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番外編1-3 Healer.

心は打ちのめされてるのに今日は仕事で、いつも横にいた辰公は今日はいなくて、辰公の家からでたその足、憂鬱な気持ちで、デルタの従業員用入り口の前で俺は佇んでいる。 このドアを開けたくない。 ムカつくあいつは居ないのに。 ただやる気が出ないだけ。 重い気持ちがドアノブに触れる手を止める。 はぁーと深いため息をついていると後ろから声がする。 「早すぎない?嶺緒くん。」 ふわふわとした優しい声にびくりと肩を跳ねさせる。 「び...びっくりした...、お疲れ様です...。」 この声はデルタでは歴が長い、先輩の百田(ももた)さんだ。 振り返ると、百田さんが長い前髪からチラリと目を覗かせて微笑む。 「おれおばけじゃないよ?」 困ったように頬を掻くと、百田さんは俺が開ける事ができなかったドアを安易と開く。 「今日はおれと研修だからね、さ、いこいこ!」 俺の気持ちを知ってか知らずか、微笑んだままの百田さんは俺の手を引いて、俺に鬼門をくぐらせた。 百田さんの柔らかな明るさを持ってしても、俺の心は簡単には晴れない。 でも俺は仕事をしにきたんだと気持ちを切り替えるように、陰鬱な息を吐いて捨てた。 「まっちゃん、休憩室使うよ〜!」 事務所にひょっこり顔を出した百田は、入り口から休憩室の鍵を一個指にかけて取ると「はーい。」と扉の奥から聞こえる町田オーナーの声を聞いて事務所の扉を閉めた。 「早速ヤっちゃおう!おれ結構嶺緒くんに抱かれるの楽しみにしてたんだぁ。」 わくわくという擬音をそのまま表したような百田の様子にふと笑みが溢れる。 軽く足を弾ませた百田は浮かれ気味に弾む足で休憩室へと向かった。 ガチャガチャと鍵を開けると、綺麗に整備された無臭の休憩室に光が灯る。 内側から鍵を閉めると百田さんはプールに来た子供のように、服を早業で脱ぎ捨ててベットに飛び込む。 散乱した百田さんの服を呆気に取られながら掻き集めて居る俺を気にせず、無邪気な笑顔で布団に抱きついた。 「わっふー!ここのベットでかいから好きだ〜。」 布団に包まった百田が気持ちよさそうにベットで横になる。 「ちょっと、百田さん早いですよ...。」 困った表情で俺が靴を脱いで荷物を置いていると、おいでおいでとベットに手招きされる。 言われるがままベットに座ると布団を背負ったままの百田が後ろから抱きついた。 「今はおれ達“恋人”なんだからさ、実喜(みき)って呼んでよ。」 俺がまだデビューする前は、タチの研修としての役目は殆ど百田さん1人でやっていた。 この人が俺に研修する立場としての全てを教えてくれた人だ。 優しくて、包み込むような雰囲気の実喜さんは辰公を追ってナンバーツーの看板キャストで、スタッフやキャスト問わず人気が高い人だった。 「実喜...さん。」 「あはは、いいやそれで!まずはさ、少しお話ししよう?恋人ごっこはお喋りからだよ。」 ふわふわとしたきめの細かい手で、俺の胸に触れながら服を捲り上げていく。 辰公とは違って優しい手つきに、マッサージをされているような気持ちよさを感じる。 辰公...の名前を無意識に出してしまう。 嫌な癖だ。 俺の経験の100%は辰公が占めている。辰公と比べてしまうのは仕方がない。仕方ない...。 嫌でも思い出す。本当に嫌いだあいつ。 ふとよぎる辰公を振り払うと目の前の実喜に集中しようと必死になる。 「たっちゃんの研修どうだった?」 “たっちゃん”には聞き覚えないが“研修”という事はたっちゃん=辰公を指しているんだろう。 