覚えて、デビューの日が決まって。 それでも大学に再入学する事を俺は頭の片隅に置いておいたのに、今こうして改めてちゃんとナンバーワンの舞台を目の前にして引き込まれて、呑まれて、俺はここで1番になってやろうってそう思った。 「嶺緒ー、タバコー。」 町田さんと辰公と3人で話してから、俺はデビュー目前まで漕ぎつけた。 なのに1ヶ月間、何をやったかって、辰公の付き人させられただけだ。 俺は凄く腹が立っている。 辰公の都合がいい時に家に持ち帰られて、抱かれて、一緒に出勤して付き人のように着いて回る。 それで俺の何が成長したのかさっぱり分からない。 苛々しながらタバコを渡す。 俺は付き人じゃねー。 カチリと火をつけると、青い炎が一瞬でタバコの先を焦がす。 モクモクと立ち込める煙が甘く独特な匂いを放って辺りに蔓延する。 「舞台上がったばっかでタバコ吸うとヤケドするぞ?」 下着だけの姿で火をつける辰公にバスローブをかけるのも俺の役目。 「ん。」と適当な返事を返すと辰公は灰皿の横でゆっくりとタバコの煙を肺に入れる。 暗い舞台裏。 舞台から漏れる色とりどりの光とダウンライトのオレンジ色の淡い光が辰公を照らす。 鋭い瞳の中で光を取り入れた薄い瞳に被さるように目尻に向けて長く広がるまつ毛がライトで艶を帯びる。 億劫そうに吸うタバコも、憂いを吐くように吐きだす煙も、哀愁を漂わせる。 孤独なような、でもそれが美しいような雰囲気が辰公から感じ取れる。 何を考えてるんだか分からない。 自分から人に話かける事は多くなくて、顔の作りも相まって本当にクールな人だ。 でも周りのスタッフやキャストには物凄くモテて、セックスの相手にも困らない。 でも俺の前では饒舌に煽るように囁きながら俺を抱く。 でも時折こうやってもの悲しいような孤独な表情を見せる事もある。 近くに居たけど本当によく分からないまま、1ヶ月があっという間に過ぎていった。 わからん。と諦めながら、俺も近くの椅子に座ってぼーっとタバコが終わるのを待つ。 本当に喋らない人なんだ。 こんな待ち時間も気を利かせた会話はない。 辰公が突然立ち上がって、タバコを灰皿で捻り消す姿を見て、俺も立ち上がると俺が着いてきているのを一瞥して無言で歩き出す。 俺と辰公が一緒に歩いているのを見て、キャストもスタッフも羨ましそうに眺めてくる。 代われるなら代わって欲しいよ。 俺にはこの人は身に余る。 はぁと小さくため息を吐く。 付き添うように歩いていると、個人休憩室に戻る途中で声をかけられる。 「あ、あの、白川さん、お話が....。」 見覚えはない。俺自身人を覚えるのがあんまり得意じゃない。多分絡んだことのないスタッフか...。 ちらと辰公を見ると無関心そうに口を開く。 「いってこいよ。」 俺を置いて辰公が休憩室へ、角を曲がり姿が見えなくなると、俺を呼び止めたスタッフがハァと緊張した肩を撫で下ろすようにため息を吐く。 「あー、えっと。合同休憩室でもいく?」 俺が提案すると、こくりと頷く。 とても明るい話ではなさそうな表情に俺も少し緊張する。 俺が原因か?でも関わりないし...。全く検討がつかない。 休憩室へ向かうたった2分間、真剣に頭を回したが全く話しかけられた理由を思い付かないまま到着してしまう。 休憩室の中でも仕切りがあって1番奥まった席を選ぶと小声ながらまっすぐと俺を見てその子は言った。 「辰公さんと、付き合ってるんですか?」 あまりにも真っ直ぐ、聞くもんだから俺もしっかりと返す。 なるべく、焦った様な姿は見せないように。 「ただの付き人、みたいな感じです。」 会話の最初がそれ。 相手のこと全く知らないのにどうしたもんかと狼狽する。 すごくめんどくさい事になっている気がする。 