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悪夢の呪縛 -1
付き合ってすぐの二人。
嬉し恥ずかし初えっちのはずが、病み増し増しの濃長エロに……
とはいえ、最後はいちゃラブばかっぽーです
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思い余ってキスして。絶対拒絶されると思ったのに、アッサリ受け入れられて。
通じあえたことにホッとしながら、夜毎魘された夢の話を恐る恐るしてみたら、似たような夢をお互い見ていたようだと分かって驚いて。
後味が悪いような、それはそれで運命のような。不思議な気持ちで互いに苦く笑って、あれはなかったことにしようと、互いに内に秘めることにしたのが、一週間近く前の話。
たぶん、晴れてお付き合いというものが、始まった関係になったと思うのに。付き合っている実感がないのは、たぶん、付き合う前と後でなんら変化がないからなんだと思う。
同じクラス、同じ部活。帰る方向も同じ。自転車で途中まで一緒に帰っていたのは、どさくさ紛れの告白よりもずっと前からのことだ。
帰り際に物陰に隠れてキス、みたいな甘酸っぱいことも起きない。
キスしたのも、抱き締めたのも、あの日が初めてで、あの日からしてない。
あれからもう一週間も経つし、土日だって挟んだのに。
(なんだかなぁ……)
はぁ、と深い溜め息を1つ。
普通の男女だったら、もっと違ったのかもしれない。
人目も気にせずに手を繋いで帰ったり、大人の目を掻い潜って自転車に二人乗りしてみたり。そうして別れ際、照れる彼女にそっとキスする、みたいな。
(…………なんの漫画だ)
あまりにも乙女チックな妄想に、頭を抱えて机に突っ伏した所で、肩にぺしん、と軽い衝撃。
「いい度胸だなぁ、沢本。授業中にニヤニヤ笑って百面相してると思ったら、今度はお昼寝か?」
ニヤリと笑った教師の台詞に、クラス中がどっと沸いて。すいません、と苦笑いで頭を掻くオレを、ナニやってんだ、と呆れた顔で見てくるヨウの目が冷たい。
お前のせいだよっ、なんてイライラしながら、頭を掻いていた手を下ろす。
ふぃっと視線を外したヨウの後ろ姿を、まだイライラと見つめながら、いつのまにやら満杯になっていた黒板の文字をノートに写そうとシャーペンを持ち上げたけれど。
さっき見たヨウの呆れ顔が、目の前をチラついて離れてくれなくて。
(くそっ……)
こんなことなら、あの日あのまま押し倒せば良かったと心の中で悪態つきながら、バキボキ折れるシャーペンの芯にイライラして、結局書き写すことを放棄した。
放棄した授業が終わって昼休みに突入した騒がしい教室の中で、いつものように弁当をぶら下げてオレの席まで歩いてきたヨウが、いつも通りに近くの椅子に座って弁当を広げる。
だけどいつもと違って呆れた顔したヨウは、箸を持ったくせに弁当に手もつけないで、偉そうに説教垂れてきた。
「百面相してお昼寝って、お前何やってたんだよ」
呆れたままの顔と声がぼやくのを、ちら、と見たけど。別に、とぶっきらぼうに返して、弁当箱で顔を覆う勢いで昼飯をかっこむ。
「……機嫌悪いな、なんだよ」
呆れ顔に混ざった苛立ちに、気付いたけど気づかない振りをして。
「なんでもない」
「……」
切って捨てた会話の糸口を見つめたヨウの目が、ほんの少しだけ歪んだ気がしたけど。
「…………あっそ」
ふて腐れた声で放ったヨウが、食べきってない弁当を畳んで席を立って。
「……」
どこ行くんだよと、言いたいくせに唇を噛んだオレを。見下ろしたヨウも、結局は何も言わずに自分の席へ戻って、弁当を広げ直す。
