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「龍巳さん、話があるんだけど」 「……」 「俺の両親を殺したのって、龍巳さんのお姉さんなんだって?どうして嘘をついたの?」 「……」  助手席に座る龍巳から返事はない。当然だ。眠っているのだから。  滉一と共に調べてから数日後、両親の死の真相は思ったよりあっさりと、しかし衝撃的な事実として明らかになった。  龍巳の姉である怜子は、24年前の夏、当時まだ16歳だったのだが、中絶手術をした。その子どもの父親については詳しく記されていなかったが、どういうやり取りが交わされたのかは想像に難くない。  そして、その結果怜子は精神的にダメージを負い、自宅に籠りがちになった。そんな怜子をどうするか両親は扱いに困ったらしく、仕事に没頭して家を空けることが多くなり、家には弟の龍巳と怜子の二人でいることが多くなった。  そんな暮らしが一年ほど続いた後、事件が起こる。龍巳が学校から帰宅すると、怜子の姿がなかった。台所の小型ナイフがなくなっていることに気が付いた龍巳が慌てて怜子を探しに行くと、家から数百メートルほど離れた交差点で発見された。  若い男女が折り重なるように横たわり、血の海となっているのを見ながら、立ち尽くす怜子。その腕には赤ん坊が抱かれていて、それが暁だった。  怜子曰く、暁は「産まれなかったはずの私の赤ちゃん」で、暁の両親である二人は「私からこの子を奪った誘拐犯」だと言い張る。その後彼女は、少年院に送られた後に、職員の目がない時に自殺を図ったという。  ただ、暁がなぜ両親の親類でなく、龍巳に引き取られたのかは分かっていない。分からない点はあるが、もう、いいのだ。   「海が、綺麗だね。龍巳さん」  気が付けば、いつかの崖に来ていた。あの日は天候が荒れていて分からなかったが、今晴天の下で見ると、地平線の向こうまで広がる海を見渡すことができる。 「龍巳さん。俺ね、不謹慎だけど嬉しいんだ。龍巳さんが本当の父親じゃなかったこと。本当の父親みたいに大事にしてくれたこと。だから、恨んでないんだ」  だけどさ、と続けながら、未だ眠り続ける龍巳の座席を倒し、自分を何度も犯した股間に手を当て、つ、と撫でる。 「俺が龍巳さんを殺すか、檻に入れるか、どちらも選べるわけないのに、それをすると思っていたのが許せな……っん……」  突然、眠っていたはずの龍巳が目を開き、暁の後頭部を引き寄せて唇を奪った。 「っん……、んぅ……」  荒々しく貪られたかと思うと、酸欠寸前になった暁を運転席のシートに押し倒そうとして。  高いクラクションが鳴り、二人してギクリと動きを止めた。そして一瞬見つめ合った後、二人揃って噴き出す。 「……後ろ、行こうか」 「そうだな」  暁の提案に乗った龍巳は外に目を向け、眩しげに目を細める。 「断崖絶壁でこんなことをするのは、俺たちくらいだな」 「そうだね」  また笑ってしまいそうになると、頭を小突かれた。 「いたっ」 「さっき睡姦しようとしただろ。それに今朝、絶対飲み物に何か混ぜたんじゃないか?眠くて仕方ないんだが」 「だって龍巳さん、放っておくと何日でも徹夜してガラス細工作ってるからね。大丈夫、致死量は超えてないから」  笑えない冗談を言ったはずが、今度は思い切り声を上げて笑われた。  こんな顔をして笑う龍巳を見たのは初めてのことで、ぽかんと見つめてしまっていると、龍巳はくいっと後ろを親指で差した。 「ほら、早くヤラせろ」 「ヤラ……って、もう服脱がせにかかってるし」 「お前がいつまでも後ろに行かないからだ」 「ぁっ、ちょっ……」  ふざけ合っているうちに、龍巳はあっという間に暁の服を脱がせた。それも、下半身だけ丸見えというなんとも恥ずかしい格好だ。 「ちょ、何こ……れっ……ひゃ……!?」 「ふきあり……」  龍巳は隙ありと言いたかったのだろうが、ぱくりと露出された暁の性器を口に咥えたせいか、言葉がくぐもった。 「ぁっ、あ……んンッ……」  鈴口を嬲られながら丁寧にまんべんなく刺激を与えられ、高い矯声を上げるしかなかった暁に、龍巳は一旦口を離して囁いた。 「そのまま聞け」 「んっ?……な、に……ぁっ」  話をするために手淫に変えたらしいが、手の動きは熱心で暁の興奮を高めるのに余念がない。そんな状態で十分に聞いていることはできるはずがなかったが、龍巳の声はしっかりと届いた。 「暁、俺はな。死にかけのお前の母さんの頼みを聞いて、お前を姉さんから奪った時、お前が憎いとか、守らないといけないとか、いろんな気持ちがごっちゃになってた。でも、気が付けばお前を抱えて走ってた。今やっと、お前、が、俺にとって……」  途切れがちになっていた言葉がついにぱったり途絶え、龍巳は暁の方に倒れかかってきた。 「龍巳さん、俺も」  安らかな顔をして眠っている龍巳の額に唇を落とし、睡姦をしようか迷いながら、暁の口元には笑みが浮かんでいた。

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