そんな予想が次の彼の言葉ですぐに的中したとわかる。 「俺、辰公さんが好きで、でも辰公さんが特定の人を作らないのは知ってました。だから一回だけでもって無理言って、体の関係に、なったんです。でもそれっきり本当に一回きりで、他にもそういう子がいて、そういうもんだろうと思ってたのに、白川さんはずっと辰公さんの横にいて、付き合ってんじゃないかって、噂になってて....。」 歯切れの悪い説明でも俺ははっきりとわかる。 辰公と関係を持ったスタッフやらキャストの中で俺の存在が何なのかと噂になってるんだ。 そりゃそうだよな、まだデビューもしてないボーイがずっと付き添ってんだし。 好きでやってるんじゃないけど。 「あー、まぁ付き合ってないし... 「じゃあ体の関係は、あるんですか!?」 体の関係はあるよ。 あるけど、そんなのキャストだったらショーでヤってんだし変わらなくないか?と思ったが、正直仕事でやるセックスとプライベートでやるセックスは別物だよなと、自分自身で納得。 何だったら俺はまだキャストじゃない。 だが関係があるなんて言えるわけもなく。 悶々と言い訳を考える。 同時に巻き込まれた苛立ちが辰公に対して募る。 「身体の関係って、ないよそんなん。研修してもらってるくらいで。」 キャストになる手前の研修は、必ずセックスが伴う。それしかやってない事にしようと頭が冴える。 「そうですか...じゃあ、辰公さんが俺に振り向いてくれるにはどうしたら良いんですかね...?」 え? 突然の恋愛相談に戸惑う。 俺は恋愛相談なんて聞いてやれる性格じゃないし、恋愛した事ないし。俺1番相談相手に向いてないと思うんだけどな....。 でも目の前の落ち込んでるスタッフをそのまま放っておくほど俺も鬼ではない。 「うーん、俺は恋愛経験殆どないからなんともいえないけど、辰公さんはセックスを楽しむ人だと思うんだよね。見た目もいいし周りが放って置かない分、多分特定の人って、作らない。だったらこっちが割り切るか、告白して砕けちゃったほうがさ、気が楽になると思うよ。」 誰でも言えるような助言。 辰公を完全否定もできないし、でも正直あの人に限ってその辺の一回セックスした程度の人間と付き合うなんて事はしない。 本当は身の程を弁えるべきなんだ。 手なんて届かないって、ちゃんと理解して付き合っていくべきだ。 彼への心の声が、まるで自分に説教しているような気分になってくる。 すげー嫌な気分。 自分まで気分が沈んで落ち込んでくる。 同時に彼の辛さが身に染みる。 いけない人に恋しちゃったんだ。止められないのに、心は振り回されて、身を削る事になる。 仕事が辛くなる前に、止めてあげたい。 そんな風に心をぐるぐると自分で掻き回していると、男が俺をじっと見つめていた。 「なんでそんな白川さんが辛そうな顔してるんですか?」 ぽろりと俺の表情に釣られたように男が涙をこぼす。 「え、あれ、ごめんなんか、気持ち考えてたら俺も辛くなっちゃって。」 はははと笑って誤魔化す俺を見ても男の涙は収まらず、俺は彼が泣き止むまで背中をさすって散々と吐き出す思いのたけを自分のことのように受け止めた。 結局1時間ほど話して、彼は思いを告げて諦めると、そう覚悟を決めて俺の元から去っていった。 こんなに長話したのは久々だし、ここまで時間がかかってはもう辰公も帰っているだろうと休憩室を期待もせずに覗くとソファの肘置きに頭を預けて辰公が寝こけていた。 「え、...居るじゃん。」 驚いてぽつりと漏らした声に気づいた辰公がぼんやりと目を開ける。 案外すぐに起きた事に驚き心臓が跳ねる。 くぁと長い腕を伸ばして欠伸をすると立ち上がって「帰るぞ。」と上着を羽織り始める。 「待ってたの?」 「俺が待つわけないだろ。」 