振り払ったばかりの辰公がまた浮かぶ。 なんと答えたら正解なのか難しくて一瞬口籠る。 「え、っと....。まぁ散々ヤられました。人使いも荒いし...あの人苦手です。」 俺の言葉に百田はキョトンとした表情で、俺の肌を触れる手を止めた。 「え?たっちゃんとそんなに何回もエッチしたの?」 しまった——…。あいつがヤりまくるのは有名だけど、同じやつと何回もヤるような性分ではない。まずい事を言ったと焦り出して冷や汗が流れる。 まるで浮気の尋問でもされているような気分だ。…俺のせいじゃないのに。 自ら墓穴を掘ってしまい狼狽する。 「えぇ...まぁ、お陰でセックスのやり方を覚えましたから。その点は、感謝してます。」 “その点は”と強調して話すと、百田が「あはは」と、口の端に笑窪をくぼませて笑った。 実喜さんは明るくてよく笑う人だ。この人といると陰鬱な気分も少し紛れる。 あいつと最後まで研修をやってたら最後の日にあんな風に嫌な思いしてたんだろうか。 そう思うと残りの一週間が実喜さんでホッとする。 そんな中唐突に放たれた言葉に、俺の心臓は音を立てて跳ねる。 「今日はたっちゃんとエッチして来たの?」 小悪魔のような意地悪な笑みをにっこりと向けられ、俺はぎこちない表情で目線を外した。 何故分かったのかというように目は左右に振られ、心臓の音が外に漏れ出てしまうようだっ た。 「服も、匂いも、たっちゃんのだ。たっちゃんのお家から来たんでしょ?」 スンスンと鼻先を鳴らして俺の着ている辰公の服の香りを嗅ぎながら、首を傾げる。 「えっと、その...。」 口籠る俺の姿をみて百田は「ありゃ、半分冗談だったのに。」と申し訳なさそうに眉を下げて笑った。 「...まぁ、あの人にとっては俺なんて遊び相手の1人ですよ...。物珍しいΩ見て手を出したかったんでしょうね。」 それで一回で終わればよかったのに。と思い出しては心が苦しくなる。 まだあいつに囚われている。 早く頭の中から消えてほしい。 俺がはぁとため息を吐くと、百田はくすくすと笑った。 「そーでもないかも。」 俺の服を捲り上げる実喜が震わせた肩と、抑えた笑いを堪えきれないと言うように笑い声を漏らす。 「ばんざーい!」と言われ反射的に両手を上げた俺の服を実喜が脱がせた。脱がせた背をじっと眺めながら、ひたと少し冷えた手を背に当てる。 「たっちゃんにも独占欲ってあったんだね。こんなにいっぱい、キスマーク付けちゃって。こんな頸の近く噛んじゃって。おれに嶺緒くんには“触るな”とでも忠告してるみたいだ。」 キスマークがあるなんて知らない。 噛み跡があるのも覚えていない。 知らない跡が、今更になって俺を苦しめる。 一つ一つ跡がついているであろう場所を百田はなぞっていく。 ぞわぞわと肌が毛羽立ち、快感とも悪寒とも取れる感覚が走る。 「え...、ほんとですか...?後ろ見えないから、全然気づかなかった...。」 辰公が俺を独占したい?そんなはずない。 そんな奴があんな酷い事言ったりはしないし、俺の首を...締めたりはしない。 それでも、あんな事があったのにたった一回の優しいキスを思い出す。 いい思い出も悪い思い出も浮かんでくる。 「ま、触るんだけどね!」 俺が辰公との記憶に振り回されていると、ベットからぎゅっとだき締めて来た実喜に応えるように胡座をかいて抱きつく実喜を受け止める。 年上でも俺より10cm以上小さいんだ。 ふわふわと可愛らしい顔も、愛着が湧く。 「今日の嶺緒くんはおれのだし!たっちゃんの事忘れなよ。おれが気持ちよくしてあげる。だから嶺緒くんもさ、その身体のポテンシャル見せてよ。」 