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第20話

「何なんだよ、零のやつ…。」 湯船に浸かりながら、俺はぶつぶつ文句を言う。 零の好きな奴かぁ…。 あんな幸せそうに話すんだ、相当好きなんだろうな…。 「その人のことを思うとドキドキする……。んー……。」 ドキドキ?はしねぇけど。 そばに居たいって思うし、触れられると嬉しい。 一緒にいると安心するし、離れたくないなって思う。 ドキドキ以外は、俺が零に抱く感情そのものだ。 「俺が零を……?いや、まさかな…。」 男同士だぞ?ありえねぇって…。 そう思うのに、零の恋する相手に沸き立つこの感情は俺でもわかる。 "嫉妬"だ。 今まで感じたことのない醜い感情。 「……んで、俺じゃねぇんだよ…っ……」 俺は悔しくて水面を叩いた。 零の想う相手が俺だったらいいのに。 あぁ、これって……。 もう認めざるを得ないんじゃないか? 「俺……、零のこと好きなんじゃん……。」 初めて知った。 こんなにも高揚して、そしてこんなにも絶望する。 そばに居るのは俺なのに、あいつが想うのは俺じゃない誰か。 初恋相手が男で、しかも自覚した時には失恋してるだなんて、昔の俺が知ったら泣くだろうな。 「クッソ……。あー……、悔しい……。」 俯いて、自分の前髪をぐしゃりと握る。 俺はいつから零のことが好きだったんだろう? きっと、俺が馬鹿で気づかなかっただけで、もしかしたら零が誰かに恋をするより早く、俺が零に恋をしていたのかもしれない。 さっさと自覚して思いを伝えていれば……。 なんて、たられば話で、そもそも俺は男だから気持ち悪いと思われるだけ…か……。 「檸檬〜、大丈夫?」 「あ、あぁ。」 脱衣所から零の声が聞こえる。 普段長風呂しないから、心配して声をかけにきたんだろう。 今、零の顔見たら、気づいてしまった自分の気持ち、隠し通せる自信がないな…。 それに、今の俺は零を傷つけてしまうかもしれない。 「零」 「なぁに〜?」 「出て行ってくれ……。」 「え、なんて〜?聞こえなぁい。」 零は浴室の磨りガラスに耳を当て、俺の言葉を聞き取ろうとしていた。 俺はドアを開け、零に伝える。 「出て行ってくれ、零。」 「…………え?」 一度距離を置きたかった。 初めて抱いたこの感情を抑えて、今まで通り零と友人として過ごすと自分に言い聞かせたかった。 そのための時間が欲しかった。 零は俺の言葉の意味が飲み込めず、きょとんとした顔で俺を見上げていた。 しばらくすると、顔を真っ青にして、涙を流して俺に背を向けた。 「おい!零っ…!」 零は何も持たずに家から飛び出した。

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