嫌な返事。でも本当に辰公は待つような性格じゃない。疲れて眠ってしまったんだろう。 ちょっとだけ心が浮ついた俺がバカみたいだ。 先程驚いた時に脈打つ心臓が止まらない。 動悸は疲労感も感じるから嫌いだ。 「今日あんたとヤったって子から相談受けたよ。」 チラリと一瞥する。 どんな反応をするんだろうと、意識を辰公に向ける。 「ふーん。それで?」 俺の心の中の予想は大正解。 興味なさそうにするだろうなとは思ってた。 悪びれた様子もなく、周りだけが傷つくんだ。 辰公は深夜の街の中、ネオンの光が瞳を入れ替わりに照らす中、タバコに火をつけて、ふぅと吹き上げる。 「なんで無口な癖にモテるの?」 俺は別にモテたい訳じゃないけどこんな態度でもモテるのが納得いかない。 歩きながら、人にぶつからないように、それでもチラと辰公の表情を見ながら歩く。 前を向いてすぐ目線を辰公に戻した。 またショーが終わった後と同じ、憂いを吐くような表情で、吊り上がった眉を一瞬だけ下げる。 「俺がαだからだろ。」 意外な答えに凝視した目が離せなくなる。 瞬きをした辰公が、いつもはまっすぐと正面を見据えているのに、その時だけは目を地面に落とした。 ほんの一瞬の出来事だった。 俺は正面から歩いてきた人にぶつかりそうになり目線を外し、また辰公を見た頃にはいつもの表情に戻っていた。 「αってだけで、モテるとは思えないんだけど....。」 フォローをしたつもりだった。あんたに魅力があるんじゃないかって。 でもその時の辰公はそうは捉えなかった。 「じゃあ、俺が金持ってるからだろ。」 違和感を感じた。 こんなにマイナスな捉え方をするような人間じゃないと、俺は思ってた。 辰公の底にある暗がりを始めて覗き込んだような気がした。 誰の好意も寄せ付けないような冷気は此処から立ち込めてるんじゃないかと俺は思った。 「そーいう話じゃなくてさ、...まぁいいけど、なんでそんな周りの奴らとヤっちゃうんだよ。俺を巻き込むなよ。」 呆れたように自分の首筋を撫でる。 はぁとため息を吐くと、熱い吐息が白い息となって宙に消える。 後1週間で俺も20歳の誕生日を迎えてボーイからキャストになる。 この人と1ヶ月一緒に居て、ついたため息の数は数え切れない。 もうすぐこうやって付き纏う仕事も最後かと思うと今のうちに鬱憤を吐き出してしまおうと俺の溜まったストレスが溢れ出す。 「セックスヤってる時が1番楽なんだよ。なんも考えなくていいだろ。嫌なことも。」 嫌に感傷的な辰公が不気味だ。 今まで傲慢で、自信家だった癖に風邪でも引いたのかってくらい今日はおかしい。 「でも2回目は無ぇ。2回もおんなじ奴抱けないよ。セックスは一回でいい。一回目が1番ワクワクして失望もしない。残念でも『こんなもんか』って思って終わりだよ。合わねー奴との2回目は苦痛になる。」 2回目は無いって、俺と散々数え切れないほどヤってる癖に何を言ってんだか本当に分からない。 『じゃあ俺はなんだ』って聞きたい。 問い詰めたい気持ちを理性が抑える。 俺と辰公は絶対に互いに近づきすぎないように距離をとってる。 深い事も聞かないし、自分が相手に教えてもらった事以外は何も知らないでいる。 俺達は直感的に互いが毒だった分かり合ってる。 俺達は何もかも逆なんだ。 あえて聞かない。聞くのも野暮だし、正直答えが怖い。 「抱かれた奴らはそーは思ってないみたいだけど。」 『二度目は無い』って言われたって、今まで経験したことの無いテクニックでイかされたら誰でも辰公とのセックスを忘れられなくなる。 そういう奴らで溢れかえってるんだ。 「そんなの知らねーよ。俺は据え膳は食う。ただ一回だけ。それだけだよ。それ以外の感情は無い。」 