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第21話

コートも羽織らずに飛び出して行った零を追いかける。 違うんだ、こんなつもりじゃなかった。 ただ少し距離を置きたかっただけだ。 正しい距離を保てるように。 店長に連絡して、迎えにきてもらって、数日零を預かってもらおうって、そう思ってただけなのに。 「零!零、どこだ…っ?!」 外はもう暗くて、いつの間にか雪が積もっていた。 しんしんと雪が降り、まるで零と出会ったあの日のように視界が悪い。 「零っ!零…っ…!!」 叫んでも、零の返事は聞こえてこなかった。 周りの人は、不思議そうな顔で俺を見る。 そりゃそうだ。 街中で、こんな雪の中、薄着で叫びまくってる奴なんか俺くらいしかいない。 でも、周りの目なんか全く気にならないくらい、俺は必死だった。 「零…っ!」 零を助けた路地裏の前に、レモンのキーホルダーが付いた鍵が落ちていた。 俺の家の、零にあげた合鍵だ。 「落とすなつったのに…、あの馬鹿…っ」 路地裏に入っても、零の姿はなかった。 もっと奥だ。 路地裏を進み、反対側に出る。 初めて来た場所。 雪でいつもと景色は違うんだろうが、大通りよりかなり人気(ひとけ)のない静かな道。 少し歩いたところに、人影が見えた。 消えかけの電灯に照らされた、小さな公園。 そこに零は座り込んでいた。 「零!!」 「………檸檬?」 零は顔を上げて、目を丸くした。 また泣いたんだ、目元が赤い。 泣かせるつもりじゃなかった。 傷つけたくなくて…、いや、もしかしたら俺は自分が傷つきたくなくて、零に酷いことをしてしまったのかもしれない。 「焦った……、本当に。」 「ごめん…。だって、檸檬が出て行けって言うから…。」 「違うんだよ。言葉の選択ミスった。うん、出て行かなくていいから。」 「本当…?」 「うん。本当。ごめん、驚かせて…。」 そう伝えると、零はホッとしたように息を吐いた。 「零、俺の気持ち、伝えてもいいか?」 「…………??」 「さっき考えてて、やっと分かったことがあるんだ。」 零は嫌がるかもしれない。 気持ち悪いと軽蔑するかもしれない。 この気持ちを伝えたら、もう元の関係には戻れないかもしれないけれど。 それでも初めて抱くこの気持ちを零に伝えたいと、そう思った。

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