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第19話
「おかえり。」
「ただいま。」
家に帰ると、リビングで零がパズルをしていた。
この前俺がいない間の暇つぶしにと、1000ピースのジグソーパズルを零にプレゼントした。
「結構できたじゃん。」
「でも、まだ半分だよ。」
完成したら額縁に入れて飾るらしい。
それ用の額縁も、ジグソーパズルと一緒に買っておいた。
「そういえばさ…」
「ん?何〜?」
「零は恋したことある?」
「ゴホッ……、えっ…?」
俺からのいきなりの質問に驚いたのか、零は咽せて聞き返してきた。
いや、逸させないけど。
「したことある?」
「ある………けど………。」
「あるんだ?」
「そ、それより檸檬は?」
「ん?」
「檸檬は……、恋したことあるの…?」
聞いておいて何だけど、零は恋愛なんてしたことないと思ってた。
俺と同類だと思ってたのに、裏切られた気分だ。
いや、俺の勝手な決めつけだから、決して零が裏切ったわけではないが。
「俺はないんだよなぁ。」
「えっ…、今まで一度も?」
「うん。今日さぁ、俺は恋したことないからアイスバースの良さが分からないんだって言われて……」
「へぇ〜…。」
零はホッとしたような、安心したような顔で俺に相槌を返す。
「あながち嘘じゃねぇのかもな。アイスバースで号泣してた零くんは恋愛経験済みみたいだし?」
「べ、別に僕だって…、その……、最近初めてしたっていうか……」
「えっ?!」
零のまさかのカミングアウトに、俺は身を乗り出した。
最近初めてしたってことは、俺の知ってるやつか?
零と会った女って誰だっけ?
バイト先や大学の友人を高速で頭の中に思い浮かべる。
「先輩か?!」
「違うよ…。てか、詮索しないで!檸檬の馬鹿っ!」
「馬鹿ってなんだよ…。気になんじゃん。」
「教えたくないもん。」
「じゃあ、恋愛ってどんな感情?それだけ教えて。」
「どんな感情、かぁ…。」
零は「うーん…」と顎に手を当てながら考えた。
答えを待っていると、零は嬉しそうな顔で話し出した。
「えっとね、その人のことを思うとドキドキする。そばに居たいって思うし、触れられると嬉しい。一緒にいると安心するし、離れたくないなぁって思う……かな。」
「ふぅん。」
何だよ。
俺は名も知らぬ誰かに嫉妬した。
零にそんなふうに思われるのが、俺じゃないことにイライラした。
「風呂入ってくる。」
「え、急に?」
「悪いか?」
「いや、もう話いいの?」
「うん。いいや。」
俺は零に八つ当たりしてしまうことを恐れて、風呂に逃げた。
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