非情にも、俺には関係ないと、そう言うように遠くを見つめたまま歩みを続ける。 余計な事を喋らないこいつは、きっと周りからは舞台の上での“井上辰公”とイコールで見られている。 舞台上では冷たくて、でも何処か自信に満ちてて、不思議な魅力がある、そのままの印象が口数少ない辰公のイメージになってしまっているんだろう。 本当はこんなに非情で性悪で、他人の事なんか微塵も考えられない傲慢な奴なのに。 それを知る前に、関係が終わるんだ。 だからみんな、自分の想像上の“井上辰公”の姿を胸に残したまま、辰公とは話さなくなる。 俺が心の中で悶々と、考えているのに辰公はそんな俺の気もしれず、当たり前のように口にする。 「今日、来るだろ?」 いつものお誘い。 もう暫く自分の家に帰ってない。 当時の俺の家はまだ店から遠かったし、広くもなかったから、辰公の家は近くて広くて、便利だった。 下着だけ買って、服は辰公の服を借りて、そのまま、また辰公の家に帰る生活を繰り返してる。 身長もそんなに変わらないし、サイズにも困らない。 辰公自体派手な色の服とか着ないし、俺は辰公の服の趣味に外れてる訳ではないから着ない理由もない。 半同棲。付き合ってもないし愛も囁かないのに。 「うん。...行くよ。」 いつも通り答える。 いつも通りの帰り道。 ただ、辰公だけがいつもと違う。 何があったのかも知らないし、何もなかったのかもしれないし。 ただ寒い体を暖めるように、身を寄せながら辰公の家に帰った。 硬いジャケット同士がぶつかって擦れ合う。 寒いからって辰公は俺を抱き寄せたりはしないし、俺も服越しに少し肩を寄せるだけで、周りはきっと俺達がいつもおんなじ家に帰って肌を重ねてるなんて思わないだろう。 徒歩で直ぐに着いてしまう辰公の家の玄関を開けると、つけっぱなしの暖房が悴んだ手を暖める。 「っ〜暖かい....。」 ふわりと漂うさわやかな柑橘系の部屋の匂いと共に暖気に心が落ち着く。 靴を脱いで、玄関マットに足をつけた所で辰公が俺を壁に押しやりズレたマットが俺の視線がガクンと落ちる。 壁を背にずり落ちる俺の腕を引き上げると、強引に唇を重ねた。 待ち切れないと言った様子で熱い舌が割り入ってくる。 「た、たつ!ん、ふぅ...!」 俺が止める間も無く口内を犯すように掻き回される。 辰公が突然なのはいつものことだ。 でも、今薄らと開けた目の前にいる辰公の表情は急いているように余裕がない。 凍りついたような手が服の間から素肌を撫でて、あまりの冷たさに背が仰反る。 「んっ!?つめたっ...んぅ...。」 凍りついた手に負けるように俺の表面温度が下がっていく。だがキスで上がっていく体温と、気重ねた服がしっかりと温められた室内で俺を汗ばませる。 溶解するような熱く溶けるようなキスで、力が抜けていく俺を落ちないように股の間に膝を差し込むと壁に膝を押し当てて支える。 「っあっ...!はぁっ、辰公っ...。」 冷たい指先が胸の先端を敏感にさせて、摘んでは弾かれる。 一瞬一瞬の感覚を受ける体が、その鋭さを体現する様に跳ねる。 逃げようと足で床を蹴っても壁に背中を擦るばかりで挟まれた俺は身動きが取れない。 手の冷たさを俺の体が吸い取って、馴染んでいくと、逃げ場のない火照りが額をじわりと湿らせて、唇を離し、向かい合った2人の熱い吐息が熱を浴びせる。 辰公と額を合わせ合いながらはぁはぁと2人で荒い息漏らす。 薄らと瞼を落として扇情的な表情をした辰公が また口を付けようと目を閉じて迫る辰公を押し下げる。 「ねぇ、ちょっと焦りすぎ。体熱くて堪んねーよ。」 ジャケットを脱ごうとすると、俺のズボンのボタンを辰公が外し始める。 まさか、ここで全部脱がすつもりかよ? 厚手のジャケットが脱いだ形を少し留めて足元の白いフローリングにばさりと落ちる。 