惨めったらしく見つめるくらいなら、ごめんと謝ればいいのに出来なくて。悔しく唇を噛んで弁当を睨み付ける。
「ぉっ、なんだよ一人で弁当とか、珍しい。喧嘩か?」
「うるせっ」
近くにいたクラスメイトのからかう声にさえ苛立ったままの声を投げて、わしわしと弁当を平らげた。
*****
シュウはオレよりも後ろの席に座ってるから、アイツの顔を授業中に見ることは基本的にない。
だけど今日は違った。
教壇に立っていた教師が、いきなりスタスタと歩いていった先はシュウの席がある方で。誰よりも早く後ろを振り返ったら、シュウが頭を抱えて机に突っ伏していて。
アイツはナニをやってんだ、って思わず立ち上がりかけたものの。
結局、オレが何かするよりも先に肩を叩かれたシュウが、照れ臭そうな不満顔で頭を掻いて事なきを得た。
なにやってんだよと心配と呆れでシュウを見つめていたら、一瞬、視線が交わって。
驚くほどイライラしたその視線に一瞬怯んで、思わず視線を逸らして体ごと黒板に向き直った。
何かしてしまっただろうか。
いや。考えてみれば、あの日キスされて以来、何もなかったような気がする。
土日も挟んだのに何かした覚えがないというのは、付き合いたての関係的にどうなのかと、オレまで頭を抱えそうになりながらジリジリと過ごした授業の後半は、何をしていたのかもサッパリ覚えていない。
ミミズがのたくった跡のような字が並んだノートを、見なかったことにしてそっと閉じて、弁当抱えていつものようにシュウの席へ行った昼休み。
なのに妙にイライラして不機嫌なシュウにつられて、オレまで苛立って。結局は自分の席で食べた弁当は、息苦しくて美味しくなくて、結局半分以上手付かずのままで蓋を閉めることにした。
(……なんなんだよ……)
シュウのやつ、と悔しく呟いて、泣きたがる心を叱り飛ばす。
予鈴が鳴るまでの時間は、いつもならシュウと、他愛もない会話をして過ごすから。いざ一人だと何もすることがなくて、戸惑ってしまう。
いつからか、いつの間にか。
シュウが、傍にいるのが当たり前になっていたんだなと、淋しく笑うしかなかった。
*****
「何やってんだお前らァッ」
部長の怒声が響いた体育館の片隅。
体育館に揃っていたバドミントン部員を含め、その場にいた生徒全員が竦み上がるほどの怒声の真ん前で、ラケット片手に憮然としたシュウと、悔しげに唇を噛んだヨウが、並んでお説教を食らっていた。
「どないしたん、あれ……」
そんな二人を心配そうに見つめて呟いたのは、ヨウと特に仲のいい優希だ。どうやら掃除当番だったせいで出遅れたために、事の経緯が分からないらしい。
声を聞き付けた後輩二人が、部長の目を盗むようにこそこそと優希の側へ寄ってくる。
「大会近いのに、なんか先輩達チームワークがたがたなんですよぉ……」
「あれは部長じゃなくても心配なる」
心配そうにぼやいた健斗の言葉に、うんうん頷きながら言葉を足した久保が、やはり心配そうにシュウとヨウに目をやる。
「今まで二人があんなにバラバラだったことなかったのに……」
「ね、なんか変だよね。なんかあったのかなぁ……」
二人を見つめたまま心配そうに会話を続ける健斗と久保の肩を叩いた優希が、眉を下げた優しい困り顔で笑う。
「なんとなく理解した。とりあえずお前らは戻れ。どうせあのお説教は長いから」
「でも……」
「えぇから戻れ。お前らも怒られんぞ」
「……」
な、と困った顔のまま笑う優希にもぞもぞ頷いた二人が、またこそこそとコートへ戻っていく。
「……ほんならまぁ、助け船出しに行こか」