向き合って座る実喜が好奇心を指先に、確かめる様に嶺緒の胸をなぞる。 俺はタチとしての研修を受けに来たんだ。 辰公の事は忘れて、実喜さんに集中しないと。 「そうですよね...、実喜さんお願いします。」 そう心に決めて、大きく深呼吸をすると、嶺緒は実喜のくるりと跳ねた前髪を分けて顔をダウンライトの下に晒した。 少し驚いたように開いた目は、じっくりと見れば下まつげは長くて、人形のように大きな瞳はプラネタリウムの様に天井の小さな光の粒を写して青く色づいていた。 しかし短く眉間から目尻まで一直線に上がった眉が、ふわりと優しい実喜の印象を違って見せた。 「実喜さんって、実は可愛い顔してますね。」 優しく髪を耳に掛けてやると、きめ細かい陶器のような肌が薄紅色に色づく。 「へ、あっ、顔ちゃんと見られんの恥ずかしいかも...。」 顔を逸らそうとする実喜の顔を両手で挟み、目を引くほど大きな瞳が気になっじっと見つめる。 「あ、すみません...。でも恋人だから顔見てもいいですよね?」 「ふふ、そうだったね。」と羞恥心の中でも温和な笑みを見せると迫る俺を受け入れる様に目を瞑った。 実喜は俺の背中に手を回すと少し背伸びをして俺の唇に触れる。 くっついたり離れたりする唇を舌先で舐めると、実喜の口がゆっくりと俺の舌を招き入れる様に隙を見せ、舌を丁寧に滑り込ませると、もっと深いキスへと変わっていく。 自分より背の低い人とキスをするのは初めてで、気を抜けば覆い被さって実喜を仰け反らせ辛い体勢にさせてしまいそうになる。 「はぅ...んむ...嶺緒くん...キス、上手なんだね。」 キスを終えた実喜がうっとりとした表情で見上げる。 実喜さんとのキスは、本能のままに気持ちよくなる為のキスではなくて、恋人と愛し合ってする様な甘いキスだ。 自分自身も少し浮ついた様な、気恥ずかしいようなそんな気持ちで赤く火照る実喜さんを見つめる。熱が移りそうだ。 「悪い所あったら言ってください。」 「今の所大丈夫だよ。それより早く、...挿れたくなっちゃったな....。」 ふにゃりとした骨も緩んでしまいそうな可愛らしい笑みの中に、いやらしく赤らんだ表情で、実喜は自身の小鳥の様な小さく膨らんだお尻に目線を移す。 目線に先を見て少し緊張。俺は生唾を飲んだ。 実喜の求める様な顔に応えるように、ふわふわとした尾筒を撫でた。 「んぅ...。」 身を捻り、腰を逸らせて、上目遣いで、赤らめた肌で。 αなら、いや見た人皆がイチコロだろうと思う程段違いな、欲求を反映した姿に俺は見惚れてしまった。 「実喜さんは凄いですね。仕草や魅せ方が魅力的で...、ナンバーツーの所以がわかりました。」 「えへへ、ありがとう。おれはさ、Ω故に出せる魅力があると思うんだよね...。」 たんぽぽの綿毛の様なふわふわとした笑みを見せると、白い腕が俺のスボンのボタンを外していく。 言葉の隙間で一瞬色っぽい表情が消えて、実喜の素の表情が覗き、俺のズボンをするりと抜き取るとまたその表情は色気の裏に隠れる。 「ねぇ、続きやっちゃおう...?」 また色づいた表情でキスをせがみ、片手で下着のウエストに指を掛けて巧みに緩んだ着物の帯を落とすように俺の足から下着を抜き取る。 誘うような表情に心を惹かれ、そっと背を伸ばして近づける唇を、優しく重ねて拾い上げる。 「今だけでも、俺がタチとして覚えた事全部、実喜さんの体を通じて、見て欲しい。」 辰公の舞台の上での官能的で能動的な攻めを思い出す。 決して、プライベートで見せるようなエゴイスティックなセックスではなくて、身体や交わりそのものを美しく魅せるショーセックス。