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第5話 花のような(9/9)
俺が両手をルスのズボンに伸ばせば、ルスは自分から服を脱いだ。
「お前も脱げ」と言われて、俺はまた「ムードってもんがあんだろ……」と呟く。
「ふむ……。だが、お前はそんなもの無くても、十分感じてるんじゃないか?」
ルスは、からかう風でもなく真面目にそう言った。
うぐ、……その通りだよ……。
お互いの物を至近距離で互いに擦り合えば、自然とそれらは触れ合った。
あ、そういやこんなやり方あるよな。確か……。
と俺が考える間に、ルスが俺のと自分のを二本纏めて握った。
「どうせなら一緒に擦れば、一緒に気持ちよくなるんじゃないか?」
あー、うん。まあそうなんだが、なんかその発想の仕方、合理的だなー……。
と、思った次の瞬間には、熱いルスの物と共に擦られた。
うぁ、何だ、これ、ちょっと……。
ぬち、と音を立てて、互いの先走りが混ざり合う。
姿勢の位置が違うのか、長さが違うのか、ちょうど俺の物のくびれにルスの先端が引っかかって、擦られるたびに行き来する。
熱い手の中に包まれ扱かれて、ルスの硬い感触が直に伝わる。
っ、思ったより、気持ち、いいな……。
「はぁ……」と熱を逃すように熱い息を吐くと、ルスの精悍な太い眉がぐ。と寄せられた。
あ、感じてんだ。
俺のと一緒に擦られて、俺と一緒に、感じてんだ……。
ごくりと、喉が鳴る。
なんか、腰振りたくなってくるなこれ……。
ルスのペースで扱かれて、思い通りにならないもどかしさを感じつつも、頭の隅では、ルスが一人でしてる時って、こんな感じなのかな……と私生活を覗いているような僅かな背徳感を感じる。
もどかしさから零れる俺の雫が、ルスの手を徐々に濡らしてゆく。
ルスの、分厚くてあったかい手が、いつも力強く剣を振るあの手が、俺ので汚れて、ぬらぬらと光っている。
その手で俺のものが扱かれている。ルスのと一緒に。
優しく、どこか大事そうに。
ルスの息が、ほんの少しだけ上がっている。
小さな水音が、グチュグチュと静かな部屋に響く。
同じペースで動いていたルスの手が、僅かに乱れた。
「っ、イって、いいか……?」
ルスの声は、少し掠れていて、色っぽい。
「ん、いーよ……、……つか、俺も、イキそ……」
こういうのって、一緒にイけるもんかな。
よっぽど同じように気持ちよくなんねーと無理だよな。
ああでも、俺……、ルスと一緒にイきてぇな……。
頭がぼうっとして、でもじんじんと快感だけが上がってくる。
ルスに擦られてるとこの感覚だけが、やたら鮮明で……。
ルスからは、汗の匂いに混じって、革と金属の臭いがする。
足が立たなくても、甲冑着せられてんのかな。簡易甲冑かな……。
ルスの簡易甲冑姿とか、もうずっと見てねぇな。
旅人風で、ちょっと野生的に見えて、結構似合うんだよな……。
不意に、速度が上がる。
ゆるゆると与えられていた快感が、一気に倍増する。
「……ぅぁ……」
思わず小さく声が漏れる。
ちょ、ま……っ、俺のが、先に、イきそ……っっっ。
必死で堪える俺のすぐ近くで、ルスの低い声が、短く吐き出された。
「イクぞ……っ」
それは号令のようで。まるで、お前もイけと言われた気がして。
その言葉に促されるように、俺の下腹部に急激に熱が集まる。
ずくん。とルスのものが小さく震えると、俺のも同じように脈打った。
「くっ……」
ルスが喉の奥を鳴らすようにして声を漏らす。
俺も、息と共に小さく声を吐き出した。
「ぅ……ぁあ……っ」
ルスの手の内で、びゅくびゅくと精を吐く二本のそれを、ルスはゆっくり撫でさする。
じわりとルスの口元が緩む。
よく頑張ったな。とでも言うような視線で、どこか甘やかすように、ルスはそれが力を失うまで、そっと撫でていた。
「あー……。思ったより、良かったな……」
俺が感想を口にすると、ルスはどこか不敵に、男前に微笑んだ。
「そりゃよかった」
ん? 待てよ。俺が気持ちよくしてもらってどうすんだ?
焦りを浮かべた俺を、ルスが楽しそうに見る。
ルスは手早く体を拭いて、身支度を整えていた。
「俺も、悪くなかったな。お前が俺の手で感じて、どんな顔をするのか、よく分かった」
「……は……?」
俺は言葉を失う。
え……お、お前……、俺の顔見てたの、か……?
ん? 俺は……? そっか、ルスの手から、目が離せなくて……。
カチャ、とベルトを通す音がして、俺はハッと顔を上げる。
「帰るのか?」
ルスは立ち上がると、俺を見て苦笑した。
「すまんが、俺にも家で済ませたい用がある」
「用って……どんな用だよ……」
口を尖らせた俺に、ルスがほんの少し呆れた顔で笑う。
「拗ねるな。洗濯やゴミ出しだ。ほら、今東の森に討伐隊が出ているだろう。緊急の要請がないとも限らん」
「東の森なら、たいして強いのは出ないだろ」
「何事にも備えておくのが騎士の務めだろう?」
ちぇ……ルス、今夜は帰っちまうのか……。
俺が名残惜しく見上げていると、ルスは諦めたようにため息をついて苦笑する。
「……そうだな。近いうちに引っ越すとするか」
「引っ越し?」
「俺がお前のとこに行くでも、逆でもいい。お前はどうしたい?」
「!!」
つまり、一緒に暮らそうって、言ってくれてんのか、これ!?
「お、俺は、えっと……!」
慌てる俺に、ルスはコツコツと杖を付いて寝室を出ながら優しく笑って言う。
「まあ明日の間にゆっくり考えておいてくれ。明日の朝食と昼までは買ってあるからな。夜にはまた何か買ってこよう。食べたいものはあるか?」
ルスがテーブルの上の紙袋を指す。後ろをついてきた俺は、ここらの食べ物屋を思い浮かべながら答えた。
「んー。そうだな。ミートパイ食いてーな。あの角の店の」
「分かった。買ってきてやるから、明日も一日大人しくしておけ」
明日の三番隊の予定は……と、切り出され、仕事の話を二、三確認すると、ルスが尋ねた。
「薬は一人で塗れそうか?」
そういや、今日は昼も夜もルスが塗ってくれたんだったな……。
「俺、身体柔らかいから、余裕余裕」
言って両手を背中で組んで見せると、ルスが笑った。
「そうか。なら良かった」
俺に優しく口付けて、よく休むように言い含めて、ルスは帰って行った。
急に一人に戻った部屋は妙にガランとして寂しかったが、唇にはまだ柔らかな感触が、テーブルの上には明るい黄色と静かな青の花束があった。
「……ま、花でも眺めながら待つとすっかな」
明日も、俺のところに、ルスが戻ってくる。
そう思うだけで、俺の心は小さく弾んだ。
――けれど、翌日も、その翌日も、ルスは戻って来なかった。
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