やれやれ、と小さな溜め息を吐いた優希は、肩を回しながらシュウ達の方へ歩いていった。
「コンビ言うたって、波が合う日ぃ、合わへん日ぃはあるやろな。今日はあんま合わん日ぃやったんやろ。あんまガミガミ言うたんな」
「ンな甘いこと言っててどうすんだっ! 大会だって近いし、だいいち、こいつらはウチの」
「主力やけども。しゃあないやないか。人間だもの」
「お前はどこの『みつを』だっ」
「ぉっ、分かっとるねぇ。さすがやねぇ、文武両道」
ょっ、と茶化して拍手した優希に顔をしかめた真一が、何か言おうと口を開く前に。
優希は二人の顔を見つめて、やや固い口調で言い放った。
「もう今日はお前ら帰れ」
「なっ、おまっ、勝手に!」
「えぇから。ほんで、ちゃんと話せぇ」
「話……?」
「なんかあった顔しとる。ちゃんと二人で話して解決せぇ」
言われたヨウは、そっとシュウの顔を伺ったけれど。シュウはふて腐れた顔で、微妙にヨウから視線を逸らしたままだ。
「……明日もおんなじやったら、次こそ部長に最後までお説教してもらうからな」
どうも二人の空気がおかしいと、感じ取ったらしい優希が咄嗟に放った台詞に、やっとシュウがヨウの方をチラりと見て。
「…………行くぞ」
「行くってどこ----」
「いーから!」
「ちょっ、シュウ!」
ぐい、とヨウの腕を引いたシュウが、ズカズカ歩いて体育館を出ていく。
パンパンと手を叩いて、二人の姿をぽかん、と見送っていた部員達の視線を回収した優希が、ほら部長、と促す。
「っぇ?」
「ボーッとしとらんと。大会近いて言うたん自分やで」
「ぁ、……あぁ、そう、だよな」
そうそう、と笑った優希が、ありがた~いお言葉くれんのやろ、と無茶ぶりして部員達を近くへ呼び寄せながら。
「…………くそっ、オレかてヨウのこと狙っとったのに」
そう呟いたことは、幸い誰にも気付かれなかった。
*****
「ちょっとシュウ! どこまで行くんだよっ!」
「……」
「痛いから離せよ!」
ぐいぐい腕を引いたまま、無言でずんずん歩いていくシュウに喚いてみても。
シュウは無言のまま、こっちを見もしない。
「……ンだよ……」
泣きそうだ。
昼は不機嫌なシュウに翻弄されて、一人淋しく過ごして。
部活ならきっと、二人で呼吸あわせなきゃだしちゃんと話せると思ってたのに、目もあわせてくれなくて。
挙げ句怒鳴られて帰らされて。
話してくれるのかと思ったら、無視したまま。
「離せよっ……離せ!」
腕を掴む手のひらを、押し退けようとしたら。ようやくこっちを振り向いたシュウが、なんだよ、と。
泣き出しそうな声で呻くから驚いた。
「しゅう……?」
「そんなに嫌なのかよっ」
「ぇ?」
「オレがっ……触ったら嫌なのかよっ」
「ちょ、待て……何言って……?」
「ンなんだよっ……オレら付き合ってんじゃないのかよっ」
「ちょっ、ばかっ! そんな話ここですんなっ」
まだたくさんの生徒達の目がある放課後に、とんでもないことを叫びかけたシュウの口を慌てて塞いで。
「~~っ、こっち!」
今度は逆にズルズルとシュウを引きずって、校舎の裏に引っ込む。
ムスくれた、というよりも、泣くのを我慢している幼稚園児のような顔をしたシュウの前に立って、ようやくまともに顔を覗き込んだ。
「で? 何だって?」
「…………ホントに付き合ってんの、オレら」
「…………何言ってんだよ?」
ふて腐れた声でボソボソ呻くシュウは、駄々を捏ねる子供の顔をしている。
「だって! ……全然………」
「全然……?」
「あれから、全然……変わってないじゃん。……あれから、全然…………ヨウに、触ってない」
「お前、そんなこと……」