その上で相手には本当に気持ちよくなってもらうように出来れば、漸くプロだといえる。 俺よりも小さくて薄い胸板の、細い腕の、実喜さんの柔らかい手の甲に手を重ねる。 「見せてみてよ。嶺緒くんの覚えた事全部。」 目を細めた実喜が挑発的に笑みながら、重ねた手の指を絡ませる。 その手を合図に始まりを告げるキスをしながら向かい合った2人の間に支え合うように勃ったモノに実喜が手をかけ擦り合わせる。 唐突な刺激に一瞬キスをする口が止まるも、興奮する息を織り交ぜながらキスもしだいに濃くなっていく。 「ふぅ...ん....優しくて...溶けちゃいそ...。」 垂れ目の実喜の目が細まり、いやらしさ増長させる。 緩く口角を上げる実喜と唇を離すと物足りないように離す唇を追従しては、諦めたように動きを止める。 「実喜さん、舐めて下さい。」 と、指を2本実喜の口の前に出すと、子犬のように見上げながら舌で指先をぺろぺろと舐め、舌を巻き付けように絡めて口に含み、また口の中の見えない暗闇で指を舐る。 その間も擦りあう2人のモノに、腰がピリピリと疼いてくる。 相手が自分の言いつけ通りに動く事への優越感。αの感覚はこれに似た感覚とともにα性特有の高揚感も感じるのだろう。 そう思うと羨ましい限りだ。 Ωの俺でも、こうして従えている感覚だけでも優越感で気分が高揚するのに、もっと激しく、支配への快感を心だけでなく体で感じ取るのだから、そういう性の下に生きているαが傲慢であったり高圧的なのも頷ける。 実喜がいじらしく濡らした指を、小さな割れ目から窪みへと呑ませると身を拗らせながら吐息を漏らす。 「っぁ...もう...慣らしてるから、早く挿れちゃってよ。」 入れた先は既に唾液なんて必要ないほどにぐちゃぐちゃに濡れて、指を増やしても全て飲み込んでしまうほど柔らかく直ぐにでも俺のモノを迎え入れる事が出来そうだった。 「本当にエッチな身体してますね。いつもこんなにびちょびちょになっちゃうんですか?」 驚くほど十分に解れたナカを、ただ悶える姿が見たいという理由だけで更に溶かしていく。 快感を誘う場所は、身を持って知っている。 くいと、戸棚でも引き出すように快感のきっかけを引き出すとゴムを弾いたような声が漏れる。 「っあ..!!」 驚き、捏ね回していた手を止める実喜に等間隔にその手を引いてナカの快感の膨らみを押し上げる。 その膨らみを押せば表面のモノも一緒にピクリと跳ね、集中力を切らした手がお粗末に動きを悪くしていく。 「ぅ、っん、あっ、はゃ、くっ...、焦らさ、ないでよ...!」 いよいよ手を止めた実喜の手を上から重ねて扱く手を動かす。 高さの違う双頭が合谷から見え隠れする姿を見ながら、開いた口をそのままに感情のままの喘ぎ声が漏れる。 「ココがいいんですか?2箇所同時に触られてドロドロになって、顔もこんなに緩ませて。実喜さん本当に変態ですね。」 「っあ、あんっ...、そこ、すき、っだよ...ん。」 眉尻の下がりきった実喜が小さく震えながら、喜色を隠しきれない表情で口の端を結ぶ。 わざとらしく立てる水音が、2人の吐息と実喜の喘ぎ声に混ざって自分自身も責める事の快感を徐々に感じつつあるのが奇妙だった。 互いに自分の立ち位置を理解して、その役に染まりきっているのを感じ取る。 「っはぁ、ん、イっちゃう...!」 「いいですよ。一回出して。そしたら後ろに挿れてあげますから。」 震えた内腿と同時に俺の背に回した手に力が入る。 2箇所とも責める手は緩めないまま、眉を顰めたり緩めたりと、ころころと変わる実喜の表情を眺めながら中を押し摩る。 