ズボンのボタンだけ外すと太腿から落ち切る前に、今度は腹に手を滑り込ませて服を捲りあげていく。 汗ばんだ肌に服が纏わりつく。急く辰公の額から汗が尖った顎に向かって流れ落ちる。 「来週、舞台上がるんだろ。」 中途半端に服を捲りあげた辰公がじっと俺を見据える。 何を考えているか分からないぼんやりとした瞳で俺の肌に手を添える。 「そうだよ。」 わけもわからずそう答えると、辰公が企むように薄く口角を上げる。 「本当にちゃんと舞台に立てるか、確かめてやる。」 最後の一枚を俺から剥ぎ取ると、両腿を抱え上げるように手を差し込み、子供のように抱き上げる。 「なっ...!?降ろせよっ...!??」 羞恥心が広がる顔を見られたくなくて俺は辰公の首に抱きついた。 すっきりとした首筋からほのかに香水の残り香を感じ取る。 俺よりも細身な辰公に不安を感じるも、何ら問題なさそうにバランスを崩す事もなくしっかりと抱き抱えてベットへと運ばれる。 広々としたベットに降ろされると、辰公は直ぐにジャケットを肩から落とすと服を掴んだ両手を上げて乱雑に服を脱ぎ捨てる。 もう何度も見ているのに、贅肉の少ない筋張った筋肉が扇情的に映る。 汗が滴る前髪をかき上げると、下着だけになった辰公が壁に寄りかかった俺の横に逃げない様に腕を着くと、獲物を狙うライオンの様にゆっくりと顔を近づける。 「俺をイかせてみろよ。できるだろ...?」 叩きつけられた挑戦状は、俺がショーで上手くやれるかを確認する為の物だとすぐにわかった。 両手を壁につけた辰公の懐に入り込み、後ろ手を着かせると啄む様に唇をつけては離す。 「ん...。」 薄らと目を開けると、辰公は俺を試す様な目で瞳を閉じる事なくじっと俺の動きを見続ける。 今まで饒舌に俺を煽り、指示をしていた辰公が今日は静かに俺の動きを待つ。 視線を感じない様に、緊張を湧かせない様に、目を瞑り、首に腕を回して唇を溶接するように押し付ける。 中では互いの舌の熱が移りあって、溶け合い、溶け出した一部が溶接し損ねた隙間からどろりと漏れる。 甘える猫の様に、触れ合う身体を捩りながらキスをすると、甘くふわふわとした気持ちよさが緊張を忘れさせた。 求める様にじりじりと辰公の胸を這い上がると、辰公は空を仰ぐ様に喉を反らせ、俺は上からキスをする。 辰公の上に跨ったまま、キスを終えると、辰公の口から頬に溢れた唾液が落ちた。 「随分色気付いてきたな、嶺緒。」 口の端に銀色の糸を引いた辰公が余裕の表情で俺の背を撫でる。 「天国イかせてやるよ。」 挑戦的な辰公の下着に手をかけると、押さえ込まれていたモノが露わになる。 『舐めろ』 静かな部屋の中で過去の辰公の声に従いながらゆっくりと口をつける。 『舌を使え。ゆっくり、先を吸い上げるように舐めて、絡めて咥え込め。』 1ヶ月間同じ家で、同じ場所で、体を交えた辰公の指示が脳裏に浮かび、その通りに音を立てながら柔らかな先端を吸って、窪んだ筋の繋ぎ目を舐めて、舌を絡めながら根元まで咥え込む。 辰公はここが好きな筈。 俺はこうされるのが好きだった。 そう今までの2人の感覚を織り交ぜるように頭を上下させながら辰公のモノを挿れやすいように勃たせ、濡らす。 「...っ....はぁ...っ。」 頭を撫でる手にふいに力が込められ、髪を掴まれたことに驚いた俺が顔を上げると、辰公が先程の表情から余裕を減らし薄らと赤らめた頬で吐息を吐いた。 しかし、責める手を和らげる事はせず、尚更舌を激しく絡め、鈴口を吸い上げた。 「......っッ...。」 喉を反らせ、焚きつけられる快楽に悶えるように今度は俯き湿った息が上目遣いに見上げる俺を温める。額からぽたりと汗が落ち、雫が漏斗を滑るように下腹部へと流れ落ちる。 