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第9話
夕方、仕込みのために開店時間よりも早くバイトは始まる。
零を連れて家を出ると、もう辺りは陽が落ちて真っ暗だった。
「寒いな。」
「……うん。でも、檸檬がコート貸してくれたから、へーき。」
「そうか?」
零に服を貸してやってるが、何せ20cmほど身長も違えば体格も違うから、服はブカブカだ。
まさかこんなところで、彼シャツのような類を経験するとは思いもしなかった。
しかも、男相手に。
「服デカいよな、ごめんな。」
「……んーん、これがいい。」
「そうなの?」
「ん。」
零は気に入っているようだから、まぁいいか。
バイト先について扉を開けると、カランコロン…と音がする。
「お疲れ様でーす。」
「おう、檸檬。と、昨日のガキ。」
「零だよ、店長。物忘れ進んだんじゃね?」
「うっせぇな。分かってるよ。」
「痛っ」
店長に小突かれ、頭をさする。
零は俺と店長のやりとりを見て、ぱちくりと目を見開いた。
「喧嘩……?」
「違う!大丈夫だから!」
「痛い……?」
「大丈夫だって。店長も本気じゃねぇから。」
心配そうに俺を見つめる零に、毒気が抜かれる。
俺が零と話してる姿を見て、店長は感心したように声を上げた。
「昨日の今日とは思えないくらい、話すようになったんだな。」
「あー、うん。それより店長、零雇ってくれない?」
「何がそれよりだ。そいつ未成年だろ。駄目だ、帰った帰った。」
「裏方でいいから!お願い!俺と勤務時間は一緒で!」
「お願いの割に条件つけてくるんじゃねぇよ…、ったく。こっち来い。」
店長は頭を掻きながら、俺と零を奥へ手招きした。
なんだかんだ、店長は優しい。
俺が「よっしゃ!」と声を出すと、零も「よっしゃ!」と真似して喜んだ。
見た目と言葉が合ってなくて吹き出すと、零は首を傾げた。
「おい、おまえらさっそくクビにすんぞ。」
「ごめんなさい!ほら行くぞ、零。」
「…うんっ」
零は俺に続いて、店長の待つ店の奥へ向かった。
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