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第11話

予想以上に零は手際や要領がよく、あっさりと裏方業務を覚えてしまった。 開店時間になって俺はホールに出たが、ちらちら様子を見に行っても困った様子はなさそうだ。 「あいつ、意外と手際良いな。」 「雇ってよかったでしょ?」 「おまえも想定外だったろ。」 「バレました?」 この調子ならクビになることはなさそうだ。 店長も感心した様子で、零の仕事ぶりを褒めている。 23時になり、俺と零の終業時刻になった。 「お疲れ様。また明日も頼む。」 「お疲れ様でした〜。」 制服から私服に着替え、冬の夜道を二人で歩く。 夜は格段に寒くて、コート1枚じゃ足りないくらいだ。 「さっむ……」 「…………くしゅんっ」 「大丈夫か?」 「……大丈夫。」 震えている零の手を握ると、驚くほど冷たかった。 まるで血が通っていないくらい、氷のように。 「冷たっ!まじで大丈夫か?」 「……うん、いつもだから……。」 「いつもこんなんだったら死ぬわ…。手袋ねぇしなぁ…。とりあえず、ここ入れとけ。」 零の手を握ったまま、コートのポケットに手を突っ込む。 俺は人より少し温かいから、ないよりマシだろ。 こいつと会ってから、周りの友達が彼女とするようなことの初めて、全部持っていかれてる気がする。 「自分がこんなことする柄だと思わなかったなぁ。」 「……どんなこと?」 「えー、言わない。」 「……意地悪。」 「おいおい、手繋いでもらっててそんなこと言っていいのか?離すぞ?」 勝手に俺が繋ぎ始めたんだ。 何の脅しにもなってなくて、自分で言っといて笑ってしまいそうになったが、零の手はギュッと俺の手を握る力を強めた。 「………ごめんなさい。」 「え?」 「………離さないでほしい。」 何だよ、それ…。 冗談だろ?と笑い飛ばそうと思ってたのに、零の目は真剣で、俺は言葉を失ってしまった。 無言で歩いていると、なんか照れ臭くなってしまって、俺は無理矢理話を切り出した。 「あー、この辺だな。零が倒れてたの。」 「…………。」 「びっくりしたんだぞ?俺、雨宿りしに路地裏入ったら、お前が倒れてるんだもん。すっげぇ焦ってさぁ…。」 「…………。」 「変なやつに見つからなくてよかったな。つっても、俺も零を部屋に泊めてるし、零からすれば十分変……って、どうした?」 突然零が立ち止まり、俺も立ち止まって振り返った。 零は泣きそうな顔で俺を見上げる。 「……助けてくれたのが、檸檬でよかった…。」 「おう……、そりゃよかった…。」 「……檸檬は、優しいね…。」 綺麗。 純粋にそう思った。 微笑んだ零は、今にも消えてしまいそうな、そんな儚さを持っていた。

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