辰公をイかせるかどうかの主導権は俺が握っていて、それが俺の嗜虐的な感情を漸増させた。 αって、辰公って、こんな気持ちで俺を見ていたんだと、ゾクゾクと胸が痺れて下腹部がじわりと熱を帯びていく。 きっとあの時俺のモノを舐めていた辰公と俺は今同じ目をしている。 「頂戴、辰公。」 俺の顔を見た辰公が目を丸くすると、瞼で瞳を潰したような陶酔した瞳で余裕なく口角を緩く上げた。 そんな表情を壊す様に上下に手と口を使って追い討ちをかける。 「っ......——っっッ....‼︎」 突然首を絞められたように静止し喉を擦るような苦しい声を辰公が漏らす。 すぐに俺の頭に両手を当て、緊張した筋肉が誤作動を起こしたように不規則な力を込めると同時に口内で脈打つ物から苦味のある粘液が溢れ出る。 辰公は俺の口の中に自分の欲を吐き出しながら、解放された気道で深く呼吸をし肩を上下させた。 俺は辰公をイかせた。 俺は口いっぱいに出た精子の湖に指を差し込み舌を絡ませる様を息を荒くした辰公に見せつけながら上半身を辰公に預けて突き出したお尻の窪みに埋めて、残った液体をごくりと飲み下す。 精子飲むのも、もう慣れてきた。 気抜けする辰公が俺の行動を見てまた驚いたように目を丸くすると、首に巻きついた俺の口に自ら舌を割り入れて深いキスをした。 「んんっ...。」 辰公の甘さすら感じてしまうような唾液が残った苦味と混ざり合って俺を酔わせていく。 辰公と舌を絡ませている間も後ろの穴を広げるために跨った腰を浮かせて指を折る。 「んぅ...ふっん...あン、んァ...。」 唇は塞がれ、くぐもった喘ぎ声と水気の含んだキスの音が混ざって漏れる。 ぐちゅぐちゅと、空気を絡めた水音をならしながら手を伝って流れ落ちる愛液が辰公の腿に降落ちるた。 「あー、もう待てねぇ。」 低い唸る様な声と共に、俺が後ろに伸ばした手は弾かれて入り口に萎えず勃ったままのモノを当てる。 「っじっとしとけよ先輩....、俺が動いてやるからさ...。」 押し倒そうとする辰公を止めると、マウントを取ったまま自身の体重をかけて辰公のモノを飲み込んでいく。 入り切ったところでゆっくりと、腿を開き辰公の肩に手を着いて体を上下させる。 最初とは違って体は阻むものもなく、簡単に辰公のモノを受け入れた。 「——すぎた。」 ぽつりと呟く辰公の言葉がよく聞こえなかった。 「え?」 一瞬集中が途切れた俺の腰を掴んで打ちつける。 「ッあ...ッ!!」 突然の衝撃に声が漏れる。 辰公は無言のままただ獣の様に息を吐き、俺は 耐えきれず辰公に抱きついてただ声を漏らすだけだった。 「ッあぁ、俺がっ、ん、動く、って、...ぅあぁあ!!」 素直に溢れる快感の声で言葉が跳ねる。 辰公は聞き入れる素振りも見せず、跳ね上がる体と自重で叩きつけられ、既に解すための自慰で限界が迫っていた俺は激しく声を上げた。 腹部を擦り合わせるように腰が揺れて、辰公の耳元でだらしなく声を漏らして、自身の先端から粘性の透明な液が流れる。 辰公は首を交わした俺の耳をも犯そうと舌を入れ、脳の間近で聞こえる水音がまるで自分と辰公の結合部に耳でも当てているように反響する。 「たつ...!たつきみッ...!んっもう出るっ...って、っあぁはな、せよ...!」 ただ獰猛な獣が瞳孔を開いて、全神経を集中させて獲物だけを見ている様に、俺への意識はなくピストンを続ける。 「ッっ...‼︎っだ、ダメ、イくっ...!」 数回、奥を突かれると、頭は仰け反り、辰公から離れてしまいそうになる。 脱皮する蜻蛉の様に反り返る俺の腕を、辰公はしっかり掴み、腰を抱き落として辰公のモノが奥まで捻り入る。 「あ゛ぁっンッ!っぁ....はぁ...っ...。」 