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第13話

バイト先の歓迎会を終え、帰り道。 ジュースと間違えてお酒を飲んでしまった零は、俺の背中にべったりと引っ付いている。 アルコールに弱いらしく、そして甘え上戸だ。 俺にだけ、みたいだけど…。 「檸檬〜…」 「何?」 「いい匂い…」 「俺、食いもんじゃねぇけど。」 さっきからそればかりだ。 俺の首筋を嗅いでは、いい匂いだと伝えてくる。 香水とか付けてないんだけどな…。 「どんな匂いすんの?」 「檸檬の匂い…」 「いや、だからそれがどんな匂いだって」 俺の匂いって、そりゃ俺の匂いはするんだろうな。 レモン? いや、まさかな。 レモンどころか柑橘系の香水さえ付けたことはない。 「檸檬の匂い、好きぃ…」 「そりゃよかった。」 「おうち、遠いねぇ。」 「お前背負ってるから、いつもより歩くの遅いんだわ。」 「重い…?」 「いや?軽いよ。」 前に骨と皮しかなくて心配して体重計に乗せたら、40kgもなかった。 こいつに栄養を与えるという新しい使命を課せられた俺。 でも食が細くて、全然食わないんだよな…。 「零。」 「なぁに…?」 「俺のこと安心させたいなら、ちゃんと食ってくれ。」 「食べてるよ…?」 「少ないんだよ…。小動物か?」 零なりに頑張って食べているのは知っているけど、軽さを実感するたびに心配になる。 「零が消えてしまいそうで怖いよ、俺は。」 「どうやって消えるの?」 「なんかこう、軽すぎて消えちゃいそうじゃん。何て表現したらいいかわかんねぇけど。」 「ふふっ…!檸檬、変なの。」 「たしかに。何言ってんだろうな、俺。」 鈴を転がすような零の声が、俺の耳を擽る。 なんかアレだ、癒し系のペットみたい。 甘えたで可愛くて、そばに置いておきたいこの感じ。 「零、絶対に出て行くなよ。」 「ん…。なんで急にそんなこと聞くの?」 「なんか離れたくねぇなって思っただけ。」 そう言うと、零は俺に回した腕にぎゅっと力を込める。 「檸檬が迷惑って言わない限り、出て行かない。」 「じゃあ俺が言わない限り、離れんなよ?」 「うん。約束。」 小指を差し出すと、零は俺の小指に自分の小指を絡めた。

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