そんなことで拗ねてたのかと、なんでもないフリして呆れようとしたのに。
シュウは、傷ついた顔でオレの両腕を掴んだ。
「そんなことじゃない!」
「ぃって……」
「そんなことなんかじゃないっ!!」
「いた、い、から……はな、せ……」
とり憑かれたみたいな顔してぐいぐい近づいてくるシュウから、目を逸らしながら両腕を掴む手を振り払おうとするのに、力は弱まるどころかむしろ強くなって。
「お前は……っ、オレのこと好きなんじゃなかったのかよ!」
悲鳴みたいな声で呻いたシュウが、泣き出す寸前の情けない顔をするから。
ギクリと心臓が跳ねて、オレまでつられてオロオロする。
「ぁ、……だって……お前だって……なんも変わってないじゃんか……」
「……だってヨウが全然変わんないから……」
「ンだよ……オレだって、シュウが触ってこないし……連絡だってしてこないし……っ」
微妙に視線を外してモゴモゴ呟いたら、腕を掴んでいたシュウの手に、ぐ、と力が入って、顔が近づいてくる。
「触っていんなら言えよっ!!」
「ちょっ、だからって、こんな」
こんなとこで、と言おうとした声は、荒ぶる唇に塞がれて。やけにねちっこくて熱くて、誘うというよりも無理やり犯すみたいな舌に隅々まで探られた。
「ちょっ……ンッ……しゅ、」
離せと抗うつもりの腕は、シュウに捕られたままだ。
食いつくさん勢いでオレを食べようとするシュウの唇は、どんどん荒っぽさといやらしさを増していく。
飲み込みきれない唾液が、唇の端を伝っていくのが、こしょばくてゾクゾクして。
体がふるふる震えてるのは顔を拭きたいからで、それ以上でも以下でもない、なんて。自分に言い聞かせてたら。
「----もっと……」
シュウが甘えるようなねだる声でうっとり囁いて、オレを捕まえてた手をやっと離して、オレの顔を両手で挟むみたいに頬に触れてきた。
突き飛ばすチャンスは、手に入れたのに。
オレの手は、弱々しくシュウの胸に触れて。練習用のユニフォームを、きゅっと掴んだだけだ。
「しゅぅ……」
零れた声は、自分のじゃないみたいに蕩けて甘くて弱々しい。
その声を聞いたシュウが、きゅ、と目を細めて幸せそうに笑う。
「ヨウ」
無邪気な子供みたいな声で呼んだシュウが、キスはやめないまま、ぎゅっとオレを抱き締めるから。
へにゃへにゃになったオレの足では支えきれなくなった体をシュウに預けて、止まることのないキスの嵐を受け止めていた。
くったりとオレにもたれ掛かってくるヨウが、愛しくて堪らなくて。
勢いに任せてユニフォームの裾から手を入れたところで、ばかっ、とヨウが全く力の入ってない体で、ジタバタ暴れ始めた。
「や、めろって……っ!」
「だってもう我慢出来ない」
「バッ……っ!!」
熱く固く、どうしようもなく昂った己自身を薄いユニフォーム越しにヨウに押し当てたら。
大袈裟なくらいにヨウの腰が跳ねて、真っ赤になった顔が、泣きそうに歪む。
「ハジメテが青姦とか、いくらなんでも勘弁してくれっ」
じたばたもがくヨウが、嫌だ、と激しく首を振って、オレの体を離そうとするから。
「じゃあ」
「……?」
ごく、と。喉が情けなく鳴って。
恐々と見上げてきたヨウの目を見下ろしたオレは、一体どんな顔をしてたんだろう。
ぁ、と小さな声を漏らしたヨウは、怯えの色を滲ませながらも、真っ赤な顔のままで目を潤ませて、お互いの唾液に濡れて光る唇を薄く開いて喘ぐように荒い息をしていた。
「----ここじゃなかったらいいんだな」
*****
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