「んんぁ...!出るぅっ...!....っッぅ‼︎」 俺の肩口で声が出ないように口を押さえた実喜は中を弄り始めてそう間もなく、一度目の射精を迎えた。 背がビクビクと跳ねて、腿がギュッと俺の体を締め付ける。 揺れる実喜のモノから吐き出された熱がかかった俺のモノに撫でつけ纏わせた。 力を緩めた実喜の両腿に手をかけて抱え上げると、軽い身体は難なく浮き上がる。 「えっ...?もう挿れるの...!?もちょっと、まって...!」 息が整う間も無く、抱え上げられた実喜が困惑する。 「嫌ですか?」 いつでも挿れられると、そう言うように門扉に手をかける。 「いや、じゃないけど...もうちょっと...」 「欲しがってたでしょ?」 ゆっくりと抱えた腰を落としていくと、ぬるりとした温かさに包まれていくのがわかる。 「っあぁ...!待っ、てっ...んぁ...。」 実喜も中も、ギュッと抱きついて心地の良い締め付けが俺を満たしていく。 「でも中はもう準備出来てますよ実喜さん。」 鼻で小さく笑いながら実喜が腕の中に沈んでいくのを見る。 「本当に...Ωなの?嶺緒くん...っ。奥まで当たって...思ってたより...ヤバい、かもっ....。」 実喜は余裕を失った表情で顰めた眉を真っ直ぐに、吐息を吐くと自然と腰を上擦らせながら小さく喘いだ。 「Ωですよ。でも今はあんたの望むαになる。」 嶺緒は実喜の丸めた腰を抱きしめ背を反らせると、顎を指先で掬いあげキスをした。 互いに開いた瞳に吸い込まれそうになりながら必死に舌を絡める。 「んンっ...!っはぁ...嶺緒くんの、入ってるのきもちい...。αだったらずっと、お仕事一緒にしたいくらい...。」 濃く輝くように見える嶺緒の目は、まるで瞳孔を広げ欲情したαのように見える。 実喜の中をゆっくりとかき回しながら舌でもぐちゃぐちゃに乱される。 優しくて、意地悪なセックス。 実喜の望んだセックスだった。 優越感に浸った嶺緒の目は自然に色を変え、容姿も目も、雰囲気さえもが実喜の目にはαにしか見えず、その手腕も初めてタチをやったとは思えない出来だった。 「俺はΩでもタチもやりますよ。」 Ωがタチ側をやるのは異例の事だった。 基本的にΩはネコ専門。 やっても、Ω同士のショーが稀にあるその時くらいだ。 でも、嶺緒ならやれると実喜はこの研修で確信した。 経験は浅くてもないセンスがそれを補っている。辰公が何を嶺緒に教えたのかは知らないが、嶺緒のそのセンスが人並み外れているのを実喜は身を持って感じた。 「...じゃあ、タチやる時は、おれも相手してね。嶺緒くんは...たっちゃんより優しくてイイや。」 「俺はあの人とは違うやり方で上に登ります。見といて下さい。」 先輩に宣言をするには余りにも近い距離で、互いに繋がったままで、辰公のことをよく知っている実喜に敢えて、違いをその身に感じさせると言っているように感じた。 額から流れる嶺緒の汗を実喜は触れると、拭ってふと笑みをこぼした。 「頑張って。嶺緒くんならできるよ。」 「俺の初めてのタチの相手は、実喜さんですね。まだ終わらないんで。中でイかせるまでは。」 頭をぶつけないように後頭部に手を当ててベットに押し倒す。 小さな気遣いに嬉しくなりつつも、宙に放り出された足の間に割るように入り込んでくる嶺緒が入りっぱなしのモノを奥に押し込む。 「っぅ...、急だなぁ....。いいよ、嶺緒くんのでイってみたい。」 優しい笑顔をむける実喜の胸にキスをする。 実喜の優しさが、今擦り切れた心に染みる。 身体はしっかり、上に登るための身体の使い方を、術を、覚えて、記憶している。 