辰公に俺の先端から快楽の果てに白濁の粘液がかかる。 自分の吐き出したモノを眺めながら、全身から虚しく力が抜けていく。 ベットの上で仰向けに胸を上下に呼吸をすると、辰公が檻から出たライオンの様にのっそりと俺の上で四つん這いに見下ろす。 「はぁ....はぁ....辰公?」 辰公は唇に、顳顬に、首筋に、頸に、鎖骨に、ゆっくりとキスを下ろす。 熱を帯びた唇が、肌に火照りの足跡を残す様に点々と移動しじわりとまた気持ちを煽られる。 髪を撫でて、優しく口付けをして頬を寄せる。 まるで愛し合っている2人がする様な、優しい愛撫に身を捩る。 やっぱりおかしい。こんな甘いセックスするのは初めてだ。 「嶺緒。」 それだけ。ただそれだけを口にして、俺の口を塞いで、また中を埋める様に辰公のモノが入ってくる。 「っはぁー...。」と、辰公の力を抜いた心地良さそうな吐息が鼓膜を孕ます。 塞いだまま優しく、揺すり、コツコツと、前立腺でも直腸でもない、微妙な位置に先がぶつかる。 「辰公、今日変だぞ....。」 小さな快感がずっと続く。 ずっと小さな電気を浴びる。 体感した事のない感覚に意識を巡らすとゆっくりとまたその位置に当てたモノをじわじわと押し込んでいく。 「....っぁ、っぅん、...く、ん...。」 もどかしい快感が瞼の裏で火花を散らす。 まだイきそうでもないのに、頭が徐々に血の気を失っていく。 なんでだ、なんだこの感覚。 ずっとイきそうだ。 ぬちゃぬちゃと、ゆっくりと出し入れされる。 激しくイくことばかりだった俺はこんな温水の様な緩い、でもじわじわと責め立てる快感は初めてだった。 「っ...はぁ....ん...。」 突然ぐいと足を抱えられうつ伏せに返される。 シーツにモノが擦れただけでイキそうだ。 もどかしさを重ねるように頸や肩に何度もキスを落とす。 イキたい、思いっきり突いてほしい。 でも竿を数センチ残して入れきらないまま辰公は腰を振る。 「辰公...もうイキたい...もっと奥まで....。」 それでも辰公は俺に返事もしない。ただぐりぐりと同じ所を擦ってキスをするだけ。 そう思っていた矢先、辰公のものがすべて抜ける程ズルリと身体から離れると、先ほどまで擦っていた部分を突き上げた。 「ッッ〜〜あぁっ....あぁあああっ....!」 一瞬ショートしたように頭が真っ白になると、一度イっているのにダラダラと緩んだ蛇口の様にサラサラとした水が先端から溢れ出る。 優しく触れていた辰公は俺のその姿を見て、ふと薄く微笑むとイキ終わっても動き続けた。 その快感を感じてからはただ突かれるだけでイっている様な感覚が絶えず体の中を循環し続ける。 「っああ〜...も、おわって...!むりぃ、あっぁっ....!」 垂れる水は粘度はなくベットをぐしょぐしょに濡らし続ける。 体の水分を全てここから垂れ流してしまいそうなほど、歯止めが効かない。 腰がガクガクと遅れて震え出し、だらしない声を出しながらイキ続け、どれくらいだったか、辰公が何度かイくまで行為は終わらなかった。 何時間もヤったのか、実際は短時間だったのかも、朦朧とした意識の中では時間の感覚もわからないままだった。 「あー、...何してんだ俺。」 辰公がまた哀愁を漂わせる、もの悲しい表情でぽつりと呟いた様な気がした。 俺の記憶はそこで途切れた。 起きたら辰公はいなくて、キョロキョロと周りを見渡すと、シンプルなハンガーラックにクリーニングのタグのついたスーツが掛けられているのが目に入った。そして俺の服や持ち物も綺麗に纏められていた。 スーツ...? 俺たちはこの仕事しててスーツを着ることなんてない。 色んな部屋に置き散らした俺の私物があるのも気になる。 違和感を覚えたままリビングを覗き込むと、辰公がキッチンでタバコを吸っていた。 「ん、起きたか。」 辰公はタバコを吸いながら、億劫そうに、でも何処か遠くを見る様な目で俺を見る。 「今日から俺いないから。」 「は?」 突然の宣告に混乱。 先程のスーツや荷物の光景が蘇る。 「残りの1週間の研修は、百田に任せてるから。お前はタチも覚えろ。」 仕事の報告の様に、淡々と、俺の頭に新しい情報を詰め込んでくる。 なんで先に教えてくれなかったんだよ。 この人の勝手はいつもの事だけど、それでもあまりにも、急すぎる。 付き人なんてやってるんじゃないと、誰か変わってくれと、そう思ってたはずなのに、この時間が終わるのは苦しくて、その感情をぶつける様に辰公に怒りを向ける。 「聞いてねーよ。」 「言ってねぇ。」 目も合わせずに一言で終わらせる。 「急すぎんだろ。」 「うるせぇ。」 「辰公...!」 「出て行け。家でヤんのは今日が最後だ。」 突然の突き放す様な態度に納得がいかない俺は、タバコを吸う辰公には近づいたことはなかったが、怒りで、そんな事気にする余裕もなく腕を掴んだ。 「何が理由なんだよ。俺の目を見て言えよ。」 昨日から目を合わせる事が殆どない。 何か、辰公の中で何かがあったんだと俺はそう思った。 最近おかしかった理由も、ここにつながっている気がした。 辰公はタバコを咥えたまま、俺の手を振り払うと首根っこを掴んで壁側にぶつける様に押し付ける。 「俺に命令すんな、Ωの癖に。1ヶ月、1ヶ月間遊んだだけだ。俺にしては長く持った。ただそれだけだ。わかったらさっさと荷物持って帰れ。お前の家にある服も、今日きてきた服もいらねぇ。Ωの匂いがついた服なんかフェロモン臭くて着れねぇ。全部くれてやるからさっさと家を出ろ。」 ジリジリと燃えるタバコが灰に変わっていくのが、まるで俺の心を残酷に焦がしている様に見える。 俺の嫌いな言葉ばっかり並べて、傷つく俺を見て、なんであんたがそんな、苦しそうな顔してんだ。 本当に訳わかんない。 辰公は俺の首根っこを握っていることを忘れたのか、力を込めたまま、動脈が抑えられた俺は徐々に気が遠のいていきそうだった。 ハッとした辰公が手を離すと、腰が抜けた俺がそのまま壁を伝って床に座り込んだ。 苦しい。息も胸も。 「あんたは一回ヤったらヤらねぇって言ったな。じゃあなんで俺を抱いた!?なんで一回で捨ててくれなかったんだよ!ふざけんな!あんたの事は好きでもなんでもない!付き合って、恋愛しようなんて微塵もない!でも、なんで最後にあんな....あんなセックスしたんだよ....。」 こいつのために泣いたりなんてしない。 でも堪えた手が小さく震えて、怒りで震えてるのか、悲しくて震えてるのか、もうよくわからなくなっていた。 「嶺緒....。」 「俺の名前を呼ぶなよ...!!!!」 辰公が伸ばした手を弾き飛ばす。 乱暴に。憎しみでも込めたように。 それでも辰公は、俺を壁に追い詰めて、優しくキスをした。 一瞬のキス。俺があいつの唇を噛んでやろうと思うまも与えず終わった。 「お前とはヤりたくなる。他の奴らみたいに一回じゃ終われない。だから... 「あんたが俺の中身に興味がないように俺だってあんたの中身のことは興味ねぇ!余計な事これ以上聞かせるな!!」 これ以上聞きたくないと辰公の言葉を遮った。 あんたの中身を知ってどうしろって言うんだよ....。 俺は辰公の部屋へ戻ると服を着替えて荷物を持ってバタバタ辰公の家を出て行った。 服からは辰公の香水の匂いがして、口にはタバコの苦味がして、脳裏に浮かぶもの悲しい辰公の顔を思い出して、年甲斐もなく涙をこぼした。

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