これを俺はただ、上手く利用してやるだけ。その為にあいつと一緒にいただけ。 拭われた汗が、まだぽたぽたと涙のように伝い落ちていく。 実喜が何も言わずにギュッと抱きつくと、「イかせて。」と耳元で囁く。 ゾクゾクと狩り立てられた心が、体を熱くして硬さを増したモノを徐々に動かしていく。 「ん...んぁ...気持ちいいとこ、あたって...、ん。」 自然と身体が、実喜の良いところを探りながら奥を突いていく。 実喜の甘い声が、俺をαだと錯覚させる。 「んっ、ぁあっ、ん、そこ、すき、んあっ...!」 実喜の声が自然と上がっていくのと同時に、激しく動かす身体全体から汗が噴き出してくる。 目の前の性と欲で覆われて、汗の粒が繋がりあって落ちていくのにも気づかず、キスして打ちつけて、息を切らした。 「っは...ぁっ....実喜さん..。」 自分の快感なんてほったらかして、うねって悶えるこの人を気持ちよくイかせたいと、それだけで心がいっぱいになって、激しさで心臓が跳ねているのか興奮で心臓が跳ねているのかわからなくなってくる。 「イくっ...、チカチカするっ...、あっ、や...ぁやばいっ...かもっ...!」 余裕なく眉を眉間に寄せて、声を出すと、先程よりも力が籠り、いく当てのない快感に四肢の置き場を無くして無作為に掴んでは震え始める。 「イって。実喜さん。」 「っあっ、れお、くっ...んあぁっアアァッ...‼︎」 俺の名を呼ぶと同時にしがみついた腕が俺の首を絞めて、腿が抱いて、腰が跳ねる。 「ぅあぁ...っいっぱい...お腹かかっちゃった...。」 出し切った後も数秒支えた腕の中でビクビクと余韻に打ち震える実喜の体液が俺の腹を伝い落ちていく。 とろりとした表情で見上げる実喜の前髪を上げてやると、額に軽くキスを落とす。 「っ....はぁー...っや...ば、かったぁ...。」 虚な目の実喜が俺の口に触れるだけのキスをすると、手を離して俺に身を委ねる。 2人で息を整えながら、見つめ合う。 「どうでした?」 「あはは、っ...どうでしたって。ヨかったよ。びっくりするくらい。」 「俺、タチできますか?」 「はぁっ...余裕でできるよっ...。表情も良かった。」 実喜が嶺緒の頬を撫でて笑む。 「良かったぁ....。」 安堵で力が抜ける。実喜を胸に抱いたままベットに沈むと、嶺緒の重さで実喜が呻き声を上げる。 「おもいぃーっ....!嶺緒くん、身体ベトベトだよっ...!洗いにいこっ...?」 胸が押しつぶされ曇った声の実喜が嶺緒の肩を押し返す。 「あぁ、ごめんなさい...気が抜けちゃって。」 実喜の背から抜き取った両手で上体を起こし立ち上がる。 疲れで立ったまま一息、大きく深呼吸をしていると、その姿を見た実喜が背後から抱きついてくる。 「どしたんですか?」 「本当にいい身体してるね。カッコいい。もう一回ヤれそう。」 イったばかりで息も整ったばかりの実喜が俺を見上げてにっこりと笑う。 「実喜さん結構性欲強いですね。」 困ったように眉を下げると実喜が嬉しそうに俺を風呂場まで押していく。 「疲れてそうだから次一緒にショー出るまで我慢してやるよ!」 一緒に風呂に入り、その日の研修を終えた。 最後まで実喜さんは優しくて、俺を気遣ってくれた。 最悪の日に、急な研修だったけどお陰で気持ちは救われて、俺は残りの1週間の研修も実喜さんと町田さんと難なく終えることができた。 そして俺は、念願のキャストとしてデビューを果たした。

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